講談社文芸文庫作品一覧

往復書簡 『遠くからの声』『言葉の兆し』
講談社文芸文庫
1997年から1999年、オスロ・仙台と東京間で交わされた、『遠くからの声』。東日本大震災直後の喪失感の中で文学・人生・世紀末に思いを巡らせた『言葉の兆し』。

憂国の文学者たちに 60年安保・全共闘論集
講談社文芸文庫
冒頭に置かれた「死の国の世代へ」は「闘争開始宣言」という副題を持つ詩である。そこでは誰の保護も受けずに生きた個人のイメージが描かれる。
60年安保闘争での敗北を経て書かれた「擬制の終焉」では社会党や共産党などの党派的な左翼運動や市民・民主主義的な啓蒙主義を完全に否定し、真の前衛運動ないし市民運動の成長に期待を寄せた。
1969年、東大安田講堂に籠もった学生が警察力によって排除された直後に書かれた「収拾の論理」において、丸山真男に代表される大学の知識人の欺瞞を批判し、徹底的に論争を続ける旨宣言して結ばれる。
日本がバブル景気で沸き立っていた1988年に書かれた「七〇年代のアメリカまで」では、その後の東西冷戦終結でアメリカ合衆国が唯一の超大国となる……というあまりに単純化された物言いとまったく異なるアメリカへの視線が浮かび上がっている。
本書に収録された13篇がモチーフとするのは60年安保闘争や全共闘運動といった過去の出来事だが、むしろ執筆当時の文脈から切り離されて現代において読まれてこそ、個人と権力の関係をより切実に感ずることができ、その真価を発揮するものと思われる。

鳥獣戯画/我が人生最悪の時
講談社文芸文庫
「凡庸さは金になる。それがいけない。何とかそれを変えてやりたいと思い悩みながら、何世紀もの時間が無駄に過ぎてしまった」――28年間の会社員生活を終え自由の身となった小説家。並外れた美貌を持ちながら結婚に破れた女優。「鳥獣戯画」を今に伝える高山寺を興した高僧明恵。父親になる三十歳の私。恋をする十七歳の私。時を超え、主体を超え、物語は旋回していく。語りの力で何者にもなりえ、何処へでも行くことができる小説の可能性を、極限まで追い求めた谷崎賞作家最大級の野心作「鳥獣戯画」。単行本未収録の傑作短篇「我が人生最悪の時」を併録。自筆年譜付きの決定版。

外は、良寛。
講談社文芸文庫
淡雪の中にたちたる三千大千世界 またその中にあわ雪ぞ降る(良寛)
「僕は良寛を思索したことはない。いつも良寛を感じてきたのです」
日本人になじみ深い禅僧、良寛は希代の歌人、書家でもあった。
既存の論理や枠組ではとらえきれないその奥深い境地に独自のアプローチで迫る、これまでにない日本文化論。
目次
一、はぐれていく書
二、加速する無常
三、「はか」「ずれ」「あたり」
四、連音する連字
五、宝暦八年の少年
六、遊行の中の景気
七、塵は融通無礙
八、音を書く聞法
九、一二三四五六七
十、真から行して草々
十一、北方の中の決断
十二、なにかあやしき
解説 水原紫苑

久保田万太郎の俳句
講談社文芸文庫
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
神田川祭の中をながれけり
なにがうそでなにがほんとの寒さかな
小説家・劇作家として大成した万太郎は、10代より亡くなる直前まで、俳句を作り続けた「文人俳句」の代表的俳人でもあった。本書は、万太郎が創刊・主宰した俳誌「春燈」の継承者が、その俳句の魅力と技術、交友関係までを哀惜と畏敬の念を込めて綴った名著であり、万太郎俳句のすぐれた入門書でもある。俳人協会評論賞受賞作。

溶ける街 透ける路
講談社文芸文庫
――わたしの旅は言葉の旅でもある。多言語の中を通過しながら、日本語の中をも旅する――
「エッセイの元祖」モンテーニュ縁のサンテミリオン、神田神保町を彷彿させる「本の町」ヴュンスドルフ、腕利きのすりが集まるバーゼル、ヘルダーリンがこもったチュービンゲン、エミリー・ディキンソンが生涯過ごしたアマスト、重い記憶を残すアウシュヴィッツ。ブダペストからリガ、アンマンまで、自作の朗読と読者との対話をしながら世界四十八の町を巡り、「旅する作家」が見て、食べて、出逢って、話して、考えた。心と身体を静かに揺さぶる、五十一の断章。

ロデリック・ハドソン
講談社文芸文庫
芸術に理解をもつ金持ちの独身青年ローランドが、アメリカ・マサチューセッツ州ノーサンプトンの片田舎に住む天才芸術家の卵ロデリック・ハドソンを見いだし、イタリアで大成させようとする過程を、複雑な恋愛模様、芸術家の苦悩、アメリカとヨーロッパの確執を交えてダイナミックに描く長篇小説。英国批評界の重鎮F・R・リーヴィスから、「古典と称される多数の小説などよりも、永久に読み継がれるべき卓越した作品」と絶賛された。小説の魅力が横溢する傑作であり、ヘンリー・ジェイムズ初の長篇小説、60年ぶりの新訳決定版!

東京物語考
講談社文芸文庫
2020年に逝去した作家・古井由吉が、明治、大正、昭和の「東京」を描いた徳田秋聲、正宗白鳥、葛西善蔵、宇野浩二、嘉村磯多、谷崎潤一郎、永井荷風らの私小説作品をひもとき、浮遊する現代人の出自をたどる傑作長篇エッセイ。長らく入手困難となっていた名作を文芸文庫で。解説・松浦寿輝。

葉書でドナルド・エヴァンズに
講談社文芸文庫
「いまいるこの世界よりも好ましい、もうひとつの世界」
架空の国々の切手を描きつづけた夭折の画家、ドナルド・エヴァンズ。
土地を移りつつ、歳月をかけて、どこにもいない画家に宛て葉書を書きついでいった詩人は、いつからか「死後の友人」となった自分を見出す。
断片化された言葉を飛び石のように伝い、あるかなきかの世界への旅を試みる、一三九通の清切な消息。

柄谷行人対話篇1 1970-83
講談社文芸文庫
1969年に「〈意識〉と〈自然〉――漱石試論」が第12回群像新人文学賞評論部門当選作となり、文芸評論家としての執筆活動をスタートした柄谷行人氏は様々な相手と刺戟的な対話をおこなってきた。本書ではこのうち気鋭の文芸評論家として活躍していた1970年から『探究』連載開始前年の1983年になされた7篇を精選。現在は思想家としての執筆・発言が主な活動となっている柄谷氏が当時どのような知識人に関心を抱き、どのように語ってきたかあらためて知ることは、現代の社会を生きていくうえでも重要な道標となるであろう。柄谷ファンに限らず、知的刺戟を求める読者必読の書。
第一弾は、吉本隆明、中村雄二郎、安岡章太郎、寺山修司、丸山圭三郎、森敦、中沢新一に加え、柄谷行人の「覚え書き」を収録。

世をへだてて
講談社文芸文庫
六十四歳の晩秋のある日、いつものように散歩に出かけようとして妻に止められ、そのまま緊急入院。
突然襲った脳内出血で、作家は生死をさまよう。
父の一大事に力を合わせる家族、励ましを得た文学作品、医師や同室の人々を見つめる、ゆるがぬ視線。
病を経て知る生きるよろこびを明るくユーモラスに描く、著者の転換期を示す闘病記。
生誕100年記念刊行。
目次
夏の重荷
杖
北風と靴
大部屋の人たち
Dデイ
作業療法室
同室の人
単行本あとがき
著者に代わって読者へ
解説 島田潤一郎
年譜

慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り 漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代
講談社文芸文庫
夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斎藤緑雨の七人がみな、幕末維新動乱真っ只中の慶応三年生まれの同い年だということに、著者が興味を感じ続けてきたことからすべてが始まる。明治期の文学に造詣の深い著者が膨大な文献を渉猟することで浮かび上がってきた、七人の傑物たちの姿や相互に絡み合う関係を生き生きと筆致で描くことで、明治初期から日清戦争までの時代を鮮やかに浮かび上がらせる本書は、2001年講談社エッセイ賞を受賞した。鋭い批評性を保ちながらも、ひたすら頁を繰っていきたくなる面白さに満ちた文芸評論の傑作。

新古今の惑星群
講談社文芸文庫
正岡子規が称揚した『万葉集』の「写生」から『新古今集』の詩歌理念へ引き戻すことで、戦後日本文化の再建を目指して1975年に書下された『藤原俊成・藤原良経』。新字新仮名で刊行された同書を、塚本邦雄の信念=正字正仮名表記へもどして改題、さらなる深みと凄味を増し、新たな生命を吹き返した。新古今時代を支えた藤原俊成・藤原良経・藤原家隆・俊成卿女・宮内卿・寂蓮・慈円の7人を、渾身の力で論じ尽くした、歴史的名著。

海獣・呼ぶ植物・夢の死体 初期幻視小説集
講談社文芸文庫
痛みと不遇が憧憬を輝かせた。
二十五歳でデビュー後、十年間本は出ず、八〇年代の片隅風呂なし四畳半送金あり、痛みと希死念慮をかかえた独居の歳月。
不屈の思考と憧憬で紡いだ、幻の初期作品群。
現在から過去を振り返る書下ろし「記憶カメラ」併録。
〈収録作品〉
海獣
柘榴の底
呼ぶ植物
夢の死体
背中の穴
記憶カメラ(書下ろし)

数奇伝
講談社文芸文庫
著作のほとんどが発禁となったことで知られる叛骨の思想家。思わぬ病で歩行の自由を失い、余命の長からぬことを悟った彼が「生きながらの屍の上に自ら撰せる一種の墓誌」として語る生い立ちは、まさに「数奇」というほかない。幼少期に見た土佐の民権運動、大阪や東京での勉学の日々、作州津山での灼熱の恋と別れ、ジャーナリズムの夜明けと大陸への渡航、従軍、筆禍での下獄……。近代日本人の自叙伝中の白眉。

ヒナギクのお茶の場合/海に落とした名前
講談社文芸文庫
いま最もノーベル文学賞に近い日本人作家の一人といわれる多和田葉子。その魅力のエッセンスが詰まった短篇集『ヒナギクのお茶の場合』『海に落とした名前』を初文庫化。
「女には無理」と断られた照明係の仕事を、重いコードを毎日百回引きずって獲得したパンクな舞台美術家と作家の交流を描く「ヒナギクのお茶の場合」(泉鏡花文学賞)、飛行機事故に遭い名前も記憶も失った「わたし」が、ポケットに残るレシートの束を手掛かりに自分を探す「海に落とした名前」、男性三人の遠距離恋愛のずれを描く「時差」など、言葉とユーモアで境を超える全米図書賞作家の傑作9篇。

男
講談社文芸文庫
男は黙ってよく働いている
だいじにしなければなあと思う
歿後30年。
「男」をめぐる初の随筆選。
羅臼の鮭漁、森林伐採、ごみ収集、救急医療、下水処理、少年院、橋脚工事ーー
日常の暮らしを支える現場で働く男性たちに注ぐ、やわらかく細やかな眼差し。
現場に分け入り、プロフェッショナルたちと語らい、自身の目で見て体感したことのみを凜とした文章で描き出す、行動する作家・幸田文の随筆の粋。
(収録作品)
男(濡れた男/確認する/切除/火の人/傾斜に伐る/都会の静脈/まずかった/ちりんちりんの車/救急のかけはし/並んで坐る/橋)
ちどりがけ
当世床屋譚
植える
出合いもの
いい男
男のひと
素朴な山の男
男のせんたく
男へ

野川
講談社文芸文庫
大空襲から戦後の涯へ、時空を貫く生涯の道。現代文学の最高峰、古井文学の原景をたどる名篇。
急逝した友人が抱え続けた空襲の夜の母子の秘密。狂気をはらむ年上の女との情事に囚われた学生時代の友人。そして防空壕の底で爆音に怯えた幼時の自分。生涯の記憶は歳月を経て自他の境を超え、老年の男の身の内で響きあう。戦後の時空間にひしめく死者たちの声とエロス、現代の生の実相を重層的な文体で描いた傑作長篇小説。解説・佐伯一麦。

村上春樹の世界
講談社文芸文庫
著者の文芸評論家としてのキャリアのなかで一貫してつづいた村上春樹作品への強い関心。世界的な人気作家を相手に遠慮も手加減もなく長篇も短篇も読むたびごとに全力で受け止め、刺戟的な批評の言葉を対置して向き合ってきた。肯定も否定も超え真価を問う営みがここにある。没後発表された遺稿「第二部の深淵」を収録。

テクストから遠く離れて
講談社文芸文庫
いま小説に何が起きているのか?現場の思考を貫いた著者が、同時代の文学・批評と格闘してつかんだ、共に生きるための思想。
『テクストから遠く離れて』は、一見、難しそうに見える本だ。けれども、難しいのには理由がある。それは、ほんとうに大切なことだけれど、それをきちんと理解するためには、ぼくたちがふだん考えているような、「適当な」、あるいは、「みんなが考えているのでそうだと思いこんでいる」やり方では、ダメだ、という場合があるからだ。ときには、「堅い」ものを噛まなきゃならない必要がある。ぼくたちのからだに必要な「栄養」を与えてくれるものを、摂取するためには。
―ー高橋源一郎(「解説」より)
ポストモダン思想とともに80年代以降、日本の文学理論を席巻した「テクスト論」批評。その淵源をバルト、デリダ、フーコーらの論にたどりつつ、大江健三郎、高橋源一郎、村上春樹、阿部和重ら、同時代作家による先端的な作品の読解を通して、小説の内部からテクスト論の限界を超える新たな方法論を開示した、著者の文芸批評の主著。批評のダイナミズムを伝える、桑原武夫学芸賞受賞作。