世界に拓く「野間道場」

講談社社長 野間省伸

 野間道場が、 この音羽の講談社の敷地に建てられて、 今年で76年になります。
 一時閉鎖された時期はありますが、 年中無休で朝夕の稽古に日本中から訪れた剣士が、 この道場で汗を流し、 人生を語らってまいりました。
 初代講談社社長であり、 私の祖父である野間清治の人生哲学の根幹は剣道にありました。
 長くなりますが、 「野間清治伝」 より引用させていただきます。
「武の目的は平和にある。 人と和し、 天と和す。 大なる此の調和が武の徳である。 (中略)一部は一部として完成し、 全部全身が我が心のままに渾然として最善を尽すと同時に、 ことごとくが、 一致協力して、 初めて立派な太刀となる。 (中略) これ渾然一体 (講談社の社是となっている) の和の力、 即ち瞬息、 心気力の一致によるものである。 『一部と全部』 の理法常にこれなるかなと感嘆するのである」 そして 「剣道の教えは、 剣のみに止まらず、 万法一法、 実は世上百般の教えに通じている」 即ち 「剣道のすべてが、 真に人間完成の至上道であることに気づくであろう」 と説いています。

 野間清治は剣道を修行の道とし、 剣道によってもたらされる大調和の世界を追い求め、 武の徳を広く説こうとしました。
 武の徳とは、 戈を止めることであり、「春秋左氏伝」の中で七徳ありとされています。 即ち 「夫れ武は暴を禁じ、 兵をやめ、 大を保ち、 功を定め、 民を安んじ、 衆に和し、 財を豊かにするものなり」 と説かれています。 野間清治の人生はこの顕現にほかならないといってもいいでしょう。
 野間清治は、 この大調和の世界を、 この野間道場で実現し、 世界に発進しようとしたのではないでしょうか。
 昭和19年に一時、 野間道場は閉鎖されましたが、 私の父、 野間省一はこうした精神を汲み、 昭和37年の秋に再開に踏切ったのでした。
 持田盛二先生 (十段)、 佐藤卯吉先生 (九段)、 増田真助先生 (九段) を中心に野間道場は戦前以上の活況を呈しました。 最近においても、 講談社剣道部をはじめ、 道好会の皆さまの努力により、 会員も400名を越えると聞いております。
 剣道も世界的になり、 平成9年には、 京都において、 第十回世界剣道選手権大会が行われましたが、 大会前後に、 チェコ、 イギリス、 スイス等の剣士が野間道場を訪れました。
 日本のみならず、 世界の剣士にとって野間道場で稽古することは、 大変な名誉であると聞いています。 嬉しいことです。
 父、 野間省一は 「世界に拓く講談社」 をモットーに、 出版を通して、 日本の文化を世界に紹介し、 世界の文化を日本に取入れ、 野間アフリカ出版賞をはじめ、 多くの事業を世界で展開してまいりました。 野間清治の説くところの 「世界の大調和」 に他なりません。
 野間道場も世界に拓かれた、 といってもいいでしょう。
 野間道場を訪れる、 日本の剣士の皆さま、 そして世界中の剣士の皆さま、 どうぞ、 野間清治、 野間省一のこの精神を忘れずに修行をつまれて下さい。