
往生日和
オウジョウビヨリ
- 著: 倉本 四郎

逝かせてくれと父は言った。
父の終焉をみつめた澄明な秀作
90歳。死に向かう父親と見守る家族、最後の7日間の物語。不思議な幸福感があなたを包む!かつて書かれたことのない死の風景。
ちょうど63歳の誕生日を迎えた8月の31日に、私は脳卒中で倒れ、右半身が不自由になった。右足は、ひきずりはするけれども支えになるまでに回復したが、手のほうはいけなかった。右手は拳のかたちのまま、固まってしまった。利き腕の機能を失ったので、私は左手を鍛錬するために彫刻を始めたのである。
素質はあったのだと思う。私の家は九州のキリシタンで名高い島で、7代つづいた宮大工を家業にしていた。家が没落するという不幸さえなければ、私も跡を襲って棟梁になっていたはずなのである。――(本文から)
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書誌情報
紙版
発売日
2002年09月30日
ISBN
9784062114219
判型
四六
価格
定価:1,980円(本体1,800円)
ページ数
240ページ