昏い時代の読書 宮嶋資夫から野坂昭如へ

昏い時代の読書 宮嶋資夫から野坂昭如へ

クライジダイノドクショ ミヤジマスケオカラノサカアキユキヘ

講談社選書メチエ

美は、世界が滅びゆくこと自体のうちにのみ生まれる――。宮嶋資夫、太宰治、坂口安吾、桐山襲、野坂昭如。大正・昭和・平成の時代にわたるこの5人の作家は、どうしようもなく救いを求め、作品のうちにつかの間それを浮かび上がらせることに成功しながらも、現実の前に敗れ去った。それぞれが求めた救いの姿と、その挫折を作品の紹介を通して描き出す。
「人間がだめになったんですよ。(…)そんな時代になったんですよ」(太宰治)。遠くかすかに響く祈りの声に耳を澄ませつつ頁を繰る、希望なき時代の読書のすすめ。

理不尽と暴力に満ちた労働文学の旗手として登場し最後には仏門に消えた宮嶋資夫(1886-1951年)、ユートピアと現実のはざまで立ち尽くす「弱法師」太宰治(1909-48年)、堕落を呼びかけながら、生の原点「ふるさと」を希求した坂口安吾(1906-55年)、戦後訪れた政治の季節に体制への反逆と絶望のはざまでもがきつづけた桐山襲(1949-92年)、高度経済成長のさなかトリックスターの身振りでディストピアを描き続けた野坂昭如(1930-2015年)。大正から平成にかけて筆を執った5人の作家は、それぞれに救済を求め、作品のなかにそれを浮かび上がらせながらも、容赦ない現実の前に敗北した。
 彼らの挫折は、令和の時代に明らかになりつつある社会の絶望を先取りするものでもあった。彼らが必死に手を伸ばし、しかしついに届くことがかなわなかった救いとは、どのようなものだったのか。有名無名問わず作品が紹介されるなかで、呪詛にも似た祈りの声がかすかに漏れ聞こえてくる。
 昏い時代にものを書き、そして読むことの意味を鋭く問いかける空前絶後の文学案内。

【本書の内容】
はじめに――終わりなき終焉を見つめて
1 死に憑かれて――宮嶋資夫というヤマイヌ
2 無何有の明滅――太宰治という掟破り
3 タブラ・ラサにたたずむ――坂口安吾という「ふるさと」
4 瞑さのアナーキズム――桐山襲という「違う世界」
5 ディストピアの妄想――野坂昭如という廃墟
おわりに――現実忌避に向けて
あとがき
                                                                                          


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目次

はじめに――終わりなき終焉を見つめて
1 死に憑かれて――宮嶋資夫というヤマイヌ
2 無何有の明滅――太宰治という掟破り
3 タブラ・ラサにたたずむ――坂口安吾という「ふるさと」
4 瞑さのアナーキズム――桐山襲という「違う世界」
5 ディストピアの妄想――野坂昭如という廃墟
おわりに――現実忌避に向けて
あとがき

書誌情報

紙版

発売日

2025年08月12日

ISBN

9784065406670

判型

四六

価格

定価:2,420円(本体2,200円)

通巻番号

828

ページ数

272ページ

シリーズ

講談社選書メチエ

著者紹介

著: 道籏 泰三(ミチハタ タイゾウ)

1949年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程中途退学。1985年より京都大学(教養部、のち人間・環境学研究科)勤務。2015年定年退職。専門はドイツ文学。 主な著書に『ベンヤミン解読』(白水社)、『堕ちゆく者たちの反転』(岩波書店)、訳書にヴァルター・ベンヤミン『来たるべき哲学のプログラム』(晶文社)、共訳書に『フロイト全集』(岩波書店)など。編著に田中英光『空吹く風 暗黒天使と小悪魔 愛と憎しみの傷に』(講談社文芸文庫)、『昭和期デカダン短篇集』(講談社文芸文庫)、『葉山嘉樹短篇集』(岩波文庫)、『中上健次短篇集』(岩波文庫)がある。 。

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