講談社文庫作品一覧

山椒魚・本日休診
講談社文庫
処女作「山椒魚」から「鯉」「屋根の上のサワン」「丹下氏邸」など初期短編をはじめ、「遙拝隊長」「本日休診」など戦前、戦後の中短編の名作9編を収録。鋭い人間観察と洒脱な表現で、庶民生活の哀歓を描く、井伏文学の精粋集。
処女作「山椒魚」から「鯉」「屋根の上のサワン」など初期短編をはじめ、「遙拝隊長」「本日休診」など戦前戦後の中短編の名作九編を収録。鋭い人間観察と洒脱な表現で庶民生活の哀感を描く井伏文学の精粋集。解説/小沼 丹

海と毒薬
講談社文庫
良心的で小心な医学部の助手が、何故、生体解剖というショッキングな事件の現場に立ち会うことになったのか?彼の置かれた条件と過去を照らし、人間の意志、良心を押し流す運命を描く――。日本人にとって神とは何か、罪とは何かを根源的に追究した問題長編。毎日出版文化賞・新潮賞受賞。

方丈記
講談社文庫
失意の鴨長明が、日野の山奥、方丈の草庵に隠遁し、世の変遷と心の不安のなかに、自らの救いを求めようとする心境を、自伝的につづった、わが国随筆文学史上の不朽の名作。参考資料として、長明真跡の方丈記巻首、方丈庵遺跡を口絵に、現代語訳、解説、年譜、語彙索引を付し、川瀬一馬の名現代語訳でよみがえる。

夏目漱石
講談社文庫
日本近代の巨人・漱石をめぐる「小伝説」を大きくくつがえし、圧倒的な新しい漱石像を示す、俊英・江藤淳の処女作! 漱石を通じて展開される、著者自身の精神の自画像と独創的な日本文化論は、戦後文芸評論史上の画期的成果として注目される。

一路
講談社文庫
人間の業とは、かくも深く重いものなのか? 愛欲に身を任せ、夫を裏切りつづけた加那子の背信の行為は、21年の歳月を経て、どんな報いを受けるのか? 過ちのすえ生み落とした娘は、次男・聡との〈近親相姦〉の責めを負ってみずからの命を断つことに……。愛欲の深淵にひそむ人間の宿業と救いを、豊饒な筆に描く、丹羽文学の真髄を示す長編傑作。読売文学賞受賞作品。
友情
講談社文庫
義侠句かをもって任じている野島、闊達にして聡明な杉子、新進作家大宮‥‥。三人の心理的葛藤を描き、「逆境こそ強く生きるための最大の糧」だとする作者の人生感に裏付けられた、若い世代の必読書。

こころ
講談社文庫
最も親しい友人を死に追いやった罪の意識を抱きつつ、暗い思いで自滅への日々を送る主人公“先生”のこころの行方は?「彼岸過迄」「行人」に続く後期3部作の終作。近代知識人のエゴイズムと倫理感の葛藤を重厚な筆致で掘り下げた心理小説の名編。

女歴
講談社文庫
女性研究家の肩書きを持つ青池妙五は、熱心な実践的女性探求家である。中年男の彼には、20代半ばの後妻と、中学2年になる男の子がいる。しかし彼は、パトロンを持つ夫人をはじめ、スナックのマダム、女子大生、デパート・ガール、バーのホステスなどと、次々と関係を深めていく。好色であり、才能があり、上質の肉体的構造を持っている理想的女性を求めて遍歴する青池妙五の身に、やがて意想外の事件がのしかかる……。「誘惑」に人生の悦楽を、「情事」に人間の実存を賭ける男の、超人的な女性遍歴を、川上宗薫一流の筆致で描いた異色の長編小説。

虹に立つ侍(上)
講談社文庫
飄然と江戸の宵を歩いていた笹井又四郎は、尼崎十万石のお家騒動にまきこまれる。藩主・松平伊勢守が引退し、跡目は嫡子・寿五郎が、将軍家の喜久姫と縁組して継ぐことになっていた。が、家老・岩崎の一党は妾腹の松之丞を推して策動、寿五郎を監禁した。喜久姫との婚約の日は迫っている……。「謎の侍」笹井又四郎は立った。機略に富み剣は無双、彼が女元締め・お香と「のぞき屋」源太を手下に、先ず打った奇手。それは単身、喜久姫を説得して婚儀を延ばすことであった。次に彼は如何にして、寿五郎を厳戒の中から救出するのか。素浪人を装う又四郎とは、そも何者なのか!? <上下巻>

加納大尉夫人
講談社文庫
大阪で指折りのメリヤス問屋の末娘に生まれた安代は、卒直な明るさを持つ娘であった。安代が女学校を卒業した年に、戦争が始まった。ある日、母に見せられた1枚の写真、それが海軍中尉・加納敬作であった。敬作のりりしさにあこがれた安代は、彼の妻になった。少女時代の延長のような稚なさの安代が、帝国軍人の妻らしくなりたいと努力し、緊張するほど、無邪気な失敗がくり返された。そんな妻を、敬作はいとしく思った。戦いは次第に苛烈さを加え、敬作の出征中に、安代は男の子を生んだ。そして半年の後に、敬作の戦死が伝えられた……。ほかに「猫」「山」「二人の女」を収録。

夜光蟲
講談社文庫
夫の部下・栗原に誘われて以来、岡村妙子は浮気の快楽を知り、建築技師の小松、テレビタレントの白石、そして、バンドリーダーのフィリビン人と、次々に相手を変えていく。一方、夫の岡村は、喫茶店のウェイトレス・片倉晶子、芸者・花代、クラブの女・リサ、会社のアルバイト高校生・諸岡とき等と、浮気を重ねている。妻は夫の、夫は妻の浮気を、互いに承知していながら、暗黙のうちに、それすらも一つの刺激材料として、より神秘な官能の深渕を求め、ふたりの性の要求はとどまるところを知らない……。人生永遠の課題ともいうべき性の可能性を、柔軟な筆致で描いた異色の長編小説。

女優
講談社文庫
この女! きらい! パパをいじめて、きらい……。死の床に横たわった父の身体の下に隠された、美しい女の写真は、幼ない未来子に、生まれて初めて人を憎む気持を教えた。あれから、何年の歳月が、流れたことだろうか。あの女、演劇界の女王といわれる鳳しのぶの一人娘として、映画界入りした未来子は、たちまちスターの座についたのだった……。華やかな日々、肉体を通りすぎた何人もの男たち……。いつしか母と似た道を歩むようになった未来子の心は、だが、いつもひえびえと孤独だった。硝子細工のような繊細華麗な女体に、妖しく燃える炎を秘める、ひとりの女優の愛と性を描く。

七色の女
講談社文庫
映画館で佳子と知り合った小原は、2度目の逢引の時、早くも彼女を籠絡することに成功した。佳子は、人妻だった。夫の須藤は、理髪店を経営しているという。ある時、彼は、須藤の店に散髪に行った。佳子から夫はこわい人だと聞かされていた彼は、須藤が自分と佳子の関係を知っているのではないか、と不安を抱いた。数日後、小原の所に、男の声で電話がかかった。その声は、小原と佳子が利用したホテル名を告げ、そこで小原に会いたいという。須藤か? 彼は怯えながらそのホテルに向かった……。という表題作、「マイガール」「ヌードモデル」「女狐」「春の夢」「疑惑の発生」など、全11篇を収録。

怒りの像
講談社文庫
南海の孤島に戦死した父の遺書が、戦後の混乱のなかで異なる人生を歩んでいた兄弟を再会させた。伯父に引き取られた兄の洋一は、大学生活を送っていたが、弟の寛二は、街のチンピラの群に身を投じていた。しかし、寛二には、この世の不正を許せぬ正義の血がたぎっていた。彼の意気を買う人々や兄の支持のなかで、寛二は、街のダニどもに果敢な挑戦を決意した。戦うからには勝たねばならぬ。巨大な圧力に抗し、執拗な妨害にめげず、寛二は、無謀ともいえる闘いをつづけていく……。悪に対する純粋な怒りと人間の不屈の闘志を、一人の若者に托して謳い上げた、長篇小説。

誘惑の森
講談社文庫
<羊の眼>を侑子に教えてくれた男があった。それは、細毛が器官をくすぐる性具だった。バーに勤め出して3年になる侑子は、さまざまな男によって性の秘術を知った。そんな体験を繰り返しながら、侑子は、心の中で何かを求めていた。画家の福田が、そんな侑子にとって、特別な存在となった。ホテルで美しいけもののように燃えた翌朝、侑子はふと涙ぐんだりするのだった……。という、性のひだひだをあやしく描きつくした「誘惑の森」の他に、「魅惑の罠」「よろこび」「バッハと偶発」「失神派」「密議」「夢うつつ」の6篇を収録。著者の円熟ぶりを示す好短篇集である。

渇きの日
講談社文庫
滝乃の体は、日常にないものへの渇きに、いらだっていた。電車の中で白い指の男を見つけて合図を送ったり、高校時代の教師を呼び出して、その渇きをいやそうとするのだが、やはり、彼女は、体が何かを求めてあぶくを出しながら煮えたぎるのを、どうすることもできないのだった。そんな彼女は、ある日、陽に灼けた上半身をむき出しにして建築現場で働いている2人の労働者と、声を交わした。間もなく2人の労働者と滝乃は旅館へ……。という「渇きの日」の他に、「処女前後」「二度目から素敵」など、全11篇を収めた魅力短篇集。

夜ごとの肌
講談社文庫
梶岡は、3日に1度媾合しないと、体の調子がよくなかった。父と一緒に歯科医を開業していて、生活には困らなかったが、独身なので、その3日目が来ると、患者の治療よりも、会うべき女のことばかり考えるのだった。若いということと熱心なことのために、彼は、その3日おきの要求をを充たしつづけた。あるときは、少女時代に彼にツンとしていた女と再会して、その日のうちにホテルへ連れ込んだし、あるときは、友人の妻と、その友人が眠っているそばで重なり合う幸運にもめぐりあった……。この長編小説は、夜ごとにかわる女の肌をなでるように描いた性のまんだらである。

悦楽の傷み
講談社文庫
綾子は、戸村との結婚を真剣に考えるようになってからのある日、クラスメートの村井に電話をした。彼女は、村井に誘惑してもらいたい気持ちだった。プレイボーイの村井は、彼女が予想した通りに、ことを運んでくれた。千駄ヶ谷の旅館で村井に抱かれたとき、彼女は、その日の冒険の原因になった戸村の浮気など、どうでもいいという気分になっていた。悦楽の中にのめり込みながら、自分の中の女が声をあげていた……。平凡な働く女性の肉体と心の奇妙な交錯を、しゃれた筆致で描いた「悦楽の傷み」の他に、「女体感応」「失神作家」「獣と会った日」など8篇を収めた珠玉短篇集。

火の蛇
講談社文庫
「あれは、あなただったのね」……大乃木容造に襲われたとき、美樹は、はじめて気づいた。10歳の夏の嵐の午後、襖の外から垣間見た光景と、同じ姿勢だったからだ。美樹の祖母・小しのを開花し、母の真穂を開眼させた容造は、せめて、生きている限り、ただの一度でいいから、美樹をこの腕に抱きしめてみたいという、火のような欲望に駆られていた。美樹の激しい抵抗に、一度は燃えた容造も、その一言で全身から活力が萎えていった。だが……。宿命のかなしさ、女の業を描いた《火の蛇》をはじめ《秋扇》《うつり紅》など、全7篇を収めた短篇集。

歓ぶ女
講談社文庫
大町が道をたずねるために立ち話をした人妻は、印象的な美人だった。彼は、偶然を装ってその人妻と再会し、数時間後にはホテルへ連れ込むことに成功していた。女の道にかけて、大町には、不可能ということがなかった。そのためには、相手の女につきまとう若い男に殴られて、失神することにも耐えた。一方、彼の友人の秋山は、芸者の菊丸にネツをあげ、「お座敷旦那」になっていた。菊丸には、すくなくも10人の男がいて、それが秋山の悩みのタネだった……。二人の男の色道修行を追いながら女の百態を描き尽した、魅力ある長編小説である。「新・肌色あつめ」の第3巻。