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半島へ
ハントウヘ
- 著: 稲葉 真弓

「海松」を超えた、究極の「半島物語」。東京を離れ、志摩半島を望む町で暮らし始めた中年女性。孤独な暮らしのなか、彼女がそこで見つめたものは? 川端賞受賞作「海松」を超えた、究極の「半島物語」。谷崎潤一郎賞、中日文化賞、親鸞賞受賞作!
その春、「私」は半島に来た。森と海のそば、美しい「休暇」を過ごすつもりで――。たったひとりで、もう一度、人生を始めるために――。川端賞受賞の名作「海松(みる)」を超えた、究極の「半島小説」
顔を上げると、樹間で朝を待つものたちの気配がした。たぶんメジロやウグイス。どこに巣があるのかわからないが、葉擦れや枝のこすれとは違う音がする。寝覚めの脳に届いたのは身じろぎする鳥たちの気配だったのかもしれない。やがて、森のあちこちに青みを帯びた筋が差しこむ。樹間に広がる光の筋は、やがて明るい金色を帯びていった。途端に森の奥から、鳥の声がにぎやかに聞えてきた。なかに「リッカ、リッカ、ピイィ」と鳴く鳥がいる。そういえば、今日は立夏。東京から半島にきて、もう一ヵ月がたっていた。――<本文より>
第47回谷崎潤一郎賞受賞作
解説・木村朗子
Ⓒyuji hirano
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書誌情報
紙版
発売日
2024年09月12日
ISBN
9784065368336
判型
A6
価格
定価:1,980円(本体1,800円)
ページ数
240ページ
シリーズ
講談社文芸文庫
電子版
発売日
2024年09月11日
JDCN
06A0000000000815007H
初出
本書は、『半島へ』(2011年5月 小社刊)を底本としました。
著者紹介
1950年、愛知県生まれ。愛知県立津島高等学校卒業。1973年「蒼い影の痛みを」で女流新人賞を受賞。「琥珀の町」で1990年下半期芥川賞候補となり本格的に作家活動を開始、1992年『エンドレス・ワルツ』で女流文学賞、1995年「声の娼婦」で平林たい子文学賞、2008年短編「海松」で川端康成文学賞受賞。2010年、「海松」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。