
一日 夢の柵
イチニチユメノサク1
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生々しい奇妙な現実 人が暮らしてゆくという 日常の内奥に差す光と闇を見つめ、生きることの本質と豊穣を描き切る、傑作小説集。 どこかの広場を2階か3階の窓からでも俯瞰した様子の写真を彼は指差した。曇った午後なのか夕暮れ近くか、沈んだ色調の中を幾人もの人が半ば風に化して流れている。足は映るんですよ。言われて初めて気がついた。どの人も靴のあたりだけははっきり形が見えた。身体の無い生温かな足が敷石の上を一斉に歩いている。そうか、足は残るんだ。思わず膝を叩く気分に見舞われた。一歩踏んでから、身体が前に出る間も足はまだ地面についているんです。長身をやおら動かして彼は歩く身振りを大仰に再現してみせた。いかにも靴だけが後ろに残る動作だった。その時、人間はどこに居るんだろうか。どこに居るんでしょう……。――<「一日」より> 第59回野間文芸賞受賞
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一日 夢の柵
発売日:2010年10月10日
日常の内奥にひそむ光と闇。――人々が暮らしてゆく、生々しい奇妙な現実。生きることの本質と豊穣。著者60代半ばから70代半ばにかけて書かれた短篇群、野間文芸賞受賞の12の人生の断片。「夢の柵」「影の家」「眼」「浅いつきあい」「電車の中で」「隣家」「丸の内」「記録」「一日」「危うい日」「久介の歳」「要蔵の夜」収録。 日常にひそむ光と闇 生々しい現実 豊穣の文学。人生の断片、12の短篇。 日常の内奥にひそむ光と闇。――人々が暮らしてゆく、生々しい奇妙な現実。生きることの本質と豊穣。著者60代半ばから70代半ばにかけて書かれた短篇群、野間文芸賞受賞の12の人生の断片。「夢の柵」「影の家」「眼」「浅いつきあい」「電車の中で」「隣家」「丸の内」「記録」「一日」「危うい日」「久介の歳」「要蔵の夜」収録。 三浦雅士 たとえば『一日 夢の柵』の登場人物の誰ひとり生々しくないものはない。「夢の柵」の滝口内科医院の先客3人にしてもそうだ。ほんの一瞬、登場するだけでも生々しい。だが、生々しいと同時に、こいうい人っているよな、と思わせてしまうのである。「影の家」の老女の現実感にいたっては驚くばかりである。しかも、家の近所にも確かにいる、と思わせてしまうのだ。――<「解説」より>