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温泉をよむ
オンセンヲヨム
- 著: 日本温泉文化研究会

日本人にとって温泉とはなにか。それは癒しと憩いの場であり、明日への活力を養う場であると同時に、非日常的な時空間に身を置き、文字通りの「再生」を願う場所でもありました。
古代人は熱い湯が大地から噴き出すことに恐れおののき、これに神格を認めました。また、医療の発達していない時代にあっては、薬石効なく医者から匙を投げられたものたちが最後の望みを託して杖をひく場でもありました。近世に至れば歓楽の場ともなり、また科学的に温泉を理解しようとする動きも出てきます。
近代になって温泉を「観光地」「保養地」として理解しようとする人びとは、それまでの信仰や民俗が雑多に、重層的に存在する温泉地のありかたを「旧来の陋習」として排斥していきます。その一方で、インテリとよばれる若者たちによって温泉は「青春の煩悶」と結びついた特権的な場所として表象され、やがてそれは文学名所として観光的に「消費」されていくことになります。
本書は温泉が日本文化においていかに重要な存在であるかを多角的に明らかにしていきます。
- 前巻
- 次巻
目次
第一章 湯の底の記憶──温泉の歴史学
1 道後はなぜ「日本最古」の温泉なのか
2 中世の熱海と有馬
3 幻の温泉、さまよえる温泉
4 入浴法さまざま
第二章 再生と変身──温泉の宗教学
1 病気平癒への深い祈り
2 神の湯
3 薬師と地蔵
第三章 「湯治」の実態をさぐる──温泉の医史学
1 温泉番付表の意味
2 江戸時代の「城崎にて」
3 有馬温泉と『温泉論』
4 湯治場と保養地のはざま
第四章 効きめはいったいどのくらい?──温泉の医学
1 保険は適用外
2 療養泉と適応疾患
3 大湯リハビリ温泉病院の試み
第五章 来た、見た、浸かった──温泉の博物学
1 温泉、奇石を生ず
2 噴き出る不思議
3 湯へのまなざし
第六章 湯の力、人びとの暮らし──温泉の民俗学
1 祭りの場
2 生活のなかの温泉
3 みやげと伝統産業
第七章 漱石、川端、賢治──温泉の文学
1 坊ちゃんの赤手拭い
2 『伊豆の踊子』と『雪国』のあいだ
3 花巻温泉の三つの花壇
書誌情報
紙版
発売日
2011年01月19日
ISBN
9784062880886
判型
新書
価格
定価:836円(本体760円)
通巻番号
2088
ページ数
280ページ
シリーズ
講談社現代新書
著者紹介
著: 日本温泉文化研究会(ニホンオンセンブンカケンキュウカイ)
二〇〇五年生まれの温泉をテーマとする学術研究会。総合的かつ学際的な温泉研究をおこなうため、研究者や大学院生が集結した。基本方針は、「独自性」「良心」「自立」。これまでの学会・研究会にはない独自性を維持し、特定の温泉地や宿泊施設などからの宣伝料に揺らぐことなく学者としての良心を堅持。そのうえで、温泉研究を一つの学問分野すなわち「日本温泉学」として自立させることをめざす。これまでに、共同研究の成果論文集として『温泉の文化誌 論集【温泉学1】』、『湯治の文化誌 論集【温泉学2』(ともに岩田書院)を刊行した。今後も隔年で続刊。会員の専門分野をいかし、古文書や民俗をはじめ、地質なども含めた温泉地の共同総合調査および研究もおこなっている。