
マイページに作品情報をお届け!
とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起
トゲヌキシンスガモジゾウエンギ
- 著: 伊藤 比呂美

この苦が。あの苦が。すべて抜けていきますように。
「群像」連載時より大反響! 話題の<長篇詩>遂に刊行
たらちねの母といえども、生身であります。昔は小さな女の子でありました。怖いときには泣いてました。父や母や夫や王子様に、助けてもらいたいと思っておりました。何べんも助けてもらいました。父にも母にも、夫や王子様にも。でも今はだーれもおりません。父は老いて死にかけです。母も死にかけて寝たきりです。夫や王子様には、もう頼れません。このごろじゃすっかり垂れ乳で、ゆあーんゆよーんと揺すれるほどになりまして、足を踏ん張り、歯をくいしばり、ちっとも怖くないふりをして、苦に、苦に、苦に、苦また苦に、立ち向かってきたんですけど、あゝあ、ほんとに怖かったのでございます。
書誌情報
紙版
発売日
2007年06月13日
ISBN
9784062139441
判型
四六
価格
定価:1,870円(本体1,700円)
ページ数
298ページ
初出
『群像』’06年2月号~’07年4月号