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ウィトゲンシュタインと言語の限界
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本書の著者ピエール・アド(1922-2010年)は、古代ギリシア思想や新プラトン主義の研究者として、コレージュ・ド・フランス教授を務めました。その著作は、古代哲学のみならず、フランシス・ベーコンやデカルトなどの17世紀思想、ゲーテ、ヘーゲルからニーチェ、ベルクソン、ハイデガーに至る19~20世紀の思想まで、幅広い知識に裏打ちされた類を見ない豊饒さをそなえています。その著作はヨーロッパの知識人に大きな影響を与えるとともに、アメリカでも多くの読者を獲得してきました。
ところが、日本では2020年に『イシスのヴェール』(法政大学出版局)が出版されるまで、訳書は1冊も存在せず、それゆえ注目を浴びることもなかったというのは、豊かな翻訳文化を育ててきた国では奇妙な欠落だったと言わざるをえません。2021年には『生き方としての哲学』(法政大学出版局)の邦訳が出版され、ようやく日本でもこの碩学の思想に触れる準備が整いつつあります。今こそ、アドがフランスで初めて本格的にウィトゲンシュタインを紹介した人物でもあること、そして唯一無二の解釈を残していたことを伝える本書を読むべき時だと言うことができるでしょう。
研究者にさえ顧みられずにきた本書に収められた論考は、『論理哲学論考』と『哲学探究』しか出版されていなかった時期に書かれたものにもかかわらず、後続の者が見出すことのできなかった側面を明確に浮かび上がらせるものにほかなりません。アドは深い教養に導かれて、ウィトゲンシュタインの思想の中に古代のストア派や懐疑主義、新プラトン主義とのつながりを、あるいはショーペンハウアーとのつながりを見て取ります。その結果、ウィトゲンシュタインの著作は独自の「哲学」を記述しただけのものでなく、第一級の「哲学史」でもあることを明らかにするのです。
本訳書では、アドの解釈の画期性をよりよく理解できるよう、気鋭のウィトゲンシュタイン研究者である古田徹也氏の重厚な「解説」を収録しました。さらに「訳者後記」では、合田正人氏がアドという人物を中心にした知的ネットワークの広大さを深い思い入れとともに綴っています。本書の中で、これまで知らなかったウィトゲンシュタインの顔を見ることができるでしょう。
今後のウィトゲンシュタイン研究にも大きな一石を投じることになる重要著作の邦訳を選書メチエの1冊としてお届けいたします。
[本書の内容]
序
ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』における言語の限界についての考察
ウィトゲンシュタイン 言語の哲学者 I
ウィトゲンシュタイン 言語の哲学者 II
言語ゲームと哲学
解説 ウィトゲンシュタイン哲学の「新しい」相貌(古田徹也)
訳者後記
ⒸLibrairie Philosophique J. Vrin, Paris 2004/Masato Gouda/Tetsuya Furuta
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目次
序
ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』における言語の限界についての考察
ウィトゲンシュタイン 言語の哲学者 I
ウィトゲンシュタイン 言語の哲学者 II
言語ゲームと哲学
解説 ウィトゲンシュタイン哲学の「新しい」相貌(古田徹也)
訳者後記
書誌情報
紙版
発売日
2022年06月09日
ISBN
9784065283622
判型
四六
価格
定価:1,760円(本体1,600円)
通巻番号
765
ページ数
208ページ
シリーズ
講談社選書メチエ
電子版
発売日
2022年06月08日
JDCN
06A0000000000503717B
著者紹介
1922-2010年。パリで神学教育を受け、司教の資格を得たあと、ソルボンヌで神学・哲学・文献学を学ぶ。27歳でフランス国立科学研究センター(CNRS)の研究員となり、哲学の道に進む。文献学に基づいた古代ギリシア思想や新プラトン主義の研究を専門とした。フランスで初めてウィトゲンシュタインについて論じたことでも知られる。 主な著書に、『プロティノス、あるいは視線の純化』(Plon, 1963)、『古代哲学とは何か』(Gallimard, 1995)、『イシスのヴェール』(Gallimard, 2004. 邦訳:小黒和子訳、法政大学出版局、2020年)ほか。
1957年生まれ。現在、明治大学文学部教授。専門は、フランス思想史。 主な訳書に、エマニュエル・レヴィナス『全体性と無限』(国文社)、『存在の彼方へ』(講談社学術文庫)、アンリ・ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』、『物質と記憶』、『創造的進化』、『道徳と宗教の二つの源泉』、『笑い』(以上、共訳、ちくま学芸文庫)、ジャック・デリダ『エクリチュールと差異』(共訳、法政大学出版局)ほか。
解説: 古田 徹也(フルタ テツヤ)
1979年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。専門は、現代哲学・現代倫理学。 主な著書に、『言葉の魂の哲学』(講談社選書メチエ。サントリー学芸賞)、『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(角川選書)、『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHKブックス)ほか。