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暗い絵・顔の中の赤い月
クライエカオノナカノアカイツキ
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“生命の自由の羽ばたき”を信じ、自己の全存在を賭けて、惜しげもなく散っていった京大左翼運動の仲間。彼らの心の闇を喚起した奇怪なブリューゲルの絵の世界――戦後初期の文学界に衝撃をあたえ、戦後文学に燦然と聳立する「暗い絵」「顔の中の赤い月」「崩解感覚」など、野間宏文学の特質を顕示する初期作品群。
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最新刊情報
暗い絵・顔の中の赤い月
発売日:2010年12月11日
新人・野間宏、戦後日本に颯爽と登場――初期作品6篇収録のオリジナル作品集 1946年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後の日本に、野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場――第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が、戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。ほかに「残像」「崩解感覚」「第三十六号」「哀れな歓楽」を収録する、実験精神に満ちた初期短篇集。 ーー草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつりと開いている。その穴の口の辺りは生命の過度に充ちた唇のような光沢を放ち、堆い土饅頭の真中に開いているその穴が、繰り返される、鈍重で淫らな触感を待ち受けて、まるで軟体動物に属する生きもののように幾つも大地に口を開けている。