
「黄泉の国」の考古学
ヨミノクニノコウコガク
- 著: 辰巳 和弘

海沿いの洞穴遺跡から出た船形の木棺は何を意味するか。古墳壁画に描かれた霊船や太陽や馬は? 「はるか彼方」に他界をみた古代人の心を再現し、考古学の常識を覆す画期的論考。
古墳壁画の世界――古墳壁画が表現する世界が、ひとつひとつの古墳に葬られた個人の生前の事績を顕彰するものでないことがおわかりいただけたと思う。そこには古代日本人の一般的な他界観が表されている。横穴式石室や横穴、被葬者の遺骸が横たわる墓室空間は、埋葬後は棺が納められた後、羨道部分で石や板を用いて閉塞される。内部は漆黒の世界となる。私たち現代人は、その壁画やレリーフをあたかも美術品を見るかのように鑑賞し、博物館や資料館で複製された古墳壁画を明るいライトのもとで見る。しかしこれら古墳壁画は第3者が見るために描かれ、彫られたのではないことに思いをいたすべきである。古墳壁画はあくまで、それが表現された空間に葬られた被葬者のためにある。被葬者は日月星辰の光明のもと、明るい常世に生を得る。被葬者にとって、石室や横穴の内部は決して光りの無い世界ではない。――本書より
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目次
●くつがえる古墳時代観
●船形木棺の発見
●「籠もり」と「再生」の洞穴
●他界への旅立ち
●舟葬論争
●古墳壁画の世界
●天翔る霊船
●霊魂を運ぶ馬
●形象埴輪の思想
●妣の国・常世の国
書誌情報
紙版
発売日
1996年11月20日
ISBN
9784061493308
判型
新書
価格
定価:694円(本体631円)
通巻番号
1330
ページ数
214ページ
シリーズ
講談社現代新書