優しい侍

優しい侍

ヤサシイサムライ

文芸(単行本)

歴史文学賞作家が斬新な視点で描く秀作集!
荒木村重一族処刑の前夜、光秀の陣を訪れた侍のことばは、妻を救ってほしいという意表外のものだった――。関ヶ原の前後に際立つ侍の人間的弱さをみつめた注目作。

夕刻になって、予定されていたすべての処刑が終わると、残る五郎右衛門とその妻甲が引き出された。切腹のために座っている五郎右衛門の側を、今は憔悴しきって、両脇を足軽に抱きかかえられた甲が引き立てられていった。これから杭に縛りつけられ、鉄砲で撃たれるのである。
「死にたくない!」改めて五郎右衛門の姿を見ると、甲は再び激しく泣き叫びはじめた。午前中の、粛然として死んでいった人々とは対照的に、自ら転がり、泥だらけになりながら、その抵抗はやまない。髪はほどけ、白い膝前が乱れた。
「静かにおし」そのとき、男の声が響きわたった。それは泣き叫ぶ女をいたわる優しい声だった。処刑場が一瞬しんと静まり、女も足軽たちもはっとして活動を停止させた。――(本文から)


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書誌情報

紙版

発売日

1999年08月20日

ISBN

9784062097703

判型

四六

価格

定価:1,980円(本体1,800円)

ページ数

270ページ

初出

収録作品参照

収録作品

  • 作品名

    優しい侍

    初出

    『季刊歴史ピープル』1997年陽春号

  • 作品名

    長曾我部盛親

    初出

    『季刊歴史ピープル』1998年盛秋号

  • 作品名

    茶碗と天守閣

    初出

    『季刊歴史ピープル』1998年新春号

  • 作品名

    秀家と豪姫

    初出

著者紹介