宮内庁長官 象徴天皇の盾として

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宮内庁長官 象徴天皇の盾として

クナイチョウチョウカン ショウチョウテンノウノタテトシテ

講談社現代新書

 戦後の日本国憲法下では天皇は政治的権能を失い、側近が政治的影響力を及ぼすことはなくなった。内大臣は廃止され、侍従長も純粋な天皇の秘書役となる。侍従職は御璽・国璽を管理するが、天皇の国事行為に関与することはありえなくなった。オクはまさしく政治の舞台から退場し、宮中の奥に収まったのだ。
 (中略)
 敗戦後しばらくは天皇に反発する国民も少なくなかったが、世論の大多数は天皇制を支持した。政治的権能は失ったが、精神的権威としての天皇は存続した。天皇は戦後の日本社会でも大きな存在でありつづけた。昭和の戦前戦中期に軍などの勢力にその権威が利用されたように、日本国憲法の下でも内閣その他の政治勢力によって天皇の権力(形式的ではあるが)と権威が利用される危険性は残ったのだ。
 昭和の亡国の歴史をくりかえさないためにも、天皇の政治利用は絶対に阻止しなければならない。ある特定の政治勢力に利用されていると国民が受け止めれば、国民統合の象徴としての信頼と権威は瓦解し、天皇制の存続も危うくなる。
 そのための「盾」として、重要な役割を担うことになったのがオモテを仕切る宮内庁長官である。宮内庁は内閣の下にある官庁だが、天皇を政治的、恣意的に利用しようとする動きがあれば、内閣といえどもその指示に抵抗しなければならない。ある局面では政府から超然とする必要があり、その気概が求められる。宮内庁長官はむずかしい職務である。
 (中略)
 象徴天皇制での宮内庁長官は2025(令和7)年初めの時点で歴代10人を数える。
 (中略)
 象徴天皇制が実施されておおよそ80年。この間に生じたさまざまな課題にたいして、各時代の長官はどう対処してきたのか。それを俯瞰することで、象徴天皇制の形成過程とあるべき姿が浮かび上がってくると思う。(プロローグより)


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目次

 プロローグ──「公僕」と「皇僕」のあいだ
 第一章 戦 争──責任、そして慰霊と記憶
   1 とどまれど、語らず
   2 原爆と靖国
   3 「歴史のトゲ」を抜く
 第二章 象 徴──八十年にわたる「宿題」
   1 あるべき姿は明示されていない
   2 明仁・美智子夫妻の模索
   3 深刻化する皇位継承問題
 第三章 政 治──「皇室の盾」か、「内閣の一部局」か
   1 戦後憲法の下で
   2 「木っ端役人」と言われようとも
   3 「主権回復の日」式典をめぐって
 第四章 家 族──「三太夫」の限界
   1 旧時代の皇族、新時代の美智子妃
   2 親王たちの実存的煩悶と徳仁皇太子の結婚
   3 天皇家の「冷戦」
 第五章 代替わり──新儀は未来の先例
   1 国民主権下の大喪と即位
   2 生前退位の決意
   3 典範改正か、特例法か
 第六章 対 話──書き残されたもののゆくえ
   1 田島の『拝謁記』から
   2 宇佐美と富田、ふたりの処しかた
   3 昭和の終焉と平成以降の記録の可能性
 エピローグ──皇室を人間的空間にすべきとき
 主要参考文献
 あとがき

書誌情報

紙版

発売日

2025年05月22日

ISBN

9784065398036

判型

新書

価格

定価:1,210円(本体1,100円)

通巻番号

2776

ページ数

288ページ

シリーズ

講談社現代新書

電子版

発売日

2025年05月21日

JDCN

06A0000000000905957I

著者紹介

著: 井上 亮(イノウエ マコト)

井上亮(いのうえ・まこと) ジャーナリスト。1961年大阪府生まれ。全国紙記者として皇室、歴史問題などの分野を担当。元宮内庁長官の「富田メモ」報道で2006年度新聞協会賞を受賞。2022年度日本記者クラブ賞を受賞。2024年4月に新聞社を退職。著書に『比翼の象徴 明仁・美智子伝』(上中下、岩波書店)、『天皇と葬儀』『焦土からの再生』(ともに新潮社)、『熱風の日本史』(日本経済新聞出版社)、『天皇の戦争宝庫』(ちくま新書)、『象徴天皇の旅』(平凡社新書)などがある。

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