
最終列車
サイシュウレッシャ
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いま、新型コロナウィルスが猖獗をきわめていますが、これもいつかは終息することでしょう。しかし、コロナは日本人の生活の形式(エートスといっていいかもしれません)を確実に変えました。 コロナ禍が終息し、国内外の観光客が戻ってきても、日本の鉄道はかつての姿を取り戻すことはないでしょう。通勤客が以前と同じ程度にまで戻ることはなく、出張のための移動も減るに違いありません。ある調査では、3割程度の会社員が感染終息後もリモートワークを続けるという見通しが出されています。 正確にいえば、すでにコロナ禍の前から、少子高齢化による通勤客の減少や、それにともなうラッシュ時の混雑率の低下が都市部の多くの鉄道で少しずつ起こっていました。これは「小林一三モデル」の崩壊といえるでしょう。 阪急の創業者、小林一三は、1910(明治43)年に箕面有馬電気軌道(現・阪急宝塚線および箕面線)を開業させたのと同時に、沿線の池田に分譲住宅地を開発し、梅田までの通勤客をつくり出すことで、私鉄会社の経営を軌道に乗せました。この手法は後に、東急など多くの私鉄が模倣するようになり、世界でも珍しい私鉄経営のビジネスモデルとして称揚されました。ところがコロナ禍によって、一世紀以上にわたって続いてきたこのモデルが通用しなくなる時代が本格的に到来したのです。 戦争も自然災害も鉄道に甚大な被害をもたらしたが、復旧すれば客が戻ってきました。一方、コロナ禍は利用客の完全な回復を困難にした点で、戦争や自然災害を上回る危機を鉄道業界にもたらしたことになります。 では、コロナ禍という未曽有の危機から脱却し、鉄道業がふたたび脚光を浴びる可能性はあるのでしょうか。ポストコロナの時代にふさわしい新たな価値を、鉄道は創り出すことができるのでしょうか。 著者の原氏は2019年まで講談社のPR誌『本』(2020年休刊)「鉄道ひとつばなし」を長期連載し、多くの読者を楽しませてくれました。本書は同連載のうち単行本化されていないものを収録し、あらたに「ポストコロナ時代の鉄道」についての考察を加えたものです。鉄学者原氏にとって本書は、文字どおり「最終列車」であると同時に、氏の思索の「ダイヤ改正」と「始発列車」の予告となるものです。
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最終列車
発売日:2024年11月15日
平成(コロナ以前)の思考とは何か 鉄道の本質とは何か 鉄道を愛する政治学者による、思索の到達点/出発点 原武史さんは鉄道をひとつの場として考え、近代日本史のなかに置いてその歴史や現状をとらえてゆく。鉄道を通してその背後にある歴史を見てゆく。(略) 車両から一歩外に出て、鉄道を取り巻く場、環境をとらえてゆく。開かれた鉄道本である。(川本三郎「解説」より) 平成の時代から令和の現在に至り、鉄道という交通手段の本質はいかに変質したのか。 新幹線が増え、ローカル線が衰退する。 豪華列車が登場し、地方で廃線が増える。 そして、コロナ禍が人間どうしの距離を引き離し、鉄道の公共性は失われてゆく。 日本近現代史における「鉄道」の意味を問う愛惜の鉄道文化論。