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野川
ノガワ
- 著: 古井 由吉

すべて過ぎ去り、しかも留まる。
戦後半世紀余の時空を往還し喧噪の彼方へ耳を澄ませば、幽明の境に死者たちはさざめき生者は永遠の相へ静まる。
傑作長篇小説
お互いにいたわり、助けあって、深みへ入って行く。長い道を二人して来た末に、女の眼がうすく開いて、瞼をちらちらと顫わせ、笑みを浮かべて遠のいていく顔つきになりながら、背にまわした腕に力をこめてくる。大勢の交わりを、ここで交わっていた。済んで並んで仰向けになった後から、女の息がもう一度深くなる。遅れて家中に息が満ちるように聞こえた。それも静まってまどろみかけた頃、あたしたち、こうして、死んでいるのね、もうひさしく、と女はつぶやいた。――(本文より)
書誌情報
紙版
発売日
2004年05月30日
ISBN
9784062123419
判型
A5
価格
定価:2,420円(本体2,200円)
ページ数
314ページ