
鷹
タカ
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「万人の幸福のために」もっと上等のたばこをつくりたいそう考えたために国助は専売公社を追われた。ある日、巷の古ぼけた食堂で見知らぬ男に声をかけられ運河のほとりの秘密たばこ工場に雇われる。表題作「鷹」のほか「珊瑚」「鳴神」を収録。透徹する深遠な幻想と独特の文体のリズムに痛烈な世相批判を籠める傑作諷刺小説。
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鷹
発売日:2012年04月12日
おひとよしらしい巡査ではあったが、巡査の復讐はおそろしい。今度見つかったらば百年目である。もうその靴音が背後に迫って来るようであった。いや、ばたばたという靴音を聞いた。「謀叛人。」その声が巷に木魂した。「おれは追跡されている。」足は夢中で駆け出していた。しかし、どこへ。不安は自分の顔にはっきり描いてあるだろう。 「万人の幸福のために」もっと上等のたばこを作りたいと考えたために、主人公はたばこの専売公社を追われ運河のほとりの妖しい秘密たばこ工場で働くことになる。さらには未来がわかってしまう明日語を学習させられ……。表題作「鷹」のほか「珊瑚」「鳴神」を収録。深遠なる幻想と独特のリズムの文体をもって痛烈に社会と世相を批判し、今日の抵抗を明日の夢へとつなぐ作品集。 鷗外・漱石・荷風の後、今日に到って、短い序・跋の文の朗々として誦ずべきものをつくることができるのは、おそらくただ一人の石川淳だけかもしれない。――<加藤周一「石川淳または言葉の力」より> ※本書は、「増補 石川淳全集」第4巻(昭和49年5月、筑摩書房刊)を底本としました。