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蜩の声
ヒグラシノコエ
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日々の移ろいのなか、おぼろげに浮かんでくるのは、男と女、今は亡き人達の思い出、戦時下の風景──。時空を超越し、生と死のあわいに浮かぶ、世相の実相。 現代文学の到達点、古井由吉の世界。 対極のあわいを往還しながら到達するさらなる高み――。 記憶の重層から滴る生の消息。 震災をはさんで書き継がれた言葉の圧倒的密度。古井文学の現在を示す最新小説集。 近代の人間はおしなべて、耳の聡かったはずの古代の人間にくらべれば、論理的になったその分、耳が悪くなっているのではないか、すぐれた音楽を産み出したのも、じつは耳の塞がれかけた苦しみからではなかったか、とそんなことまで思ったものだが、この夜、昼の工事の音と夜更けの蒸し返しのために鈍磨の極みに至ったこの耳に、ひょっとしたら、往古の声がようやく聞こえてきたのか、と感じられて耳を遠くへやると、窓のすぐ外からけたたましく、蜩の声が立った。――<「蜩の声」より> ●除夜 ●明後日になれば ●蜩の声 ●尋ね人 ●時雨のように ●年の舞い ●枯木の林 ●子供の行方
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