台所のおと
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台所のおと

ダイドコロノオト

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庶民の哀歓を写す幸田文学の達成点 繊細な感覚と文体、清澄な名作集 暮しのなかのなにげない音に絡みあう男と女の意気地。生きる哀しみを捉える確かな視線と透徹した感性。 すり鉢の音は、台所の音のなかではおもしろい音だった。鉢の底とふちとでは音がちがうし、すりこ木をまわす速度や、力のいれかたでもちがうし、擂るものによってもその分量によってもちがう音になる。とろろをすればくぐもった音をだすし、味噌はしめった音、芝海老は粘った音、胡桃は油の軽くなさを音に出す。早くまわせば固い音をさせ、ゆるくまわすと響く。すりこ木をまわすという動作は単純だが、擂るものによっては腕がつかれる。そういう時は2つ3つ、わざとふちのほうでからをまわすと、腕も休まるし、音もかわって抑揚がつく。擂る人がもしおどけるなら、拍子も調子も好きにできるところがおもしろかった。――本文より

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台所のおと 新装版
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台所のおと 新装版

発売日:2021年08月12日

台所からきこえてくる音に病床から耳を澄ますうち、料理人の佐吉は妻のたてる音が変わったことに気付く。日々の暮らしを充たす音を介して通じ合う夫婦の様を描く「台所のおと」のほか、「濃紺」「草履」「雪もち」「食欲」「祝辞」「呼ばれる」「おきみやげ」「ひとり暮し」「あとでの話」を収録。鋭く繊細な感性が紡ぐ名作集。 なにげない日々の暮しに 耳を澄ませ、目を配り、 心を傾ける。 透徹した感性が紡ぐ珠玉の短編集。 女はそれぞれ 音をもっている とかくあやふやに流しがちな薄曇りの感情に 端然とした言葉をあてがい、作中人物に息を吹き込む。 幸田文による人間観察の手つきについて考えていると、 江戸川乱歩とのある対話が脳裏に浮かんできた。 ――平松洋子(解説より) 新装版に寄せて、青木奈緒によるエッセイも収録

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