講談社学術文庫作品一覧

戦国大名の外交
講談社学術文庫
合戦だけが戦いではない。
列島に統一権力なき時代、地域国家の主権者として割拠した戦国大名たちは、軍事同盟や国境再編、自治勢力「国衆」との関係構築の成否に自らの存立を懸けた。それはまさに外交と呼ぶべき営為であった。交渉者「取次」が奮闘し文書が飛び交う、「現場のリアル」を描き出す、戦国史研究の精華!
【本書より】
なぜ、武田信玄と北条氏康は、直接面会して和睦交渉を行わなかったのであろうか。これは、現在の外交儀礼と比較するとよくわかる。現代においても、外交交渉というものは、外交官が事前に予備交渉を行い、大筋の話をまとめたうえで、外務大臣や国家元首が対談し、協議事項に合意をするという手順を踏むのが一般的であろう。これは戦国時代においても変わりはない。
この時の武田・北条両国は、敵対関係にあった。したがって、いきなりトップである戦国大名同士が交渉することには慎重にならざるをえなかった。そこでまずは、大名の家臣同士が交渉の細部を詰め、それを踏まえて大名が直接書状をやりとりする、という手順を踏んだのである。
こうした外交交渉を担当する家臣は、史料用語で「取次(とりつぎ)」「奏者(そうじゃ)」「申次(もうしつぎ)」などと呼ばれる。いずれも交渉内容を大名に取り次ぐ、執奏する、申し次ぐ人物という意味である。ただし、このうち「奏者」「申次」という言葉は、目下から目上への言上内容を披露する役割を担う側近家臣を指す用語で、対等な戦国大名同士の外交を担当する家臣を呼ぶには相応しくない。このなかでは、「取次」という言葉が一番上下関係を表すニュアンスが少ない。そこで筆者は、戦国大名の外交担当者を、単に「取次」ないし「外交取次」と呼んでいる。この取次という存在が、いってみれば戦国大名の「外交官」の任を果たしたのである。
【主な内容】
序章 戦国大名という「地域国家」
第一章 外交の作法
第二章 外交による国境再編
第三章 外交書状の作られ方
第四章 取次という外交官
第五章 外交の使者
第六章 外交の交渉ルート
第七章 独断で動く取次
第八章 取次に与えられた恩賞
終章 戦国大名外交の行く末
補注
補論一 武田・徳川同盟の成立と決裂
補論二 外交から考える本能寺の変
補論三 取次の失態が招いた小田原合戦
主要参考文献
あとがき
学術文庫版あとがき
索引

比喩表現事典
講談社学術文庫
世界の見方が変わる文章術!
「ねっとりとした春」「唇は美しい蛭(ひる)の輪のように滑らか」「現実から立ち登る朦朧(もうろう)たる可能性の煙」……作家たちが発見し、創作した選りすぐりの比喩表現を、「感覚」「自然」「文化・社会」「顔」「体」「心」の項目別に整理。イメージ豊かな日本語を味読しつつ、ワンランク上の文章を書くための必携事典。――すぐれた比喩は、新しいものの見方の開拓である!
【目次】
比喩に関する二、三の覚書ーー序に代えて
第一章 感覚の表現ーー視覚/聴覚/嗅覚/味覚/触覚
第二章 自然の表現
第三章 文化・社会の表現
第四章 顔の表現
第五章 体の表現
第六章 心の表現
あとがき
学術文庫版へのあとがき
出典作家索引
主要イメージ索引
【本書の主な内容】
■感覚
[光と影]夜そのものに蒔絵をしたような綾
[痛痒]自分の頭が三角になる
■自然
[風景]富士山はどてら姿の大親分
[草木]夢のしたたりのように咲き迸(ほとばし)る花
■文化・社会
[言語]言葉は瞬間の虹
[社会]賑やかな街区は飴の中の砂糖のよう
■顔
[目]プルーンの種のような我が子の眼
[頬]片頬に刃のような冷笑
■体
[尻]西瓜が破れたような創口(きずぐち)
[肌]膚(はだえ)は春の曙の雪
■心
[恋情]一筋の暗渠のような愛
[厭悪]未練が線香の煙のように糸を曳く
[*本書の原本は『比喩表現の世界ーー日本語のイメージを読む』(筑摩選書、2013年)です。]

ウェルギリウス小品集
講談社学術文庫
古代ローマ文学の「黄金時代」前期を代表する詩人プブリウス・ウェルギリウス・マロー(前70-前19年)について、確かな真筆として伝わるのは『牧歌』全10歌、『農耕詩』全4歌、そして『アエネーイス』全12歌の三作品のみである。しかし、これらの作品より前に詩人が若い頃に書いた詩があったことには古代の証言がある。本書は、それらの作品の集成であり、古来Appendix Vergiliana(ウェルギリウス作品の補遺ないし拾遺、あるいは付録といった意味)として伝わるものの本邦初訳となる。
本書に収録された作品の中には、ウェルギリウスの真筆でないことが明らかなものも含まれている。末尾に位置する『有徳の士の教育について』、『「そうだ」と「否」について』、『生まれ出ずるバラ』は後4世紀の詩人アウソニウスの作であり、『マエケーナースに捧げるエレゲイア』もウェルギリウス真筆でないことは明白である。他の詩編についても、多かれ少なかれ真作かどうかについて疑問がもたれている。しかし、これらの作品には価値がないのかといえば、そうではない。
古代には、権威ある大家の名のもとに、あるいは、その名前に関係づけられて伝わる作品が多数存在しており、そこには作品の受容とテキストの伝承の様態が関わっている。大家としてある詩人の権威が確立すると、そこに群がるように、さまざまな形で別の無名の詩人による作品が生まれる。大家の作風や表現を模倣しながら別の詩形式や主題で詩作したもの、大家が描いた物語の続編、大家の作品のパロディーなどがそれである。そうした伝統は、古典文学の最初期から、すなわちホメーロスにおいてすでに認められるが、大家の作に帰せられた無名詩人の作品は、現代のわれわれが「偽作」や「贋作」といった言葉で考えるものとはおよそ異なっている。それらはむしろ核をなす傑出した詩作のまわりに文学伝統の山裾を広げる営みであり、実際、本集成についても、頂きが高ければ高いほど山裾が八方に大きく広がるように、内容面でも形式面でも実に多様な詩から成っていることが分かる。
つまり、本書は「ウェルギリウス」という偉大な名の求心力によって形成された古代文学の遺産であり、貴重な文学的財産にほかならない。文学とは、文化とは、こうした巨大な裾野をも含めた営みであることを、本邦初訳となる本書とともに体感していただくことができれば幸いである。
[本書の内容]
呪いの歌(/リューディア)
ブヨの歌
アエトナ
女将
マエケーナースに捧げるエレゲイア
キーリス
プリアーポスの歌
カタレプトン
モレートゥム
有徳の士の教育について
「そうだ」と「否」について
生まれ出ずるバラ
付録
訳者解説

インテリジェンスの基礎理論
講談社学術文庫
テロリズム、インテリジェンス、サイバーセキュリティ等は、遠い世界のことと思いがちですが、こうした問題は意外にも私たちの日常生活とも密接に結びついています。20世紀の冷戦構造があった時代には、世界情勢の中心は米ソを軸とした二極の対立でしたが、ソ連崩壊後の世界では、民族・宗教・思想の対立が複雑化・混沌とし、テロや紛争が各地で絶え間なく起こっています。
社会の諸課題が複雑化して既存の知識や分析枠組みが通用しにくくなる中、ガバナンス的思考は今後更に重要になるでしょう。こうした領域の一端に触れることによって、ガバナンス的な思考センスを身につけるためにも有効な一冊です。
さて、インテリジェンスとは何を指すのでしょうか?
「インテリジェンスとは、『政策決定者が国家安全保障上の問題に関して判断を行うために政策決定者に提供される、情報から分析・加工された知識のプロダクト、あるいはそうしたプロダクトを生産するプロセス』のことを言う」。
この定義にしたがって、本書では、情報分析の素材となる情報の収集方法、情報の加工の方法、またその過程における有効な方法と陥りやすい誤りなど、実践的な知識を提供しています。
そして、CIAやモサド、MI6や公安などインテリジェンス機関の活動の一端についての紹介やコラムで実際の事件を扱います。インテリジェンス機関と犯罪捜査機関との相違点もあきらかにされます。
得られた情報に、分析という加工を経たプロダクトの優劣の考え方、また、ミラー・イメージング、クロス・チェックといったプロダクト生成時の問題や改善法などについても述べられます。
インテリジェンス入門として、情報収集と情報加工の教科書として、格好の入門書です。
[原本]
『インテリジェンスの基礎理論 第二版』立花書房
学術文庫に収録するにあたり、全面的に改訂した。
【目次より】
学術文庫版はしがき
第一章 インテリジェンスとは何か 定義、機能、特徴
第一章の補論
第二章 インテリジェンス・プロセス
第三章 インテリジェンス・コミュニティ ― 日米の組織
第四章 インフォメーションの収集
第五章 インフォメーションの分析
第六章 その他のインテリジェンス機能
第七章 インテリジェンスの課題 伝統的な課題から新たな課題へ
第八章 インテリジェンス組織に対する民主的統制
【巻末資料】
解説 佐藤優

死と生の民俗
講談社学術文庫
ひと昔前の、普通に生きた人々の中にある、ごくありふれた日常。そこには「死と生」にまつわる、さまざまなエピソードが共存していた――。近代化とともに「家」から死が遠ざかり、死への意識が希薄化した現代社会。明治から昭和初期の消えゆく風習を丹念に聞き取りながら、閉塞感ある今の社会の課題を解くヒントを掘り起こす。愚直で素朴で、とてつもなく豊穣な、隠れた民俗学の名著、復刊!
目次
はじめに
第一部 明治末期から大正期の「死の民俗」--地域の葬儀や野辺送りの行列、火葬場での体験から
1) 生の中の死
1 日々のなかにある日常の続きとしての死
2 日常を断ち切る死の予言
2) 死の儀礼に出会った体験や見聞
1 「湯灌」と奥納戸
2 「角寄せ」
3 「棺造り」や「納棺」と結核患者
4 「親戚へ音をする」「悔やみを言う」
5 「斎(とき)」
6 「葬儀」と「野辺送り」
7 「焼場」と「骨拾い」
8 「木飯米(きはんまい)」
3) 子どもの頃に「人の死」に出会った契機
1 葬式や野辺送りの場面に出かけた契機
2 聴聞や法事の場面に出くわした契機
4) 「人の死」は子どもにとって何であったか
第二部 明治末期から大正期の「生の民俗」
1) 大人への道・自立の旅
2) 結婚
1 仲人
2 結婚
3 こぶり合わせる
4 結婚の祝い
5 離婚
3) お産と産後
1 出産
2 団子汁
3 産湯とあと産
4 産後
4) 健やかな成長を祈る
1 五香
2 祝福
3 七歳までは神のうち
4 「拾い親」の民俗
5 子育てと戦中戦後の労働
6 休み・楽しみ・生きがい
5) 死と生の間を生きる
1 信心・感謝
2 老境(年をとらねば分からないこと)
おわりに
注
聴き取り対象者一覧 並びに聴き取り年月日
あとがき
解説 諸岡了介(島根大学教授)

メルロ=ポンティの思想
講談社学術文庫
20世紀フランスにあらわれた綺羅星のごとき哲学者たちのなかにあって、ひときわ大きな輝きを放ちながら早世したモーリス・メルロ=ポンティ(1908-61年)。エドムント・フッサールの現象学と出会い、身体を中心に据えることで独自の地平を切り開いたその思想は、その後の現代思想の基盤となるとともに、哲学はもちろんのこと看護学や認知科学、芸術の領域にいたるまで今なお幅広く影響を与え続けている。
本書は、日本にメルロ=ポンティを紹介した第一人者たる著者が、『行動の構造』の公刊に先立つ思想にはじまり戦後の後期思想に至るまで、真正面からメルロ=ポンティの全容をとらえようと試みた書物である。
主要著作のひとつひとつが大部であることが、この知の巨人の全貌を捉えがたくしている大きな理由だが、『行動の構造』、『知覚の現象学』、『シーニュ』、『眼と精神』、『見えるものと見えないもの』など主要著作のほとんどの邦訳を手掛けてきた著者ならではの精緻な読解によって、途方もない構想とその可能性があざやかに浮かび上がる。
前人未到の境地に達したメルロ=ポンティの思考は、なぜ、いかにして可能だったのか。比類なき学識をもつ著者だからこそなしえた、思想的文脈、歴史的背景を踏まえた分析で、その思考の形成過程をも解き明かしていく。
知の巨人が知の巨人に肉迫した、無二の概説書。(原本:岩波書店、1984年)
【本書の内容】
まえがき
1 思想の形成
2 『行動の構造』をめぐって
3 『知覚の現象学』をめぐって
4 戦後のメルロ=ポンティ
5 メルロ=ポンティの言語論
6 メルロ=ポンティの社会理論
7 後期思想の検討
注
文献表
あとがき
解 説(加國尚志)
年 譜

維新暗殺秘録
講談社学術文庫
開国に揺れる万延元年(1860)の「桜田門外の変」から、明治4年(1871)の広沢真臣惨殺まで、暗殺事件でみる幕末維新史。
維新前夜の傑物で英雄豪傑と称される清河八郎や、肥後藩の儒学者で明治政府に出仕した横井小楠といった「大物」から、勤皇派の恨みを買って三条河原でなぶり殺された目明しの「猿(ましら)の文吉」といった弱者まで、30の事件を取り上げる。田中光顕や谷干城が語る坂本龍馬の最期、若き伊藤博文が山尾庸三とともに風説を信じて斬り捨てた相手、佐久間象山の息子が仇討ちを狙っていると聞かされた暗殺者・河上彦斎の平然ぶり、幕吏への情報漏洩が疑われて殺された絵師・冷泉為恭の妻とのロマンスと、まさに秘話の集成である。
明治33年(1900)に生まれ、故郷・土佐の歴史を中心に多くの著作をなして司馬遼太郎の信頼も厚かった著者は、「暗殺は文明と野蛮を問わず、古代から現代まで人間社会の一現象として起こる」といい、「明治維新とか、昭和維新とか、変革を呼ぶ時代に暗殺の頻度が多いことは既に歴史が証明している」という。本書はまさに「昭和維新」が叫ばれたテロの時代、昭和5年(1930)に発表され、その後、何度も版を変えて読み継がれてきた。
巻末には、100件を超える事件が並ぶ「維新暗殺史年表」。幕末維新史の研究者、一坂太郎氏が解説を執筆。
〔原本:1967年白竜社刊、1978年新人物往来社刊、1990年河出書房新社刊〕
目次
暗殺談議――序に代えて
大老 井伊直弼
土佐藩参政 吉田東洋
島田左近と宇郷玄蕃
本間精一郎
目明し 猿の文吉
平野屋寿三郎と煎餅屋半兵衛
国学者 塙次郎・鈴木重胤・中村敬宇
播州家老森主税と用人村上真輔
江州石部事件
多田帯刀と村山加寿江
千種有文家臣 賀川肇
儒学者 池内大学
清河八郎
雙樹院 如雲
大藤幽叟
大坂町奉行与力 内山彦次郎
絵師 冷泉為恭
因州藩暗殺事件
姉小路公知
佐久間象山
水戸藩士 住谷寅之介
一橋家用人 原市之進
坂本龍馬と中岡慎太郎
御陵衛士頭 伊東甲子太郎
秋月藩士 臼井亘理
パークス要撃事件
奥羽鎮撫使参謀 世良修蔵
参与 横井小楠
兵部大輔 大村益次郎
参議 広沢真臣
維新暗殺史年表
解説(一坂太郎)

フロイトとベルクソン
講談社学術文庫
ジークムント・フロイト(1856-1939年)とアンリ・ベルクソン(1859-1941年)。ウィーンとパリで同じ時代を生きた二人は、同じ知のネットワークに属していたばかりか、同じ対象に関心を抱き、独自の思索を展開した末、対極から同じ領域に迫ろうとした。しかし、彼らには直接の交流はおろか、著作での言及も皆無に等しい。この謎めいた事実は何を意味するのか──本書は、この問いに挑み、二人の知の巨人を隔てる深淵に肉薄する。
著者は言う。「精神医学にせよ、哲学にせよ、およそ学問的な企てが総じて追求しているのは、人間の幸福だと言っていいだろう。つまり、幸福を否定してくる不幸事の調査研究も含めて、人生の幸不幸の研究こそが、いっさいの学問の根本の任務なのである」(第V章)。この「幸不幸」という問題に決着をつけるために、著者は「フロイトとベルクソン」という問いに到達した。だが、その問いは著者が生み出したものではなく、「この二人の「無意識の発見者」から発せられていると強く実感される」ものだった。
本書は人間と切り離せないこの問題に向き合うすべての人への贈り物である。
[本書の内容]
プロローグ
小林秀雄の声を聴いたこと/直覚された二人の関係
第I章 生
同時代人/誕生の頃/修学時代/無意識・心の基体の発見/ユングという体験/ミンコフスキーの精神病理学/晩年/再び、直覚された二人の関係に焦点を合わせる
第II章 夢
記憶の円錐体について/ベルクソンの「夢」の講演/『夢解釈』の裏側の世界/冥界への歩み、果てしなく/快原理のもろさ/刺激保護膜の無機物的性質/快原理の/夢の「彼岸・前史」/涅槃原理のほうへ/無意識から、無意識へ/ベルクソンという覚醒
第III章 抑 圧
ベルクソンの思索と「抑圧」メカニズム/抑圧されたものとエスについて/生命のダブル・バインド/円錐体という意味過剰の渦動/「一ツの脳髄」から「感想」の破綻(終焉)へ/現実原理/快原理と円錐体、エロース/死の欲動とエス/シュレーバー語のダブル・バインド/円錐体の時間とエスの時間/無機物(フロイト)と物質(ベルクソン)と
第IV章 自 我
自我制作を企てるか否か/ベルクソンの精神病観/フロイトの自我(概念)制作の必然について/フロイトの企ての特質/中断された投射メカニズム研究/投射から企てへ/オイフェミスムス/アナクロニスムに発する投射のメカニズム/記憶の円錐体と投射メカニズム
第V章 進 化
ベルクソンと進化/死後の霊魂の不滅について/トルストイの『イワン・イリッチの死』を再読する/『イワン・イリッチの死』と正宗白鳥/弛緩の至福/フロイトと退化/反復
エピローグ――エスが企てる

シュメル人
講談社学術文庫
紀元前3500年、まだ日本が縄文時代だった頃に巨大神殿を建て、古拙文字を発明。ビールを飲み、都市文明を謳歌し、華やかな宴会を繰り広げたシュメル人たち。紀元前2004年のエラム侵入により忽然と消えてしまった彼らの日常には、現代の日本や西欧社会に通じる様々なしきたりと人間模様が隠されていた! 古典の名著『ギルガメシュ叙事詩』や発掘された奉納額、図像などの一等史料を丹念に解読。王の父子相伝や戦記、后妃の葬儀、交易記録などから最古の文明人の驚くべき栄華と崩壊を識る!
内容紹介
第1章 シュメルの父と息子――現代人にも共感できる、王と息子の話
第2章 ラガシュ王奮戦記――自国を守るため戦う王の弱気な横顔・・・
第3章 后妃のお葬式――シュメル女性の結婚、育児事情
第4章 商人が往来する世界――シュメル人がほしかった銅、レバノン杉、瀝青と、貿易活動
第5章 星になったシュルギ王――決して楽ではなかった王の一代記
<目次>
はじめに
1 シュメルの父と息子――ウルナンシェ王の「奉納額」
ウルナンシェ王の「奉納額」/都市国家ラガシュ市/ウルナンシェ王の王碑文/奉納額の絵解き/家族の肖像/教育は人類不変の悩み
2 ラガシュ王奮戦記
二方面の宿敵/「正史」の始まり/初代王、第三代王の戦い/「エアンナトゥム王の戦勝碑」/ラガシュ最後の輝き
3 后妃のお葬式――シュメルの女性たち
葬儀は語る/シュメルの女性群像/后妃の結婚生活/后妃として母として/仇(かたき)の妻に弔われた前后妃
4 商人が往来する世界――シュメル人の交易活動
古代人の商売繁盛/ 瑠璃(るり)に魅せられて/銅は海からやってくる/ギルガメシュと「杉の森」/石油より大事なもの
5 星になったシュルギ王
帝王の佇まい/ウル第三王朝の最盛期/王の公務/神になったシュルギ王/戦いに明け暮れた後半生
あとがき
主要参考文献
主要図版引用文献
コラム
「正統な後継者」/「油あふれる」ディルムン/シュメルのモナ・リザ/生きているシュメル語/文字と争いの起源/メルッハからの「砂金」/エブラ市の発見/中島敦と古代オリエント史/王の称号
学術文庫版あとがき
索引
本書は『五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語』(新潮選書 2007年刊)を改題したものです。

解剖学の歴史
講談社学術文庫
解剖学とは、どんな学問だろうか。メスやピンセットで人体を直接取り扱う原始的な学問という印象とは裏腹に、その対象は私たちにとってかけがえのない切実なものであり、科学者は自然にどのように立ち向かい、自然科学という知の体系を導き出せるかという本質的な問題が集約されている。解剖学という枠組みなしには、人体は無秩序な肉塊にすぎない。本書は、こういった無秩序な自然を整理し、秩序だてて記載する営みである「自然誌」の視点から、解剖学の歴史と、解剖学者が抱えてきた問題のさまざまを考察する。
16世紀のヴェサリウスによって始められた近代的な解剖学は、現代医学の成立にあたってどんな役割を果たしたのか。兄弟ともいえる学問分野、生理学とはどんな特徴によって分かれたのか。
生物の形態には、いったいどんな意味があるのか。それを探究する際に現れる機能論と先験論という立場の対立。そして比較解剖学と進化論の関係や、物質論と顕微解剖学の関係など、論点は多岐にわたる。
さらに、解剖学者がたえず気にかける「形態と時間」の関係――個体発生と系統発生の重複するイメージや、教育と研究の関係まで。
解剖学の歩みをたどりながら、自然科学がもたらす成果だけではなく、自然そのものに目を向ける自然誌的な視点が、人間にとって必要なことではないか――と問いかける深い洞察の書。〔原本:『からだの自然誌』東京大学出版会、1993年刊〕
目次
はじめに 3
第一章 ヴェサリウスとハーヴィー:医学の基礎としての人体解剖学
第二章 解剖学と生理学:人体についての自然誌と自然哲学
第三章 生物形態の意味(一):解剖学における機能論と先験論
第四章 比較解剖学と進化論:生物科学における事実と解釈
第五章 生物形態の意味(二):顕微解剖学と物質論
第六章 生物界における階層性:多様性と反復可能性の問題
第七章 解剖学と時間:個体発生と系統発生
第八章 解剖学の現在:人体という自然をめぐって
学術文庫版のあとがき

キリスト教綱要 初版
講談社学術文庫
本書は、フランス東北部ピカルディーに生まれ、スイスで宗教改革を実践して改革派を指導したジャン・カルヴァン(1509-64年)の名を知らしめた主著の初版です。
パリに出たカルヴァンは、マルティン・ルター(1483-1546年)によって推進されていたドイツの教会改革の影響を受けながら人文主義を身につけたあと、オルレアン、次いでブルージュで法学を修め、パリに戻って聖書の言語の研鑽を積みました。転機が訪れたのは1534年。この年の10月にフランスで「檄文事件」が起き、パリの町中にミサに対する攻撃的な文書「教皇のミサの恐るべき、重大な、耐えがたい弊害について真正な諸箇条」が貼り出されました。これに激怒したフランソワ1世は宗教改革者8名を焚刑にし、カルヴァンはスイスのバーゼルへの亡命を決意するに至ります。この地でキリスト教信仰の内容を概説するためにカルヴァンがラテン語で書き上げ、1536年に初版が公刊されたのが、本書にほかなりません。
本書は、ルターの宗教改革が第一段階である「破壊」だったとすれば、第二段階にあたる「形成」の基礎となりました。その根底にあったのは若き日のカルヴァンが身につけた人文主義的な知識とセンスであり、それが本書を唯一無二のものにしています。そうして改革派の基盤をなすことになった本書は、「福音主義」や「予定説」の名とともに広く知られるようになりました。その代表が『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(1904-05年)でカルヴァンとカルヴィニズムを「禁欲的プロテスタンティズム」の諸類型の一つとして取り上げたマックス・ヴェーバー(1864-1920年)でしょう。
本書は出版されると増刷を繰り返し、カルヴァン自身はフランス語版を出版した上、改訂の作業に取りかかります。改訂は5回にわたり、初版では全6章だったものが、最終版(1559年)では全80章に及ぶ巨大な書と化しました。日本語訳で1600頁に及ぶ最終版は簡単に手を出せるものではありませんが、初版は分量の点のみならず、のちにさまざまな展開を見る思想の原型を見出せる点、そしてカルヴァンの聖書解釈の技巧を知ることができる点で、最良の入門となることでしょう。初の文庫版となる新訳を、ここにお届けいたします。
[本書の内容]
〔献 辞〕
第一章 律法について、十戒の説明を含む。
第二章 信仰について、使徒信条の解説を含む。
第三章 祈りについて、主の祈りの講解を含む。
第四章 サクラメントについて。
第五章 これまで世の人々によってサクラメントと考えられてきた残りの五つのサクラメントはサクラメントではないことを証明し、ならば何であるかを明らかにする。
第六章 キリスト者の自由、教会の権能、国政について。

おみやげと鉄道 「名物」が語る日本近代史
講談社学術文庫
◇各地に無数に存在する「おみやげ」は、外国にも近代以前にも存在しない、独特の文化だった!◇
日本各地の駅には、饅頭や羊羹などや弁当などの食品が、その土地の名物として売られている。
私たちにとって当たり前のこの光景は、実は他の国ではほとんど見られない(ロンドンのターミナルで「ビッグベン当」などの類は見あたらない)。
この類い稀なる「おみやげ」という存在は、鉄道を筆頭とする「近代の装置」が、日本の歴史、文化と相互作用して生まれたものだった!
「きびだんご」が岡山名物になったのは、日清戦争と鉄道敷設の歴史的事情が背景にあった。
静岡駅の安倍川餅は餅ではなく「求肥」なのも、赤福が伊勢名物として有名になったのも、なぜか北海道にバナナ饅頭があるのも、鉄道という「近代の装置」抜きにしては語れない。
交通網の発展と各地の歴史が結びついて「名物」を生み出してきたさまを、膨大な史料を徹底的に読み込んで、鮮やかに描き出す、唯一無二の研究の集大成!
鉄道を独特の角度から捉えながら日本近代史の探求を続けてきた著者の代表作。
【本書の内容】
序章 おみやげの起源とおみやげ文化
日本の特異なおみやげ文化/日本独特の「名物駅弁」/「おみやげ」と“スーベニア”/「名物」と「みやげ」 など
第1章 鉄道と近代おみやげの登場
清河八郎の「おみやげ配送」/日清戦争と鉄道輸送/五色豆と政岡豆/「異人くさい」鳩サブレーが名物となるまで など
第2章 近代伊勢参宮と赤福
明治天皇に届けられた赤福/赤福を凌駕していた生姜糖/近鉄電車と構内販売 など
第3章 博覧会と名物
博覧会・共進会・商品陳列会/江の島貝細工の盛衰/鉄道院の名物評価/全国菓子大博覧会/大垣の柿羊羹 など
第4章 帝国日本の拡大と名物の展開
「軍都」に生まれる「軍人土産」/創出の物語―もみじ饅頭と伊藤博文伝説/新領土台湾とおみやげ など
第5章 温泉観光とおみやげ
温泉饅頭の誕生/道後煎餅と温泉煎餅/熱海の干物―由緒づけなき名物/有馬温泉から別府への技術移入 など
第6章 現代社会の変容とおみやげ
変化の中で生き残ったおぎのやの釜飯/ひよ子創業伝説/長く不在だった東京みやげの代表 など
終章 近代の国民経験とおみやげ
注
あとがき
名物索引
*本書の原本は2013年に講談社より刊行されました

仏教名言辞典
講談社学術文庫
何万、何億もの人々の批判に堪え、何百年もの世の変遷を超えて今に残る仏家の言葉を、悩み問題別に選定し、歴史的背景と思想的系譜を解説。インド仏教の理論性、中国仏教の実用性、日本仏教の情緒性の違いを味わいながら、仏教通史を学べる。
検索に便利な人名解説と名著リストも備えた、日々に役立つ画期の書!
目次
1 人 間
人/心/人生
2 世 間
自然/夫婦・家/国家・社会/歴史
3 学 問
真実/知恵
4 道 徳
感情/道徳
5 宗 教
修行・信仰/仏/各宗
付録
人名辞典
書目改題
仏家別名言
本書は『仏家名言辞典』(1971年12月 東京堂出版)を改題したものです。

砂時計の科学
講談社学術文庫
世界は「粒」でできている!
砂時計の不思議をめぐる探究は、やがて雪崩や縞模様、果ては満員電車や交通渋滞のメカニズムの解明へと至り着く。異なるものたちのあいだに共通の法則を見出し、研究の最前線と日常生活を往還する物理学の「本当の面白さ」を伝える、自身第一線で活躍する著者による、絶好の入門書。
【本書の主な内容】
[満員電車]乗り降りをスムースにするには、ドアを大きくする? 数を増やす?
[渋滞]発生の秘密は「1/fノイズ」にあった?
[縞模様]砂漠の風紋はシマウマの縞に通ず?
[山]麓より頂に重い砂粒が集まるのはなぜ?
[砂丘]「三日月」に「星」……砂が風に飛ばされただけでなぜこんな地形が?
[ピラミッド]その威容は、砂にはない「不自然」な角度のおかげ?
[生命]粉粒体の縞々と生命の誕生は同じ原因?
【目次】
はじめに
第一章 流れ落ちる
第二章 吹き飛ばされる
第三章 かき混ぜられる
第四章 吹き上げられる
第五章 ゆすられる
第六章 粉粒体とは何か
おわりに
参考文献ガイド
学術文庫版へのあとがき
(*本書の原本『砂時計の七不思議』は第12回講談社科学出版賞受賞)

古代エジプト文明 世界史の源流
講談社学術文庫
◆2025年「ラムセス大王展」開催!◆
◇ラメセス二世はいかにして「偉大なファラオ」となったのか?◇
―すべての道はナイル河谷へ通ず―
アフリカ最奥から到来した人々が築いた文明は、オリエントや古代ギリシアなど周辺世界に決定的影響をもたらしながら三千年の栄華を誇った。
古王国時代からローマ帝国時代まで強大なファラオたちを核にして展開した歴史は、まさしく西洋世界の源流となったのである。
古代エジプト研究をリードする著者が、古代エジプト文明を西洋世界の源流のひとつとして捉え、最新の研究成果をふんだんに盛り込みながら、教科書では描かれきれない新たな歴史像を描き出す!
◯異民族「ヒクソス」の実像&彼らとラメセス大王が戦った「最古の戦争」カデシュの戦いとは?
◯一神教の「起源」はモーセか、アクエンアテンか?
◯エジプト王国最後の象徴クレオパトラの実像は?
◯謎の民族「海の民」の正体とは?
◯「エジプトの神々」と「来世信仰」は世界にどのように広がったか?
【本書の内容】
プロローグ
序章 古代エジプト文明の誕生
第1章 ミノア文明と古代エジプト文明
第2章 異民族ヒクソスの時代
第3章 アクエンアテン王の宗教改革と多神教世界
第4章 アマルナ時代とアマルナ文書
第5章 ラメセス二世vs. ヒッタイト
第6章 ラメセス三世と「海の民」
第7章 アレクサンドロス大王とアレクサンドリア
第8章 女王クレオパトラ七世のエジプト
第9章 古代ローマ帝国と皇帝たちのエジプト文化
終章 古代エジプト文明は世界史の中へ
補章 「タニスの遺宝」が語るエジプト文化の変容
注
図版出典
参考文献
古代エジプト文明年表
索引
【本書より】
たとえ我々に馴染みのある教科書の中の記述はわずかであったとしても、世界史の中において、古代エジプトの果たした役割は、決して少なくはない。世界史の主人公がエジプトであった時期は確かに存在した。(中略)古代ギリシア世界も、強靱で巨大な古代ローマ世界も、あるいはビザンツ帝国もフランク王国でさえも、古代エジプトという強固な礎なくしては、世界史に名を残すことはなかったであろう。本書を読破した後、あなたは古代エジプトとはすでに失われてしまった過去の文明ではないことに気づくはずである。古代エジプト文明の血脈は、人々の記憶の中へと潜り込その後も世界史の中で脈々と流れ続けているのである。
*本書の原本は、2012年に講談社選書メチエより刊行されました。

国家について 法律について
講談社学術文庫
本書に収録された二篇は、共和政ローマで活動した著作家にして政治家・弁論家マルクス・トゥッリウス・キケロー(前106-前43年)がプラトーンの『国家』と『法律』の衣鉢を継ぐ著作として構想・執筆した対話篇です。
前51年に刊行された『国家について』は、前129年に小スキーピオーを中心に行われた討論を再現する形で書かれています。前129年前後といえば、グラックス兄弟を中心とする改革派とこれに対抗する保守派によって国民が二分され、国家が混乱の極みにあった時期でした。それはキケローが目前にしていたポンペイウスとカエサルが激しく対立する状況に酷似し、国家の危機のただなかでローマ国民にみずからの国家の偉大さを自覚させ、その安定と確立のために奮起を促すことを目的としています。
この著作は、後代の国家思想はもちろん、テルトゥッリアーヌス、ラクタンティウス、アウグスティーヌスなど、キリスト教徒の著作家にも多大な影響を与えましたが、ルネサンス期には写本が発見されず、独立した著作として伝えられていた第6巻の「スキーピオーの夢」以外は失われたと考えられていました。ところが、1819年にヴァティカン図書館で写本が発見され、全体の約四分の一が復元されました。こうしてキケローの国家思想のほぼ全容を知ることができるようになったわけです。
『法律について』は、『国家について』執筆中に続篇として構想されたと考えられています。しかし、前51年の夏からキリキア総督として多忙な日々を過ごし、その任務を終えてローマに帰国してまもなく、前49年初頭にはカエサルとポンペイウスの対立から勃発した内乱に巻き込まれることになったため、未完に終わりました。全5巻以上の規模をもつものとして執筆されましたが、現存する写本に含まれるのは第3巻の途中までです。
本書では、過去から現在に至る法律が吟味され、それらは本当に法律の名に値するものなのかが検討されます。キケローが定めようとする法律は第一義的にはローマ国家の改革を目的とするものでしたが、それが自然本性に基づく法律であるかぎり、いかなる時代にも、いかなる場所でも普遍性を失わないものとして提示されています。
こうして、激動の時代に生きたキケローは、理想的な国家と、その礎をなす理想的な法律を今日のわれわれに伝えてくれています。国家への信頼が揺らぐ今、碩学が残した偉大な訳業を初の文庫版でお届けいたします。
[本書の内容]
国家について
第一巻
第二巻
第三巻
第四巻
第五巻
第六巻
スキーピオーの夢
個所不明の断片
法律について
第一巻
第二巻
第三巻
個所不明の断片
訳者解説
人名索引
解 題(山下太郎)

日本動物民俗誌
講談社学術文庫
山海の神か、田の神か。贄か、神使か、妖怪か――。
サル・キツネ・オオカミ・クマからネコ・トリ・ムシ・サカナまで、日本人は動物たちをいかに認識し、どのような関係を取り結んできたのか。膨大な民俗資料を渉猟し、山/海、家畜/野生、大きさ、人との類似などの基準によってその歴史と構造を明らかに!
25種の動物ごとの章立てで、「事典」的なニーズにも対応。
(解説:小松和彦)
【本書に登場する主な動物たち】
[キツネ]気高き神の使者は、やがて商業神、憑きものへ
[イヌ]化け物の正体を見破る特異な辟邪力
[ネズミ]経典荒らしが転じ、仏法の守護者に?
[オオカミ]なぜオオカミだけ? 「産見舞い」に赤飯を
[ネコ]擬人化の果てに、愛する人の形代に
[サカナ]山神はなぜ毒棘持ちのオコゼを愛したのか
[ウサギ]ウサギvs.サルvs.カエル「動物餅争い」の結末は?
[カニ]甲に浮かぶ悲運の英雄たちの無念
……

ティマイオス
講談社学術文庫
プラトンの主著は何か、と言われれば、たいていは『国家』という答えになるでしょう。確かに『国家』にはプラトン哲学のエッセンスが詰め込まれ、質量ともに主著の名にふさわしいことは間違いありません。しかし、長い歴史の中で最も大きな影響力をもったプラトンの対話篇はといえば、本書『ティマイオス』なのです。
神による宇宙の製作とさまざまな自然学的理論が論じられる後期対話篇である本書は、古来プラトン信奉者たちに重視され、前1世紀から後3世紀にかけての中期プラトン主義とそれに続く新プラトン主義の時代に特権的な地位を占めるに至りました。その伝統が近代にも及んでいることは、ラファエロの有名な壁画《アテネの学堂》でプラトンが手にしている書物が『ティマイオス』であることに、はっきり示されています。
ソクラテス、ティマイオス、ヘルモクラテス、クリティアスの四人を登場人物とする本書は、導入部以外はすべてティマイオスのモノローグで構成されています。おそらくプラトンが創作した架空の人物であるティマイオスが語る宇宙論は、国家においても個人においても理性こそが主導権を握るべきだ、というプラトンの主張を正当化するものとして提示されます。この宇宙は必然や偶然の産物ではなく、理性的な製作者(デーミウールゴス)によって、理性の対象(イデア)を手本として、理性的な魂をもつ生き物として構成された、というのがその骨子です。こうして宇宙が理性によって導かれているのなら、それと類比関係にある国家においても個人においても、気概や欲望ではなく理性が支配することこそが自然にかなった正しいあり方だということになります。本書においてプラトンは、国家と人間のあるべき姿を宇宙全体の構造の中に根拠づけることを企てたのでした。
本書は、それぞれの時代、それぞれの思想家において、さまざまに異なる観点から関心の対象とされてきました。ユダヤ教徒やキリスト教徒は『創世記』の神の世界創造を理解するヒントを本書に求めたでしょう。新プラトン主義者は形而上学的真理のアレゴリーとして本書を読んだでしょうし、錬金術師は神の創造を自らの手で再現するための秘密を本書に読み取ろうとしたかもしれません。そして、自然学者や科学者にとって、宇宙の始まりと物質の究極という科学にとっての永遠のテーマを追究する本書が関心の対象となったことは言うまでもありません。
そうして「プラトニストのバイブル」とまで呼ばれた本書『ティマイオス』は、しかし日本では、なぜかこれまで文庫版が存在しませんでした。この状況を打破するべく、最良の訳者を得て、満を持しての新訳を皆さまにお届けいたします。
[本書の内容]
ティマイオス
訳 註
訳者解説

陶淵明
講談社学術文庫
悠然たる隠遁生活と真実を希求する熱い魂!
「人生の節目」に読みたい、沁みる名詩を味わうコンパクトな一冊
「我、五斗米のために腰を折って郷里の小人に向かう能わず(たかがわずかな俸給のために、下っぱ役人にぺこぺこできるか)」
老荘思想に通じ神仙世界への憧れやまぬ詩人は、職を辞し隠遁生活を愉しむ道を選んだ。
きらびやかな修辞を凝らすのではなく、あくまで平易な言葉で自然と人間の諸相、空想世界の奇想を自在に描き出す陶淵明の魅力を、「帰去来の辞」「桃花源の詩」はじめ厳選の名作で堪能する絶好のガイド!
桃源郷を夢想し山海経の怪しい世界に思いを馳せ、酒と自然を楽しむ「田園詩人」の魅力堪能!
【本書より】
彼は同時代の人々からは、「古今隠逸詩人の宗」と評されて、一風変わったところだけが珍しがられたが、四百年後の唐代になって、白居易をはじめとする詩人たちに見いだされ、唐以前の最大の詩人として高い評価を得るようになった。むしろ陶淵明の文学が時代を先取りしていたとさえいえるかもしれない。
陶淵明から千六百年近くのちのわれわれにとっても、彼の文学は時代の変化を超えてなお新鮮な魅力をもちつづけている。人間らしく生きたいという真摯な願い、現世を超越したユートピアへのあこがれ、そして死を正面から見つめる姿勢、彼の文学が扱うこれらのいずれもが、人間の永遠のテーマといえるであろう。
(中略)
「帰去来の辞」はともすれば悟りすました隠遁者の心境の表白として見られがちだが、実は、社会と自分との葛藤に悩みつづけてきた孤独な人物の苦悩を、新生活の第一歩を踏み出すに当たって、かく生きたいという将来の願望の形で投影した作品と見るのがむしろ妥当ではあるまいか。(本書第1章より)
【本書の内容】
第1章 帰ってきた陶淵明
帰去来の辞
園田の居に帰る 其の一・二・五
酒を飲む 其の一・四・五・七・九・十四
郭主簿に和す 二首 其の一
子を責む
第2章 ファンタスティックな陶淵明
五柳先生の伝
桃花源の詩并びに記
酒を止む
山海経を読む 其の一・二・五・九・十
第3章 死を見つめる陶淵明
雑詩 其の一・二・五・六
形影神并びに序 形 影に贈る・影 形に答う・神の釈
挽歌の詩 三首
陶淵明年譜
*本書の原本は、一九九八年に『風呂で読む陶淵明』として世界思想社より刊行されました。

哲学宗教日記 1930-1932/1936-1937
講談社学術文庫
真の信仰を希求する魂の記録!
死後42年たって新発見された幻の日記
『論考』から『探究』へ―大哲学者が書き残した、自らの思考の大転換、宗教的体験、そして苛烈な内面の劇!
“隠された意味”は何か!?
私の本『論理哲学論考』には素晴らしい真正の箇所と並んで、まがい物の箇所、つまり、言ってみれば私が自分特有のスタイルで空所を埋めた箇所も含まれている。1930.5.16
真の謙虚さとは、1つの宗教的問題である。1930.10.18
私はすべてを自分の虚栄心で汚してしまう。1931.5.6
人は職人の比喩に惑わされているのだ。誰かが靴を造るというのは1つの達成である。しかしいったん(手元にある材料から)造られたなら、靴はしばらくの間は何もしなくても存在し続ける。しかしながら、もし神を創造主と考えるのなら、宇宙の維持は宇宙の創造と同じくらい大きな奇跡であるはずではないのか、1937.2.24――<日記本文より>
『論考』がウィトゲンシュタインにとっての原罪であり、それを克服するためにこそ、この日記が書かれたのだという言葉に、おそらく多くの読者が驚き、いぶかしがられることと思う。――<訳者解説「隠された意味へ」より>
*本書の原本『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記 1930-1932/1936-1937』は、
2005年に小社より刊行されました。
【目次】
はじめに
編者序
編集ノート
謝辞
凡例
第一部 一九三〇ー一九三二
第二部 一九三六ー一九三七
コメンタール
コメンタールで使用された参考文献と略号
人名索引
隠された意味へ ウィトゲンシュタイン『哲学宗教日記』(MS183)訳者解説)
訳者あとがき
訳者あとがき補遺(学術文庫化にあたって)