風の姿

風の姿

カゼノスガタ

文芸(単行本)

わさび田の風に癒されて傷ついた魂の再生の物語
真富士山をのぞむ安倍奥山中のわさび田に不思議な縁でひきよせられた娘と生きるのに不器用な男女たち──あたたかな眼差しが感動を呼ぶ最新長篇小説

京子は風にあたろうとするかのように、わさび田のほうへ顔を向けて、目を閉じた。暖かいやわらかな風がゆるやかにわさび小屋へ吹いていた。わさび田には水が溢れている。澄みきった水、澄みきった大気、そしてこの静けさ。それは生きている静けさだ。草も木も虫も鳥も育ってゆける静けさ。とくにわさびはこのなかでしか生きてゆけない。京子も限られたところでしか生きてゆけないのかもしれない。路子はふとそう思った。雑草のように逞しくあってもらいたいが、それができる人とできない人がいる。──本文より


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書誌情報

紙版

発売日

1999年07月23日

ISBN

9784062097451

判型

四六

価格

定価:2,420円(本体2,200円)

ページ数

386ページ

初出

『静岡新聞』1993年4月1日~1994年3月31日掲載

著者紹介