翠子

翠子

スイコキヨハラノブタカノツマ

文芸(単行本)

室町女人の鮮烈なる色身!
洛中洛外図誕生の瞬間!きららかに京の町屋へ奔り出た、高貴なる女人の生命感。室町ことばが鮮やかに躍動する秀作!

「さあ、お邸近くまで送りまらしょうずる」
(狩野)貞信(さだのぶ)は翠子を馬に抱きあげた。先ほどよりは息が合うようになっていた。
「そなたは、おそらく今様をお詠いなられまするのう」
「そのため、遊び女とつき合うておりまする」
「では、詠うてくれさしめ。私のために。女の盛りなるは……」
女の盛りなるは、十四五六歳廿三四とか、三十四五にし成りぬれば、紅葉の下葉に異ならず
朗々としてそれでいて哀切な声である。そっと胸をそらすと、あたたかい男の息づかいとともに、声が翠子の背なに添うて、消える。
この声は、私のもの。それは、おごりでも何でもなかった。
貴船川の川音が遠ざかる。鞍馬口へと、馬は足を早めた。


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書誌情報

紙版

発売日

1999年04月23日

ISBN

9784062096126

判型

四六

価格

定価:2,530円(本体2,300円)

ページ数

462ページ

初出

収録作品参照

収録作品

  • 作品名

    翠子春秋

    初出

    『季刊歴史ピープル』1997年夏号

  • 作品名

    吉田炎上

    初出

    『季刊歴史ピープル』1998年春号

  • 作品名

    翠子出奔

    初出

著者紹介