
陽の子雨の子
ヒノコアメノコ
- 著: 豊島 ミホ

思いがけない夏が、いま始まる。
私立の男子中学に通う夕陽、24にしては幼く見える雪枝、15で雪枝に拾われて4年になる聡。初めて夕陽が雪枝の家を訪ねる日、押入れの中には、後ろ手に縛られた聡がいた……。不安と希望の間で揺れる、青春の物語。
「アンタなんか捨てちゃおうと思うのよ」俺と住んで3年経った頃から、雪枝は何かとそういうことを言う。意地悪を言って俺の気を引こうとするのだ、とわかっていたから、大して気にかけることもなかった。この間までは。「夕陽くん」の存在する今となってはわからない。けれどひとまず、「去年から言ってるじゃん、それ」と突っ込んでみた。いつもなら雪枝は、今度こそ捨てるもん、段ボールの箱に入れて「さとし」って書いて捨ててやる、とか子どもじみたことを言ってふくれるのに、今日の雪枝はじっと布団の上の一点を見つめていた。俺が何もできずにいると、雪枝はぽっとつぶやいた。「聡、大きくなりすぎたよ」――<本文より>
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書誌情報
紙版
発売日
2006年03月29日
ISBN
9784062133685
判型
四六
価格
定価:1,540円(本体1,400円)
ページ数
222ページ
初出
『IN★POCKET』’05年7月号~12月号