
阿部俊子 伊勢物語
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「伊勢」は、時世が藤原北家の権力確立に流動している中で没落して行く貴族の一人の男が、誇高く男の純情を歌った愛の歌物語である。地域的にも対人的にも彼は多面的行動的である。情(こころ)は繊細で悲哀にみちていても、待ち耐え忍ぶ女の想(おもい)とは異質である。又彼は造形された人物でなく実在のきらめく歌人である。が、顔や肉体や生活を持たない。虚実の間に形像から開放され抽象されている。「伊勢」が愛好されるのはこの辺に秘密があるようである。
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伊勢物語(下)
発売日:1979年09月06日
この天福本「伊勢物語」は家集でも日記でもない歌物語である。が、百に余る歌物語を書き並べる時、それらを綴り合わせる一筋の糸を、ある男の生涯の流れに求めた。したがって上巻には青年期の純情な一途の思慕と流浪のロマンがあった。下巻としておさめた所に見られるのは、人生経験からにじむ思いやりの中で屈折する熱い情と、年月の中で衰えて行く生命の滅びの歌の哀感である。生きる日をかさねるにつれて長く読者の共感を誘うと思う。