
螢 火
ホタルビ
- 著: 蜂谷 涼

女一人、すべての汚れをひきうけて、心をこめて染みを抜く。
消せない過去、日々の溜息が、布目にからみつく。
北の街の夕暮れどきに、「ちぎり屋」と「染み抜き屋」の灯がともる。
芸妓から成島屋の御内儀(おかみ)に納まった紫乃が持ち込んだ、男物の紋付羽織。結び雁金の紋所は、かつての恋が、紫乃の心に染みになって残っていると告げているように、つるには思えた。「こういう染みって、素人でも抜けるものですか」紫乃の言葉に、つるの胸の底で赤黒い炎が大きく揺れた。身の裡のほとぼりを鎮めるために、つるは一人、おもんの「ちぎり屋」の暖簾をくぐった。――<「徳壺」より>
他の収録作「星月夜」「十色の虹」「花魁鴨」「螢火」
- 前巻
- 次巻
書誌情報
紙版
発売日
2004年06月12日
ISBN
9784062124362
判型
四六
価格
定価:2,090円(本体1,900円)
ページ数
378ページ