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「家栽の人」から君への遺言 佐世保高一同級生殺害事件と少年法
カサイノヒトカラキミヘノユイゴンサセボコウイチドウキュウセイサツガイジケントショウネンホウ
- 著: 毛利 甚八
ヒット作『家栽の人』で一躍人気マンガ原作者となりながら、著者は、その成功を素直に喜べない自分に出会う。現実離れした人物像を『家栽の人』の主人公にしてしまったことに苦しみ、著者が突き当たったのが、戦後の少年法が抱える問題だった。少年法への無知、無理解が、ピント外れの「少年法叩き」を生む日本社会の現状を嘆く著者に、二〇一四年夏、末期の食道がんが見つかる。すでに肝臓、リンパ節、肺にも転移していた……。
ヒット作『家栽の人』で一躍人気マンガ原作者となりながら、著者は、その成功を素直に喜べない自分に出会う。現実離れした人物像を『家栽の人』の主人公にしてしまったことに苦しみ、戦後の裁判所のねじれた歴史に巻きこまれた思いを強めていたからである。矛盾の多い法曹界の戦後史を追跡し、中津少年学院で篤志面接委員となり、宮本常一の仕事を追いかけ“忘れられた日本”の風景を歩むなかで、司法現場と世間の感覚とのズレを実感するようになった著者が突き当たったのが、戦後の少年法が抱える問題である。
第一部「少年法をめぐる戦後」では、少年法の成り立ちと戦後社会との関係を検証するとともに、神戸児童連続殺傷事件や光市母子殺害事件の現場のフィールドワークをおこない、非行少年の更生に携わり大きな実績を挙げる野口義弘・藤岡克義両氏への取材を敢行することで、戦後少年法が孕む本質的な問題をわかりやすく、かつ鋭く抉り出す。
少年法への無知、無理解が、ピント外れの「少年法叩き」を生む日本社会の現状を嘆く著者に、二〇一四年夏、末期の食道がんが見つかる。すでに肝臓、リンパ節、肺にも転移していた。佐世保高一同級生殺害事件が起きたのは自身のがんを知った直後である。がんにおかされた病床で著者は生と死を見つめ直し、「佐世保の君」に贈る最期の言葉を紡ぎ始める。事件の背景、少女が犯した罪への考察は、物語で「少年の心の痛みを書く」ことこそミッション――『家栽の人』執筆は運命――だった自身への気づきとも重なっていく……。少女への問いかけを通し本当の更生とは何かを考え、人が生きて在ることの根拠を見つめる(第二部「佐世保の君への手紙」)。
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目次
第一部 原作者が迷い込んだ少年法の戦後史
第一章 家栽の人をふりかえる
第二章 少年法叩きの一五年を考える
第三章 少年院の世界
第四章 非行少年100人を雇った男
(株)野口石油会長・野口義弘(福岡県北九州市)
第五章 少年鑑別所からの大学進学、請け負います
学習塾フジゼミ社長・藤岡克義(広島県福山市)
第二部 佐世保の君に贈る手紙
第六章 第一信 忙しすぎる夏
第七章 第二信 最高裁に乗り込む
第八章 第三信 ぼくが思春期に出会った死
第九章 第四信 維摩詰の足元で
書誌情報
紙版
発売日
2015年10月14日
ISBN
9784062196949
判型
四六
価格
定価:1,870円(本体1,700円)
ページ数
274ページ
電子版
発売日
2015年10月30日
JDCN
0621969400100011000B
著者紹介
毛利甚八(もうり・じんぱち) 1958年長崎県佐世保市生まれ。 日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、ライターとして活動。 1987年より漫画『家栽の人』(画・魚戸おさむ、小学館)の原作を担当する。 1994年より1998年にかけて民俗学者・宮本常一の足跡を追う旅を行い、『宮本常一を歩く』(上・下、小学館)を上梓。 2001年より大分県に住まいを移し、地元の少年院で月に1回ウクレレを教えている。 著書に、『九州独立計画 玄海原発と九州のしあわせ』(講談社)、『少年院のかたち』(現代人文社)、『白土三平伝』(小学館)などがある。