孟嘗君(5)

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孟嘗君(5)

モウショウクン

文芸(単行本)

【新たな宮城谷伝説、完結】
高きを求める英知と愛の生涯!いま函谷関(かんこくかん)の暁闇を破る者は?人間の大いなる心の成長を風韻高く描ききった文字通り最高の名品!

白圭(はくけい)は微笑していた。「文どのか」涸(か)れた声ではない。いのちのうるおいが残っている声である。「父上――」田文(でんぶん)は白圭の手をさぐった。その手は乾いていた。自分を大きくしてくれた手は、この手だ、とおもうと田文は涙がとまらなくなった。白圭はしみじみと田文をみている。「文どの、人生はたやすいな」「そうでしょうか」「そうよ……。人を助ければ、自分が助かる。それだけのことだ。わしは文どのを助けたおかげで、こういう生きかたができた。礼を言わねばならぬ」「文こそ、父上に、その数十倍の礼を申さねばなりません」「いや、そうではない。助けてくれた人に礼をいうより、助けてあげた人に礼をいうものだ。文どのにいいたかったのはそれよ」白圭はそれから洛芭(らくは)や斉召(せいしょう)などに顔をむけ、――田文がいちど別室にさがったわずかなあいだに、息をひきとった。――本文・函谷関から


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書誌情報

紙版

発売日

1995年11月24日

ISBN

9784062078962

判型

四六

価格

定価:1,708円(本体1,553円)

ページ数

290ページ

初出

『北海道新聞』『河北新報』『東京新聞』『中日新聞』『神戸新聞』『西日本新聞』’93年3月1日から’95年8月31日まで連載(神戸新聞のみ、震災のため延長)

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