月下の犯罪 一九四五年三月、レヒニッツで起きたユダヤ人虐殺、そして或るハンガリー貴族の秘史

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月下の犯罪 一九四五年三月、レヒニッツで起きたユダヤ人虐殺、そして或るハンガリー貴族の秘史

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講談社選書メチエ

 1945年3月24日の晩、ハンガリー国境沿いにあるオーストリアの村レヒニッツで、約180人のユダヤ人が虐殺された。彼らは穴を掘るように命じられ、その縁に服を脱いでひざまずかされた挙げ句、射殺される。死体は穴の中に崩れ落ち、折れ重なっていった。穴を埋めたのもユダヤ人たちだったが、彼らもまた作業を終えた翌朝には無残にも射殺された。
 主犯とされているのは、当時レヒニッツにあった城でパーティーを行っていたナチスの将校や軍属たちである。ナチス・ドイツの劣勢が明白になり、ヒトラーが自殺するひと月前にあたる。戦後になって、彼らが埋められた場所が捜索されたが、今に至るまで死体はおろか、何の証拠も見つかっていない……。
 本書は、この「レヒニッツの虐殺」と呼ばれる事件の真相を追っていくノンフィクションである。2016年に出版されると、たちまち話題を呼び、ベストセラーになった。英語をはじめ、各国語への翻訳も進められている。
 この書物の最大の特徴は、1973年生まれの著者サーシャ・バッチャーニの出自にある。主犯格の将校たちが集っていた城はバッチャーニ家の持ちものであり、当主イヴァンの妻マルギットが問題のパーティーを主催したと言われている。イヴァンは著者サーシャの祖父の兄。つまり、マルギットは著者の大伯母にあたる。
 一時は「ヨーロッパで最も裕福な女性」とまで言われ、派手好みで娯楽にふけり、狩猟を趣味にしていたマルギットこそ、この事件の首謀者だったのではないか、という噂は事件の直後からささやかれ続けてきた。近年でも、これを題材にして、劇作家エルフリーデ・イェリネク(1946年生まれ)が戯曲『レヒニッツ(皆殺しの天使)』(2008年)を書いている。
 では、本当の真相はどうだったのか? 新聞記者を務める著者サーシャは、祖母マリタが残した日記、レヒニッツで食料品店を経営していたユダヤ系の娘アグネスの日記などを手がかりに、レヒニッツはもちろん、関係者に会うために各地を訪れながら、謎に迫っていく。実に7年間に及ぶ探求の旅は、著者自身が抱える父との関係に潜む闇とも交錯しながら、さらに深い次元に向かうことになる。
 こうして、ドキュメンタリーふうに進行する調査を描写していくパートのあいだに、当事者たちが残した手記が挟み込まれ、時には当時展開されたはずの会話を再現するシーンも織り交ざって、独特の雰囲気をそなえたスリリングな読みものが完成した。
 はたして著者は真実に到達できるのか? 探求の旅はどこにたどりつくことになるのか?──衝撃のラストまで読む者を飽きさせない話題の書、ついに選書メチエで登場!


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目次

プロローグ
1
2
3
4
手記I
5
手記II
6
7
8
手記III
9
10
手記IV
11
12
手記V
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
手記VI
23

訳者あとがき

書誌情報

紙版

発売日

2019年08月10日

ISBN

9784065168554

判型

四六

価格

定価:2,035円(本体1,850円)

通巻番号

707

ページ数

304ページ

シリーズ

講談社選書メチエ

著者紹介

著: サーシャ・バッチャーニ(サーシャ・バッチャーニ)

1973年生まれ。チューリヒとマドリッドで社会学を修めたあと、日刊新聞『新チューリヒ新聞』の記者、同じくチューリヒの『ターゲス・アンツァイガー』の記者を務める。2015年より、ワシントンDCで『ターゲス・アンツァイガー』などの特派員を務め、2018年より再びチューリヒ在住。本書(2016年)は世界的に高い評価を受け、英語やフランス語をはじめとする各国語に翻訳されている。

訳: 伊東 信宏(イトウ ノブヒロ)

1960年生まれ。大阪大学大学院文学研究科教授。文学博士(大阪大学)。専門は、東欧の音楽史、民族音楽学。主な著書に、『バルトーク』(中公新書。吉田秀和賞)、『中東欧音楽の回路』(岩波書店。サントリー学芸賞)、『東欧音楽綺譚』(音楽之友社)ほか。訳書に、ベーラ・バルトーク『バルトーク音楽論選』(太田峰夫と共訳、ちくま学芸文庫)ほか。

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