
茂吉秀歌『霜』から『つきかげ』まで百首
モキチシュウカシモショウエンシロキヤマツキツキカゲヒャクシュ
- 著: 塚本 邦雄

――写生とは象徴に達するための手段であることを茂吉は生涯をかけて証明してみせた。その意味では私にとつて、他の誰よりも親しく、敬愛おくあたはざる師であつた。――「赤光」百首以来、満10年、14000余首の歌を味読し、今日、私の脳裏に浮かぶ茂吉像は、玲瓏として、詩歌の持つべき美を悉く具へた半神の相を持つてゐる。またの日、その右に並んで更に美を更新したいものだ。(著者「跋」より)
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目次
●「霜」
・白き餅(もちひ)われは呑みこむ愛染(あいぜん)も私ならずと今しおもはむ(昭和16年、曉の水)
・とどろきは海(わた)の中なる濤(なみ)にしてゆふぐれむとする沙(すな)に降るあめ(海濤)
・酢章魚(すだこ)などよく噛みて食ひ終へしころ降りみだれくる海のうへの雨(同前) ほか
●「小園」
・しづかなる生のまにまにゆふぐれのひと時かかり唐辛子煮ぬ(昭和18年、山上漫吟)
・山みづのこもるを聞けば永遠(とことは)に通ふしづかさを何にいなまむ(同前)
・隣り間にしゃくりして居るをとめごよ汝(な)が父親はそれを聞き居る(同前) ほか
●「白き山」
・幻のごとくに病みてありふればここの夜空を雁(かり)がかへりゆく(昭和21年、春深し)
・たたかひにやぶれしのちにながらへてこの係戀(けいれん)は何に本づく(同前)
・おもかげに立つや長崎支那街の混血をとめ世にありやなし(吉井勇に酬ゆ) ほか
●「つきかげ」
・淺草の觀音力もほろびぬと西方(さいほう)の人はおもひたるべし(昭和23年、歸京の歌)
・税務署へ屆けに行かむ道すがら馬に逢ひたりあゝ馬のかほ(猫柳の花)
・天際に觸れたりといふうらわかき女(じょ)くわ氏の顔を思はばいかに(同前) ほか
書誌情報
紙版
発売日
1995年09月04日
ISBN
9784061591950
判型
A6
価格
定価:1,068円(本体971円)
通巻番号
1195
ページ数
400ページ
シリーズ
講談社学術文庫
初出
1987年9月、文藝春秋から刊行