
難風
ナンプウ
- 著: 安部 龍太郎

人を殺す風、その名は難風!注目の歴史秀作集
時代につき放され、難風に立ち向かう男たち。オールコックの通訳丸一伝吉の表題作をはじめ、名篇「佐和山炎上」「忠直卿御座船」「雷電曼陀羅」「峻烈」等、著者の風格を伝える秀作集!
かってはあれほど華やかに見えた江戸の町が、小さな箱庭のような気がすることに伝吉は自信を取り戻した。大名たちがいかに威張っていようとも、所詮はこの狭い島国でしか通用しないのだ。
10年の間アメリカや清国で修行を積み、見聞を広めてきたこの俺の、足もとにも及ぶまい。……
伝吉は訳の分からない感情に苛立ち、半ば自棄になって外出をくり返した。馬の鞍にユニオンジャックの旗をかかげ、フロックコートに山高帽子という出立ちで東海道を闊歩した。尊皇攘夷の嵐が吹き荒れている最中だけに、道行く者たちの視線は険しく、命の危険を感じることもしばしばだったが、伝吉はひるまなかった。
栄力丸で遭難し、53日間もの漂流を生き抜いた身である。(何が侍や。来るなら来てみい。額に風穴あけたるで)伝吉は挑みかかるような目で高位の武士たちを睨みつけた。――(「難風」から)
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書誌情報
紙版
発売日
1998年06月19日
ISBN
9784062092760
判型
四六
価格
定価:1,870円(本体1,700円)
ページ数
326ページ
初出
収録作品参照
収録作品
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作品名初出
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作品名
峻烈
初出
『季刊歴史ピープル』97年新春号「叡山焼亡」改題
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作品名
佐和山炎上
初出
『季刊歴史ピープル』96年春号
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作品名
忠直卿御座船
初出
『週刊新潮』94年2月17日号
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作品名
玉のかんざし
初出
『季刊歴史ピープル』97年夏号
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作品名
伏見城恋歌
初出
『週刊新潮』96年2月29日号
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作品名
魅入られた男
初出
『季刊歴史ピープル』97年秋号
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作品名
雷電曼陀羅
初出
『週刊新潮』95年6月1日号
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作品名
斬奸刀
初出
『小説歴史街道』96年12月号
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作品名
難風
初出
『季刊歴史ピープル』98年春号