台所のおと

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台所のおと

ダイドコロノオト

文芸(単行本)

庶民の哀歓を写す幸田文学の達成点
繊細な感覚と文体、清澄な名作集
暮しのなかのなにげない音に絡みあう男と女の意気地。生きる哀しみを捉える確かな視線と透徹した感性。

すり鉢の音は、台所の音のなかではおもしろい音だった。鉢の底とふちとでは音がちがうし、すりこ木をまわす速度や、力のいれかたでもちがうし、擂るものによってもその分量によってもちがう音になる。とろろをすればくぐもった音をだすし、味噌はしめった音、芝海老は粘った音、胡桃は油の軽くなさを音に出す。早くまわせば固い音をさせ、ゆるくまわすと響く。すりこ木をまわすという動作は単純だが、擂るものによっては腕がつかれる。そういう時は2つ3つ、わざとふちのほうでからをまわすと、腕も休まるし、音もかわって抑揚がつく。擂る人がもしおどけるなら、拍子も調子も好きにできるところがおもしろかった。――本文より


書誌情報

紙版

発売日

1992年09月22日

ISBN

9784062059541

判型

A5

価格

定価:2,136円(本体1,942円)

ページ数

262ページ

初出

収録作品参照

収録作品

  • 作品名

    台所のおと

    初出

    新潮1962年6月号

  • 作品名

    濃紺

    初出

    うえの1970年10月号

  • 作品名

    草履

    初出

    週刊朝日別冊1958年11月1日号

  • 作品名

    雪もち

    初出

    群像1958年1月号

  • 作品名

    食欲

    初出

    新潮1956年11月号

  • 作品名

    祝辞

    初出

    婦人之友社1963年1月号

  • 作品名

    呼ばれる

    初出

    文藝1966年1月号

  • 作品名

    おきみやげ

    初出

    婦人之友1969年12月号

  • 作品名

    ひとり暮し

    初出

    新潮1962年4月号

  • 作品名

    あとでの話

    初出

    新潮1963年4月号

著者紹介

既刊・関連作品一覧