講談社文芸文庫作品一覧

哀歌
講談社文芸文庫
肉体の恐怖の前には精神など全く意味を失ってしまう。臆病に生き臆病に埋もれて、自分がどんなに卑怯なのか、どんなに弱いのか、たっぷり承知している――弱者。弱者を凝視して聖書とキリストの意味を追究し、「沈黙」への展開を示唆した注目すべき短篇集。人間の深層によどむ(哀しみの歌)を表題に据え、「その前日」「四十歳の男」「大部屋」「雲仙」など12篇を収める。

走れトマホーク
講談社文芸文庫
奇妙でユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調――漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短篇の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9篇を収録。

日本近代文学の起源
講談社文芸文庫
「歴史主義的普遍性」の基盤を鋭くくつがえし、新たな思考の視座を布置・構築して行く、最も現代的な「知の震源」柄谷行人の、鮮やかにして果敢な知的力業。名著『マルクスその可能性の中心』に続く快著。

暗室
講談社文芸文庫
屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカ――脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは……。
屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカ――脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは……。谷崎賞受賞。

夢の島
講談社文芸文庫
巨大な都市のゴミの捨て場所――夢の島。バイクを疾駆させ、主人公を惹きつける若い女。ゴミの集積地が、“魅惑の場所”に鮮やかに逆転する――時代の最尖端での光芒を放つ、日野文学の最高傑作。芸術選奨受賞作。

夕べの雲
講談社文芸文庫
何もさえぎるものない丘の上の新しい家。主人公はまず“風よけの木”のことを考える。家の団欒を深く静かに支えようとする意志。季節季節の自然との交流を詩情豊に描く、読売文学賞受賞の名作。

万延元年のフットボ-ル
講談社文芸文庫
友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満ちた登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長篇。谷崎賞受賞。

忠臣藏とは何か
講談社文芸文庫
なぜ忠臣藏は人気があるのか。『たった一人の反乱』の作者が、あのたった47人の反乱の謎を解明し、忠臣藏論のパラダイムを変革した、文芸評論の名作。野間文芸賞受賞作。
なぜ忠臣蔵は人気があるのか。『たった一人の反乱』の作者があのたった47人の反乱の謎を解明し、忠臣蔵論のパラダイムを変革した、文芸評論の名作。野間文芸賞受賞。

熊野集
講談社文芸文庫
『枯木灘』『鳳仙花』等の力強い文学的達成のあと、更に新たな表現の地平を拓こうとする果敢にしてエネルギーに溢れた“挑戦する志”。現代の文学を全身で担おうとする中上健次の奔騰し凝集しつづける表現の“渦”。

火の河のほとりで
講談社文芸文庫
血の絆、性の葛藤の果てに、生の極致を望む女たちーー雪の日にひとりこどもを殺した! ……少女時代の悪夢が、姉妹に遠い影を投げかける。血の絆に惹かれるように、妹の夫と関係を結ぶ姉・牧。抜き差しならない深みに入り込んでいく二人に、気づこうとしない妹・百合。性の地獄にさらわれながら、ついに女たちは生の明るみへと突き抜けていく。長編700枚。

樹影
講談社文芸文庫
被爆地長崎。敗戦後3年目の夏、華僑の女柳慶子と画家麻田晋は出遭った。原爆病に脅かされる2人はいたわり合い、自らの生を確かめるように愛し合い、10数年の苦痛の果てに死んで行った。著者の故郷長崎の、酷く理不尽な痛みを深い怒りと哀惜をこめて強靱に描く。原爆を告発した不朽の名作。野間文芸賞受賞。

抱擁家族
講談社文芸文庫
妻の情事をきっかけに、家庭の崩壊は始まった。たて直しを計る健気な夫は、なす術もなく悲喜劇を繰り返し、次第に自己を喪失する。不気味に音もなく解けて行く家庭の絆。現実に潜む危うさの暗示。時代を超え現代に迫る問題作、「抱擁家族」とは何か。<谷崎潤一郎賞受賞作品>

スミヤキストQの冒険
講談社文芸文庫
そこは悪夢の島か、はたまたユートピアか。スミヤキ党員Qが工作のために潜り込んだ孤島の感化院の実態は、じつに常軌を逸したものだった。グロテスクな院長やドクトルに抗して、Qのドン・キホーテ的奮闘が始まる。乾いた風刺と奔放な比喩を駆使して、非日常の世界から日常の非条理を照射する。怖ろしくも愉しい長編小説。

群棲
講談社文芸文庫
向う三軒両隣ならぬ“向う二軒片隣”の四軒の家を舞台とし、現代の近郊の都市居住者の日常を鋭く鮮かに描き出す。著者の最高傑作と評され、谷崎潤一郎賞も受賞した“現代文学”の秀作。
向う三軒両隣ならぬ“向う二軒片隣”の四軒の家を舞台とし、現代の近郊の都市居住者の流れ出した日常を鋭く鮮かに描き出す。著者の最高傑作と評され、谷崎潤一郎賞も受賞した“現代文学”の秀作。

錨のない船(中)
講談社文芸文庫
父三郎と母アリス。そして子供たち、安奈、良、恵理。日米戦争は、幸福な家族に過酷な運命と選択を課した。誰よりも強く平和を願った三郎の息子良が陸軍の戦闘機乗りになって、母の故国の飛行機を操縦する若者たちと闘わなければならない!大きな戦争が、男も女も、人も国も、激流に巻き込んで突き進む。

錨のない船(上)
講談社文芸文庫
太平洋戦争前夜、日米開戦回避の特命を帯びて来栖三郎はワシントンに飛んだ。だが、ルーズヴェルト大統領、ハル国務長官を相手に交渉は難航、だましうちのように、真珠湾奇襲攻撃が敢行される。三郎の努力と願いもむなしく、若者たちが殺し合わねばならない戦争へと時代は突入していく。ドキュメンタリー・タッチで描く現代史の悲劇、全3巻。

雪の下の蟹・男たちの円居
講談社文芸文庫
谷崎賞受賞作『槿』をはじめ、70年代以後の現代文学を先導する、古井由吉の、既にして大いなる才幹を予告する初期秀作群、「雪の下の蟹」「子供たちの道」「男たちの円居」を収録。

アカシヤの大連
講談社文芸文庫
美しい港町、アカシヤ香る大連。そこに生れ育った彼は、敗戦とともに、故郷を喪失した。心に巣喰う癒し難い欠落感、平穏の日々の只中で、埋めることのできない空洞。青春、憂鬱、愛、死。果てない郷愁を籠めて、青春の大連を清冽に描く、芥川賞受賞の表題作。ほかに『朝の悲しみ』『初冬の大連』『中山広場』『サハロフ幻想』『大連の海辺で』の、全6編を収録。

錨のない船(下)
講談社文芸文庫
母の故国アメリカの爆撃機B29を体当たりで落し、自らは落下傘で生還しながら、その相貌ゆえに敵国人と間違われ竹槍で殺された良。平和はかえってきた。だが、愛も、恋も、命までも、奪われたものは戻ってこない。巨大な力が個人の意志を押し流し翻弄した暗い戦争の時代、ひたむきに生きた男たち女たちの悲劇を描く。感動の歴史長編小説、全3巻。