
ヨ-ロッパ中世の宇宙観
ヨーロッパチュウセイノウチュウカン

市民の違約に憤る不気味な〈鼠捕り男〉は、笛を吹いて町中の子供を誘い出し山の彼方へ攫(さら)って消える。〈ハーメルン伝説〉の不吉な謎を解読しつつ、著者の炯眼は中世民衆の思考世界を凝視する。さらに、僅かな史料を手掛りに歴史空間に今も谺(こだま)する民衆の叫びに耳をすませば、時代の変動を生きぬく人々の苦しい生存の呻きが伝わってくる。西洋中世民衆の生活と意識を活写して感銘深い阿部史学の原点と現在。
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目次
1 ハーメルンの笛吹き男伝説の成立と変貌
1.歴史にこだまする民衆の叫び
2.《笛吹き男》伝説の概要
3.教会のガラス絵に刻まれた記録
4.植民説・遭難説・舞踏病説
5.デモーニッシュな《笛吹き男》像
6.《伝説》の成立と真意の議論
7.合理的分析とロマン的解釈
8.民衆の胸の奥底に生きつづける《伝説》
2 中世後期の自伝二著――トマス・プラッターとブルカルト・チンク
1.中世民衆と文字
2.民衆のコミュニケーション手段
3.トマス・プラッターの自伝
4.放浪学生とひよっ子のみじめな遍歴
5.輝かしい学業の成就
6.民衆の生活意識をうかがう格好の材料
7.ブルカルト・チンクの自伝
8.中世都市に住む若夫婦の暮らしぶり
9.市民権の取得と家庭生活
10.中世都市商人の生活感情
11.史料に表現された〈心〉を読みとる
3 「刑吏」の社会史――もうひとつの中世世界
1.ヨーロッパ中世社会の影
2.疎外された刑吏の日常生活
1.揺籃から墓場まで続く差別
2.社会的関係から生まれる賤視
3.刑吏に対する蔑視観の形成
1.初めは高貴な仕事だった刑の執行
2.異質の文化・祭祀の衝突と賤視
4.職業としての刑吏制度の成立
1.恣意的だった刑吏への触穢意識
2.13世紀末に高まる刑吏蔑視
5.都市の抬頭と刑吏の社会史
1.ツンフトと卑賤観の成立
2.公権力の暴力装置への反感
4 ヨーロッパ中近世における身分差別――宗教と世俗の間
1.人間を結びつける2つの関係
2.贈与・互酬の関係――クラ交易とポトラッチ
3.ゲルマン社会における贈与慣行
4.11世紀における不自由民の地位の変化
5.人間狼=共
書誌情報
紙版
発売日
1991年11月05日
ISBN
9784061589995
判型
A6
価格
定価:1,012円(本体920円)
通巻番号
999
ページ数
290ページ
シリーズ
講談社学術文庫