
夏草ヶ原
ナツクサガハラ
- 著: 梓澤 要

深い感動を呼ぶ秀作!
草原の野に消えた少女を捜す馬上の老武士。名作『百枚の定家』の作者が描く侍の悲愁!ほかに信長と鷹の高貴を描く「伊吹」等、傑作4篇。
「なんとしても……見つけなければならぬ。……なんとしても」(今村庄右衛は)てぬぐいを顔に押しつけたまま、その場に立ちつくした。暑い。噎せかえるような草いきれで、呼吸が苦しい。ようやく、肩で荒い息をつきながら首筋の汗を拭うと、編笠の縁を持ち上げてせわしなく四方を見まわした。見渡すばかりの原である。遮るものは何もない。ところどころに芋畑がそこだけ凪いだように平たく、異質な緑の面を見せている。草むしりをする百姓もいないのか、人影ひとつない。――いつの間にか草の原も空も、黄褐色一色に染まっている。すべての生きものが死に絶えたような、不気味な静寂があたりを満たしている。――(本文から)
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書誌情報
紙版
発売日
1999年07月14日
ISBN
9784062096133
判型
四六
価格
定価:1,980円(本体1,800円)
ページ数
298ページ
初出
収録作品参照
収録作品
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作品名初出
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作品名
夏草ヶ原
初出
『季刊歴史ピープル』1996年秋号
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作品名
伊吹
初出
『季刊歴史ピープル』1997年新春号
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作品名
斎王の首飾り
初出
『季刊歴史ピープル』1998年春号、夏号
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作品名
聖武帝の秘事
初出
『季刊歴史ピープル』1997年秋号