妻よ、お前の癌は告知できない

妻よ、お前の癌は告知できない

ツマヨオマエノガンハコクチデキナイ

「苦しい思いまでして、何でよくならないの?」
妻の悲痛の叫びに、医療はどこまで応えてくれたのか。大学病院6156号室、テープに残された23日間の夫婦愛の記録。

最期の一瞬をこんな粗雑な医療ミスで終わらせてはならない。私は、妻を呼び続ける。「もう蘇生の可能性はありませんから」病室いっぱいになった白衣のなかから、やがて上席の医師が言う。「臨終」の時刻を告げる前のひと言だ。もう、命の終わりはわかっていた。私は、すでに苦悶の表情から苦痛のかげが薄らいでいく妻を見つめつつ、必死に妻のために考えていた。基本の病状の訪れに大差はないにしても、急にこんな形で終わらせることは許せない。美き子らしい終わり方をさせてやらねばならないのだ。──本文より

医学はいかに無力だったか!妻はいかに凛々しく闘ったか!いやそれよりも……。夫婦とは何だったか?今終わろうとする、お前とオレの人生とは何だったのか?もう2度と還らない妻と、ウソに力を込めて見守る夫の呼吸が、小さな録音機に密封されている。たくさんのテープと録音機を腕にしっかり抱いてやると、まだ妻の体温が残っているようにさえ思える。──「はじめに」より


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書誌情報

紙版

発売日

1998年03月13日

ISBN

9784062091336

判型

四六

価格

定価:1,760円(本体1,600円)

ページ数

244ページ

初出

『i録音テープに残された最後の二十三日間』は婦人公論1997年11月号臨時増刊に掲載されたものを加筆訂正し、『ii 一年経って、『妻よ!』―長いあとがき』は本書のための書き下ろし

著者紹介