
天正十年夏ノ記
テンショウジュウネンナツノキ
- 著: 岳 宏一郎

京都の青年公家が見た天下統一をめざす征服者・信長!
信長上洛の未曾有の混乱期をしたたかに生き抜いた天皇と公家たち。
家督を相続するため兄を殺し、弟を殺し、叔父を殺したと噂されるその武将は、公家が武者に抱く先入観を完膚なきまでに裏切っていた。信長の額は白く秀で、目は少し憂愁の色をたたえ、口許は引き緊まり、体つきなど、ほとんど華奢(きゃしゃ)といっていいくらいだった。
橋の中ほどで、信長はちらっとこちらに視線を投げてよこした。公家の立烏帽子(たてえぼし)がめずらしいのかもしれなかった。信長は晴豊の前を通過し、不意に、はっとしたように再びこちらを振り返った。精神がなにかに感応し、首をこちらに向けさせた、とでもいった振り返り方だった。──(本文より)
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書誌情報
紙版
発売日
1996年09月27日
ISBN
9784062083522
判型
四六
価格
定価:1,923円(本体1,748円)
ページ数
294ページ