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『新約聖書』の誕生
シンヤクセイショノタンジョウ
- 著: 加藤 隆

新約聖書が成立したのは、キリスト教の歴史のなかで特殊な状況が存在したからである。その歴史的に特殊な状況とはどのようなものなのか。そして新約聖書が成立して以来、新約聖書が権威あるものとして存在することが当然のように考えられているとするならば、そのような事態を当然のこととする特殊な立場が新約聖書をめぐって存在していると考えねばならないだろう。その特殊な立場とは、どのようなものなのか。
新約聖書はキリスト教にとって、この上なく重要な文書集である。しかし新約聖書が現在のものに見合うような形で成立したのは紀元四世紀のことである。地上のイエスが活動をはじめたのは紀元一世紀の前半であり、その後キリスト教運動は紆余曲折を経ながらも、地理的にも人数的にも拡大した。多くの者がキリスト教徒となり、さまざまな活動を展開して、その帰結の一つとして新約聖書が成立したのである。しかしこのことは四世紀になって新約聖書が成立するまでのキリスト教徒には、新約聖書は存在しなかったことを意味する。つまり新約聖書がなくても、彼らはキリスト教徒だったのである。
三〇〇年ほど存在しなかったものが、大きな権威あるものとして存在するようになったのである。したがってキリスト教徒にとって新約聖書の存在は当然のことではなく、いわば特殊なことである。つまり新約聖書が成立したのは、キリスト教の歴史のなかで特殊な状況が存在したからだということになる。その歴史的に特殊な状況とはどのようなものなのか。そして新約聖書が成立して以来、新約聖書が権威あるものとして存在することが当然のように考えられているとするならば、そのような事態を当然のこととする特殊な立場が新約聖書をめぐって存在していると考えねばならないだろう。その特殊な立場とは、どのようなものなのか。
(中略)
本書では、キリスト教における権威の問題に注目しながら、新約聖書がどのような意味で特殊な文書集なのかを探ってみたい。新約聖書の頁をめくって、内容を断片的に読んでいるわけではわからない新約聖書の姿が見えてくることになるだろう。(プロローグより)
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目次
プロローグ──歴史のなかの新約聖書
第1章 イエスの時代
第2章 復活した「イエス」
第3章 主の兄弟ヤコブが登場したとき
第4章 パウロの分離
第5章 世界教会の構想
第6章 ユダヤ人社会の危機
第7章 脚光を浴びるパウロ的教会
第8章 模索するキリスト教
第9章 乱立する文書
第10章 独自の聖書
第11章 正典の成立
エピローグ──新約聖書を「読む」ということ
書誌情報
紙版
発売日
2016年11月11日
ISBN
9784062924016
判型
A6
価格
定価:1,496円(本体1,360円)
通巻番号
2401
ページ数
352ページ
シリーズ
講談社学術文庫
電子版
発売日
2016年11月25日
JDCN
0629240100100011000T
初出
本書は1999年に講談社選書メチエとして刊行されました。
著者紹介
加藤 隆(かとう たかし) 1957年神奈川県生まれ。東京大学文学部仏文科卒。ストラスブール大学プロテスタント神学専攻(博士課程)修了。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学比較文学比較文化博士課程満期退学。神学博士。現在、千葉大学文学部教授。日本の聖書学者、千葉大学教授。1998年中村元賞受賞。神学のほか比較文明論もおこなう。 著書に『新約聖書はなぜギリシア語で書かれたか』(大修館書店)、『福音書=四つの物語』(講談社選書メチエ)、『一神教の誕生─ユダヤ教からキリスト教へ』『武器としての社会類型論─世界を五つのタイプで見る』(ともに講談社現代新書)、『「新約聖書」の「たとえ」を解く』『歴史の中の「新約聖書」』(ともにちくま新書)、『旧約聖書の誕生』(ちくま学芸文庫)、『「新約聖書」とその時代』(日本放送出版協会)などがある。