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アンコール
アンコール

ジャック・ラカン(1901-81年)は、「フロイトへの回帰」を唱えて精神分析の中興の祖となった分析家にして、第一級の思想家でもあった。サン=タンヌ病院などで臨床に専念したラカンは、独自の分析手法「短時間セッション」を開発したが、これがパリ精神分析協会の分裂を引き起こし、フランス精神分析協会に参加する。しかし、国際精神分析協会への加盟条件としてラカンの「教育分析家」資格取消を要求されたため、1964年にはパリ・フロイト派を創設した。
こうした四分五裂を経ながら精神分析を刷新し続けたラカンが自身の精神分析理論について生前に公刊した著作は、ただ1冊。それが『エクリ』(1966年)だが、これは難解な内容をもつ上、日本語訳には問題があると言わざるをえない。そのような状態が続く中、1953年から始められた「セミネール」は多くの聴衆を集めただけでなく、ラカン生前中の1973年から公刊され始め、聴衆を前に語られた貴重な記録となった。
そのセミネールの日本語訳は、1987年から着手されたが、パリ・フロイト派創設の時期にあたる1963-64年度の『精神分析の四基本概念』までの時期のものに限定されている上、価格も高く、また現在では入手できなくなっているものも多い。
そうした状況の中、選書メチエの1冊として、最も名高い『アンコール』をお届けする。これは1972-73年度のセミネールであり、既存の邦訳からはうかがうことのできない後期ラカンの真髄が語られている。「無意識はひとつのランガージュとして構造化されている」というテーゼから出発し、「想像界」、「象徴界」、「現実界」の分類を中心に練り上げられた前期の思想は、いかなる展開を遂げたのか? このセミネールで、ラカンは「愛」という主題を根底に据え、精神分析を新たな領域に飛躍させていく。「恍惚」や「美」など、さまざまな側面から「愛」に迫り、「無知」という領域が指摘される。そうして「女の享楽」という問題が提示され、以降、最晩年まで続けられたセミネールで展開される後期ラカンが幕を開く。
さまざまな仕掛けが凝らされたフランス語を「日本語のテクスト」として読みうるものにするべく、定評ある二人の訳者が全身全霊を捧げて完成させた待望のセミネール。誰もが待ち望んだ1冊が、ついに登場。
*お詫びと訂正
本書第1刷の著者略歴(266頁)に誤りがありました。心よりお詫びいたしますとともに、以下のとおり訂正させていただきます。なお、第2刷以降は訂正いたします。
【誤】
高等師範学校で哲学、のちに医学・精神病理学を学ぶ。学位取得後はサン=タンヌ病院などで臨床に専念。
【正】
パリ大学医学部などで学び、サン=タンヌ病院などで臨床に専念。
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目次
I 享楽について
II ヤコブソンに
III 書かれたものの機能
IV 愛とシニフィアン
V アリストテレスとフロイト:他〔者〕の満足
VI 神と斜線を引かれた女の享楽
VII 愛〔魂〕のひとつの手紙〔文字〕
VIII 知と真理
IX バロックについて
X ひもの輪
XI 迷路のなかのネズミ
書誌情報
紙版
発売日
2019年04月12日
ISBN
9784065153406
判型
四六
価格
定価:2,145円(本体1,950円)
通巻番号
698
ページ数
272ページ
シリーズ
講談社選書メチエ
著者紹介
1901-81年。フランスの精神分析家。パリ大学医学部などで学び、サン=タンヌ病院などで臨床に専念。1964年にはパリ・フロイト派を創設した。1953年から始められたセミネールは多くの聴衆を集めるとともに、大きな影響を与え続けている。著書に、『エクリ』(全3巻、弘文堂)。
1955年生。精神科医。信州大学医学部卒業。フランス国立ニース大学文学部哲学科博士課程、医学部精神医学専門医課程を経て、現在、医療法人ユーロクリニーク理事長・院長。著書に、『精神病の構造』、『性倒錯の構造』、『幻覚の構造』(以上、青土社)ほか。訳書に、ジャック・ラカン『テレヴィジオン』(講談社学術文庫)ほか。
1951年生。慶應義塾大学文学部卒業。文学博士(フランス国立ニース大学)。現在、明星大学教育学部教授。専門は、フランス現代思想・精神分析。論文に、「自我と欲動」、「機知と他者」(以上、『明星大学研究紀要 人文学部』)、「絵画と構造」(『I.R.S.』)ほか。訳書に、ジャック・ラカン『テレヴィジオン』(講談社学術文庫)。