創文社オンデマンド叢書作品一覧

北京における近代伝統演劇の曙光 非文字文化に魂を燃やした人々
創文社オンデマンド叢書
歴史的大転換期を迎えていた晩清民初、人々の人生の折節に深く関わって機能していた演劇は、圧倒的多数の無筆の民衆を啓蒙し、中国を近代化へと導く大きな役割を果たした。本書は当時の史料を基礎に、当時の視点に立って、中国近代伝統演劇史の実態を明らかにした第一級の歴史書。啓蒙慈善劇が無数の観客のみならず、被差別民であった役者自身の地位向上と自覚をも導いたことを指摘し、慈善劇の演劇史的意義を考察。近代的芸術性を追求した名女形梅蘭芳の登場から上海公演や新劇との影響関係を辿り、旧役柄制の打破と人物表現おける彼の改革と成功が、近代否定的評価を受けた私寓制度とブレーンの力にあったことを解明。同時に、当時男性役者を駆逐する破格の人気を得た二大女優、劉喜奎と鮮霊芝の成功への道と伝統演劇を近代化に導いた彼女らの功績を顕彰、往時の女性役者にまつわる不条理な末路にも触れる。さらには、登場して間もない新聞というメディアが劇界に及ぼした絶大な影響と変質を批判的に検討するとともに、慈善劇を初め演劇改良に力を注いだ田際雲と、北京女優劇の発展を担った楊韻譜といった?子劇役者や脚本家、啓蒙演劇家であり革命家王鐘声など、歴史の波濤の中に呑み込まれた無名の英雄たちを、著者の緻密で共感的な筆致で現代に蘇らせる。文字と無縁の民衆が芸能者と共に不断に築き上げてきた文化、これまで埋もれていた中国の基層文化を闡明し、非文字文化研究を中国学の主柱の学問領域に高めんとする記念碑的大著。
【目次より】
用語と史料について
第一章 非文字文化による民衆啓蒙と演劇改良
第二章 晩清北京の劇界に対する四大禁令
第三章 晩清における北京の劇場
第四章 晩清の啓蒙義務戯とその演劇史的意義
第五章 北京における娼妓義務戯と坤劇の出現
第六章 近代北京における商業坤劇の初公演
第七章 私寓制度と梅蘭芳の登場
第八章 晩清北京の〓子劇とその役者
第九章 主要役柄の変位と榔子劇花旦
第十章 晩清各商埠の坤劇を中心とした演劇状況
第十一章 警醒啓蒙演劇家王鐘声と北京の劇界
第十二章 民国元年の禁令解除と坤角の登場
第十三章 坤班独立の困難と破格の影響
第十四章 坤劇の問題点と充実への道
第十五章 梅蘭芳の改革と成功への道
第十六章
第十七章 楊韻譜と民初坤角二大花旦の登場
第十八章 梅蘭芳の時装戯と古装戯
第十九章 民国初期の北京における新劇活動
第二十章 劉喜奎以前の京津坤角新編戯
第二一章 志徳社と楊韻譜の新編戯
第二二章 民国初期の北京劇界と新聞界
第二三章 役者に対する差別と坤角の複雑な事情
第二四章 非文字文化の伝統演劇が輝かせた近代の曙光
参考文献一覧

アメリカ的理念の身体
創文社オンデマンド叢書
人権概念を史上初めて提唱した17世紀のピューリタン、ロジャー・ウィリアムズ。アメリカ独立以前の、ジョン・ロックより半世紀も早い出来事であったことは、わが国ではまったく知られていない。本書は、「寛容と良心」「政教分離」「信教の自由」という倫理学上の鍵概念をめぐる哲学的探求であると同時に、それらが初期アメリカ社会の歴史においてどのような実験と紆余曲折を経てきたかを尋ねる政治学的な探求である。まず中世スコラ学の良心論から歴史的系譜を辿り、近代の愚行権の神学的由来に触れた上で、現代社会が享受する自由がいずれも宗教的主張を淵源とすることを示し、自由主義の中核概念である寛容を批判的に検討する。次に、現代憲法論の争点ともなる政教分離に焦点を当て、その原型であるウィリアムズの思想と歴史的評価の変遷を考察、発展期の矛盾と逆説から生まれた歴史的な知恵を尋ねる。さらに、信教の自由の具体的な表現として、初期ハーヴァード大学に見るピューリタニズムの知性主義、反知性主義としての信仰復興運動、市場原理に動かされる20世紀の教会を論じ、現代アメリカ社会の実利志向や大統領選挙にも影響を及ぼし続ける思想構造を分析する。わが国で手薄なアメリカの宗教理解を深化させ、アメリカを内面から思想史的に探求した画期的業績。ますます多元化する現代社会において、異なる思想が平和裡に共存するためのモデルを提供して、現代リベラリズムにも一石を投じる。
【目次より】
序章
第一部 寛容論と良心論
第一章 中世的寛容論から見た初期アメリカ社会の政治と宗教
第二章 「誤れる良心」と「愚行権」
第三章 「誤れる良心」と「偽れる良心」をどう扱うか 現代寛容論への問いかけ
第四章 人はなぜ平等なのか
第二部 政教分離論 発展期の錯綜と現代の憲法理解
第五章 初期アメリカ社会における政教分離論の変容と成熟
第六章 ロジャー・ウィリアムズの孤独
第七章 さまよえる闘士 ロジャー・ウィリアムズ評価の変遷と今日の政教分離論
第八章 教会職と政治職
第三部 信教の自由論 プロテスタント的な自由競争原理の帰結
第九章 プロテスタント的な大学理念の創設
第一〇章 ジョナサン・エドワーズと「大覚醒」の研究史
第一一章 反知性主義の伝統と大衆リヴァイヴァリズム Harvardism, Yalism, Princetonismをぶっとばせ
第一二章 キリスト教の女性化と二〇世紀的反動としての男性化
結章
あとがき
註
引用文献一覧

雇用差別への法的挑戦 アメリカの経験・日本への示唆
創文社オンデマンド叢書
人種・ジェンダーなどによる雇用差別にアメリカはどのように取り組んだのか? 1964年代から現在までの法律の変遷を辿る。日本にも大いに参考になる事例がある。
【目次より】
目次
序論
PROLOGUE 暗く厳しい長い冬 第7編制定以前のアメリカ社会
ACT I 栄光への道のり 第7編法制形成史
Scene I 雪どけ 萌芽期の雇用差別禁止法
Scene II 春をよぶ嵐 人種差別撤廃を求める運動の高まりと雇用差別禁止法の成立
Scene III 光り輝く季節 アファーマティブ・アクションから差別的効果法理の形成へ
INTERMEZZO 第7編および大統領命令11246の実現の仕組み
ACT II 漸次的後退 第7編法制の受難の歴史過程
Scene I 過ぎ行く夏 第7編法制の後退の始まり
Scene II 冬の時代へ 共和党政権下における人きな後退
Scene III 小春日和,そして,木枯らし 若干の揺り戻し,そして再度の後退
EPILOGUE 再ぴ春を 法学による判例批判・第7編法制再建の模索
補論I セクシュアル・ハラスメント法理
補論II アメリカ法の特質
補記
あとがき

ハンス=ゲオルグ・ガーダマーの政治哲学 解釈学的政治理論の地平
創文社オンデマンド叢書
20世紀ドイツの哲学者・思想家で、解釈学の第一人者ガーダマーは、政治をどう考えたのか。ハーバーマスとの対話などを基に探る。
【目次より】
序 政治的なるものへの問い
第一部 ハンス=ゲオルグ・ガーダマーの政治哲学
第一章 実践哲学の復権と哲学的解釈学
第一節 アリストテレスにおける実践
第二節 実践哲学の復権
第二章 ガーダマーにおける芸術と政治 『真理と方法』第一部の政治哲学的読解
第一節 ガーダマーにおける美的政治
第二節 ガーダマーにおける詩的政治
第三章 ガーダマーにおける歴史と政治 『真理と方法』第二部の政治哲学的読解
第一節 解釈学的実践の場所としての伝統的共同体
第二節 解釈学的実践の目的
第三節 歴史的運動としての解釈学的実践
第四章 ガーダマーにおける言語と政治 『真理と方法』第三部の政治哲学的読解
第一節 解釈学的対話の場所としての歴史的=言語的共同体
第二節 解釈学的対話の目的
第三節 問答法的運動としての解釈学的対話
第二部 ガーダマーの政治哲学の現代政治理論における地位
第五章 ガーダマー-ハーバーマス論争の政治理論上の意義
第一節 ハーバーマスの批判 解釈学と批判理論
第二節 批判的解釈学から討議の政治ヘ カール=オットー・アーペルの政治理論
第三節 ガーダマーからの応答(1) 解釈学的対話と普遍的討議
第六章 ガーダマー-デリダ論争の政治理論上の意義
第一節 デリダの批判 解釈学と脱構築
第二節 ラディカルな解釈学から差異の政治ヘ ジャンニ・ヴァッティモの政治理論
第三節 ガーダマーからの応答(2) 解釈学的対話と文の抗争
第七章 ガーダマーとチャールズ・テイラー 政治理論としての哲学的解釈学
第一節 「間」としての哲学的解釈学
第二節 哲学的解釈学のアポリア
結 政治的なるものと宗教的なるものの間で
あとがき
註
参考文献

ガラテヤ共同体のアイデンティティ形成(関西学院大学研究叢書)
創文社オンデマンド叢書
これまでガラテヤ書研究とパウロ研究一般は思想史研究という領域に限定されて行われてきた。本書は、アイデンティティ形成の文脈と実践的諸相に着目し、パウロとユダヤ教あるいはユダヤ人キリスト者のあいだで共同体アイデンティティの形成に関する期待がいかに異なっていたかを分析し、またバプテスマ、聖霊顕現体験、遺物としての書簡が共同体アイデンティティ形成に果たした役割を明らかにする。アイデンティティ理論と境界性理論を積極的に用い、また種々の歴史的宗教共同体との類例的比較をとおして、いかにパウロが独自の共同体アイデンティティ形成を試みたかをテクストの内から読み取り、宗教の実体に注目する社会科学的批評学を通してガラテヤ書を考察した画期作。
【目次より】
緒言
叢書・雑誌等の略語
序論
第1部 共同体アイデンティティ形成
第1章 社会学・人類学的理論的枠組み
第2部 ガラテヤ共同体におけるアイデンティティ形成の文脈
第2章 パウロとインストゥルメント型の共同体アイデンティティ形成(ガラ1.11-24)
第3章 第二神殿期ユダヤ教における異邦人編入
第4章 エルサレムとアンティオキアにおける対立関係と共同体アイデンティティ形成(ガラ2.1-14)
第3部 ガラテヤ共同体におけるアイデンティティ形成の実践的諸相
第5章 アブラハムと共同体アイデンティティ形成:サラ・ハガル物語の読み直し(ガラ4.21-31)
補遺 ガラテヤ信徒の宗教的感性とアイデンティティ形成
第6章 バプテスマと共同体アイデンティティ形成:定式文三対構成の発展と機能(ガラ3.27-28)
第7章 聖霊と共同体アイデンティティ形成:アイデンティティの二面性に関する考察(ガラ5.1-6.16)
第8章 書簡と共同体アイデンティティ形成:アイデンティティの場としての文書共有(ガラ6.11)
結論
参考文献

カントの批判哲学と自然科学 『自然科学の形而上学的原理』の研究
創文社オンデマンド叢書
本邦では本格的研究が少ない、カント『自然科学の形而上学的原理』をテキストとし、カントの自然科学論と批判哲学との関係を論じる。同書が『純粋理性批判』の応用編にとどまらない固有の意義をもつことを論証した上で、カントの力学論の問題点をニュートン力学との対比を通じて検討、同書と『批判』との関係を様々な角度から検証し、『批判』が同書のうちに提示されている動力学的自然哲学と調和しそれを支える新たな存在論を確立することを企図していたという事態を明らかにする。カントの批判哲学的思考方法が、現代もなお十分な有効性をもちうることを訴えた研究。
【目次より】
序章 『自然科学の形而上学的原理』という著作
一 自然科学と形而上学 二 『原理』の成立状況 三 「自然科学の形而上学的原理」という表題 四 『原理』序文の内容 五 『原理』本論の内容
第一章 数学的自然科学の形而上学的基礎づけの問題
一 『原理』の課題 二 物質の経験的概念について 三 『原理』と近代自然科学との関係
第二章 純粋自然科学と経験的自然科学のあいだ 『自然科学の形而上学的原理』から『オープス・ポストゥムム』へ
一 純粋自然科学とは何か 二 「動力学に対する総注」の意義 三 『オープス・ポストゥムム』の課題 四 カントにおける熱素の概念
第三章 カントにおける実在性と客観的実在性
一 実在性とは何か 二 客観的実在性とは何か 三 実在性としての力 四 物体の運動と実在性としての力
第四章 カントの力学論における力、慣性、質量概念の再検討
一 『原理』の力学章に見られるカントの力概念 二 『活力測定考』におけるカントの力概念 三 『プリンキピア』における力と慣性 四 『自然モナド論』および『運動と静止』に見られる力と慣性 五 ニュートンの質量概念 六 『原理』力学章におけるカントの質量概念
第五章 カントの運動経験の理論
一 現象学の課題 二 運動学のレベルにおける運動の規定 三 動力学のレベルにおける運動の規定 四 力学のレベルにおける運動の規定
第六章 カントの動力学的空間論
一 『批判』の感性論における空間論 二 批判期前におけるカントの空間論 三 ニュートンの運動論 vs カントの運動論 四 運動の規定と絶対空間
第七章 自然科学と自然哲学
一 自然科学の認識批判的な基礎づけとしての自然形而上学 二 物質の運動経験の構成原理としての運動学と力学 三 動力学的自然哲学と批判哲学的存在論
第八章 カントの動力学論と現象的存在論
一 カントの動力学論の基本特徴 二 カントの動力学論と空間論 三 動力学的自然哲学と現象的存在論 四 空間の超越論的観念性と動力学論

ハイデガー 存在と行為 『存在と時間』の解釈と展開
創文社オンデマンド叢書
ハイデガーの『存在と時間』は存在論の書物である。では、『存在と時間』のよく知られた、〈大工職人がハンマーをふるう仕方や、人が生きていく上で下す選択のようなものを分析すること〉が、なぜ存在論をやっていることになるのか? 本書は読者を悩ませ続けながらもこれまで明確な答えの出ていないこの問いに、『存在と時間』における「存在と行為」の内的連関を解き明かすことで正面から答える。
【目次より】
序論
1 存在と行為 問題設定
2 「ハイデガーに実践哲学・倫理学なし」という批判について
3 「ハイデガーの実践哲学」研究の台頭について
4 研究方法
第一章 道具・事物・世界 実在問題の解体
1 実在問題と存在論的差異
2 道具の「自体存在」
3 道具的存在性と事物的存在性
4 世界の閃きと不安 実在問題の無意味さ
5 存在観念論説との最終対決 ハイデガーのフッサール批判
第二章 行為と自己理解 行為者性に対する実存論的アプローチ
1 行為とは何か 議論状況の概観
2 行為能力の理解 理解の存在者的意味
3 目的であるもの・有意味性・世界内存在 理解の存在論的意味
4 行為の共同性と自己理解 世人論の射程
5 動物でもなく主観でもなく 不安再説
第三章 道徳性の実存論的‐存在論的基礎 『存在と時間』におけるエートスの学
1 善悪に基づく責任概念に対する存在論的批判
2 自己統制と道徳的懐疑
3 責めある存在 道徳性の実存論的基礎
4 良心と決意性
5 他者の問題 道徳性の基礎付けの帰趨
6 『存在と時間』の行為概念 制作と実践の無差別化、その政治哲学的含意
第四章 幸福・死・時間性 ハイデガーとアリストテレス
1 ハイデガーによるアリストテレス幸福論の批判
2 完了存在としてのテロス
3 カイロス論的な時間
4 全体存在への問い 死の実存論的分析
5 本来性とフロネーシス 行為の時間性
6 行為者性と可死性
結論
1 本書の要約 2 今後の課題と展望
注
あとがき
文献表

宮田光雄思想史論集4:カール・バルトとその時代
創文社オンデマンド叢書
神学者カール・バルトの政治倫理を同時代史の激動と重ねて検証し、《政治的人間》バルトの魅力を生き生きと描く。
【目次より】
I カール・バルトの政治思想
1 カール・バルト 政治的・神学的評伝
はじめに カール・バルトヘの旅
一 危機の時代と闘いの出発 二 ドイツ教会闘争の只中で 三 ヒトラーの戦争に抗して スイスからの《―つの声》 四 東西対立と冷戦の論理を越えて 五 神の希望の弁証法
2 《政治的人間》としてのカール・バルト ニつの公開書簡論争
一 コンテキストの中の神学 二 東と西の間の教会 エーミール・ブルンナーとの往復書簡 三 教会闘争の前哨戦 エマヌエル・ヒルシュとの往復書簡
3 バルト『和解論』の政治倫理 『教会教義学』遺稿を読む
一 『和解論』の倫理 その構成と主題 二 《主なき諸権力》の支配 三 闘うキリスト者=《神国到来》の希望の証人
II 同時代史の中から ナチ・ドイツの時代
4 ナチズムの意義
一 危機の精神的状況 二 ナチズムの思想と行動 三 ナチズムの意味
付論 ラウシュニング『ヒトラーとの対話』異聞
5 パウル・ティリッヒの政治的思惟
6 エルンスト・カッシーラーとナチズム カッシーラー『国家の神話』を読む
一 カッシーラーの生涯と著作 二 カッシーラーの神話理論 三 《現代の政治神話の技術》に抗して
7 南原繁とカール・バルト
一 南原とバルト『今日の神学的実存』(一九三三年) 二 南原とレーヴィットのナチス批判 三 南原の政治哲学とバルト 四 南原の『二十世紀の神話』批判とバルト 五 待ちつつ急ぎつつ 内村・南原・バルトの平和論
おわりに 南原とバルトの出会い
III 同時代史の中から アデナウアーの時代
8 西ドイツの政治と経済
一 一九六一年総選挙の相貌 二 経済奇跡の光と影 三 連邦議会の表と裏
9 西ドイツの宗教と政治
一 戦後の政治的カトリシズム 二 プロテスタント教会と政治 三 教会兄弟団の運動
10 アデナウアー時代の終焉
一 アデナウアーの遺産 二 シュピーゲル事件の一年 三 エーアハルトの《新》路線
付論 西ドイツ司法の社会的性格
11 ネオ・ナチ政党の台頭と基盤 ドイツ国家民主党の思考と行動
一 NPDの得票分析 二 NPDの組織と指導 三 NPDの論理と機能 四 台頭要因と展望
終章 神の愉快なパルティザン マルティン・ニーメラーとカール・バルト
あとがき 解説と解題に代えて

近世の非合法的訴訟
創文社オンデマンド叢書
法制史学の泰斗による、江戸時代の駕籠訴、駆込訴などの通常の司法とは異なる方法での訴訟手続を研究した重要著作。
【目次より】
はしがき
序章 本書の課題と構成
一 本書の課題
二 本書の構成
第一章 駕籠訴・駆込訴の取扱い
第一節 『駕籠訴・駆込訴取扱帳』
第二節 老中への駕籠訴・駆込訴
第一項 老中への駕籠訴・駆込訴の取扱い
第二項 老中への駕籠訴人・駆込訴人の取扱い
第三節 三奉行への駕籠訴・駆込訴
第四節 小括
第二章 駕籠訴・駆込訴の背景
第一節 序
第二節 訴訟抑圧
第一項 序
第二項 町村
第三項 代官所
第四項 大名領、旗本領
第三節 不公正な審理
第一項 序
第二項 「公正な審理」の理念とその不徹底
第三項 現実の「訴訟」審理
第四節 訴訟遅延
第一項 序
第二項 訴訟遅延とその背景
第三項 未済案件届出制と訴訟遅延の常態化
第四項 訴訟遅延と越訴
第五項 訴訟遅延の背景再論
第五節 「上訴」制度の不備
第一項 近世日本の上訴
第二項 清代中国、イングランドの上訴
第三項 近世日本における「上訴」制度の不備の理由
第四項 「上訴」制度の不備と非合法的「訴訟」
第五項 「差出」
第六項 訴状箱(目安箱)・巡見使
第七項 上訴制度導入と非合法的「訴訟」(越訴)の終焉
第三章 駕籠訴・駆込訴の機能
第一節 審理の実現
第一項 幕府中央機関での審理の実現
第二項 支配役所での審理の実現
第二節 「法」の回復・実現
第一項 「法」の回復
第二項 「法」の実現
第三節 「訴訟」制度の補完物・近世国家の安全弁
終章 「訴訟」制度の限界と駕籠訴・駆込訴の意味
あとがき

アリストテレス政治哲学の重層性
創文社オンデマンド叢書
前4Cの古代ギリシア哲学の巨人は、自然学、論理学、形而上学そして政治学についても物した。その著作の深い洞察を改めて読み解く。
【目次より】
はじめに
序章 アリストテレス政治哲学研究の諸前提 伝記的素描、『政治学』の構成、研究の方法
一 伝記的素描 二 『政治学』の構成 三 研究の方法 分節・統合的言分析
第一章 「統治(アルケー)」の二重性 E・バーカー、H・アレントの「アルケー(統治)」理解との対比において
一 はじめに 二 E・バーカーのアリストテレス理解 三 H・アレントのアルケー理解 四 アリストテレスにおけるアルケー把握 五 結びにかえて
第二章 「公的なるもの(ト・コイノン)」の重層性
一 問題の所在 二 「コイノン」の用例の検討 三 国家と家 四 市民規定の二重性 五 結びにかえて
第三章 「正(ディカイオン)」の重層性
一 問題の所在 二 訳語の問題 三 「正」の構造 タクシス(整序づけ)論の視角から 四 「正」の構造 エートス論の視角から 五 「正」の二重性 倫理学から政治学へ 六 拡張的転用としてのディカイオン 奴隷に対して 七 結びにかえて
第四章 所有論の位相
一 問題の所在 二 所有、富、規定の二重性 三 財産の獲得をめぐる方法の二重性 四 蓄財術への実用的対応 五 理想的国家体制における所有の原理 六 結びにかえて いわゆる人間中心主義をめぐって
第五章 知慮(フロネーシス)の重層性
一 問題の所在 二 『政治学』における知慮(フロネーシス)、観想知(テオーリアー)、直知(ヌース) 三 『政治学』『ニコマコス倫理学』における哲学と政治 四 直知(ヌース)の四つの位相 五 知慮の構造 六 知慮の定義と知慮が働く場 七 実践概念の新たな地平 八 結びにかえて
第六章 国家論の構造
一 問題の所在 二 いわゆる自然的国家論について 三 アリストテレスにおける国家の定義 四 現実的国家体制論 五 理想的国家体制論 六 結びにかえて
第七章 アリストテレス政治学における国内的・国際的秩序観について
一 序 二つのアリストテレス観 二 アリストテレス政治学における秩序 三 アリストテレス政治学における個人と共同 四 アリストテレスにおける国家 五 アリストテレス政治学における国際的秩序観 六 結びにかえて
終章 展望あるいはアリストテレス政治哲学の現代的意義
一 直知論 二 意志論と感性論 三 音楽教育論と直知
補論一 アリストテレス政治学における「コイノーニアー 」と家と王の統治
補論二 アリストテレス政治学の基本用語「ポリーテウマ」について
註
あとがき
文献一覧

旅人の脱在論 自・他相生の思想と物語りの展開
創文社オンデマンド叢書
存在神論や根源悪の問題を突破した脱在論の構築を志向しつつ、物語り解釈から、他者論さらに相生論の地平を披く。間・辺境を越境する旅路に読者を誘う思想的試み。
地球化時代の現代、われわれはどのような危機と虚無の只中にあるのか。人間には明るい和解と共生の未来が開かれているのか。本書は前著『他者の甦り』の提起した問いを引き継ぎ、存在神論や根源悪の問題を突破した脱在論の構築を志向しつつ、物語り解釈から、他者論さらに相生論の地平を披く。間・辺境を越境する旅路に読者を誘う思想的試み。
アウシュヴィッツ的現代の悲劇を脱出する思想的方策、すなわち存在論を突破した脱在論「エヒイェロギア」の構築を目指す。まず、エヒイェロギアがどのようにヘブライ旧約物語りから誕生するかという前著のテーマを解説した上で、他者に関わる物語り群の解釈を通し、他者論の地平を考究する。ギリシア古典のオイディプスに見られる人間の悪なるもの、旧約における預言者エリアの絶望と再生のドラマや新約におけるイエスの譬え、そして西洋中世において破壊的力を持つとともに他者とのかけがえのない出会いをもたらすとされた恋愛論を取り上げ、そこに脱在「エヒイェ」の文学的な展開を示す。さらにその展開のエネルギーが日本へも及び、宮沢賢治や石牟礼道子の文学と生に現成していることを、作品の読解により探究、近代化がもたらした社会問題を思想的観点から論じる。閉塞化する大きな物語を脱し、それらの間、辺境を放浪する旅路に読者をいざなう希望のメッセージ。古典テキストの語りえざる声に耳を傾ける本書の姿勢は、古典論としても重要な示唆を与えよう。
【目次より】
序
目次
第一部 アウシュヴィッツの審問を前に 物語り論的解釈からヘプライ的脱在論(エヒイェロギア)へ
第一章 和解と相生への荊棘的途行き 小さな物語りとエヒイェロギアに向かって
第二章 「アブラハム物語り」の現代的地平 自同性の超克・脱在(ハーヤー・エヒイェ)と自他相生の物語り
第二部 物語りに働くエヒイェと他者の地平 差異化を生きる放浪の人物群
第三章 無なる荒野に咲く花 オイディプスとホセア
第四章 唯一神から「残りの者」へ 預言者エリアの物語り
第五章 イエスの譬え
第六章 恋愛の誕生 唯一・一回性ということ
第三部 地涌の菩薩たち 言葉を焚く賢治と石牟礼道子
第七章 宮沢賢治の修羅的菩薩像と相生協働態の諸相
第八章 たましい(魂・anima) への道 石牟礼文学から始める
註
むすびとひらき
初出一覧

レヴィナス 犠牲の身体
創文社オンデマンド叢書
一人のユダヤ人哲学者として戦争と暴力の時代を生き抜いたエマニュエル・レヴィナス(1906-1995)は、戦後ヨーロッパを代表する倫理思想家として広く知られている。〈他者〉に対する「責任」と「善意」の重要性を説いた哲学者レヴィナス――だが、その思想は、けっして無害でナイーブな道徳論に埋没してしまうものではない。そこに伏在している挑発的かつ複合的な思索の可能性を読み取るべく、本書では、これまであまり語られることのなかったレヴィナスにおける「犠牲」の問題に焦点を当てる。レヴィナスがその知的源泉とした現象学的思考とユダヤ的思考、この二つの要素に鋭く目配りしつつ、一貫した身体論的精査を通じてレヴィナス思想の根本問題に迫ろうとする、新たな哲学的探究の書。
【目次より】
凡例
略号表
序論 レヴィナスの思想における暴力の問い
第一章 生成する自我 存在論から出発して
第一節 主体の誕生
第二節 糧の享受 生について
第三節 欲求の基本構造
第四節 享受の志向性から身体の問いへ
第二章 生活世界と身体
第一節 元基内存在の分析
第二節 欲求の発展形態
第三節 居住としての内部性
第四節 身体の曖昧さ
第三章 意志の冒険
第一節 言語と作品の分割
第二節 意志の二元性 作品・暴力・死をめぐる考察
第三節 裁かれる主体
第四章 近さとしての自己自身
第一節 問いの更新
第二節 存在概念の再定義
第三節 近さから強迫へ
第五章 犠牲の身体
第一節 逆行性の諸問題
第二節 顔の裸出
第三節 苦しみにおける差異
第四節 贈与された主体
第六章 責任の問題をめぐって
第一節 イサクの犠牲 諸解釈の葛藤
第二節 レヴィナス神論の概略
第三節 困難な責任
第四節 愛の宗教の挫折
第五節 有限者の無限責任
結論
あとがき
注
文献表

ハンガリーのギリシア・カトリック教会 伝承と展望
創文社オンデマンド叢書
中・東欧におけるギリシア・カトリック教会は、ビザンティン典礼と東方教会法に従いつつ、ローマ教皇の首位権を認めるカトリック教会の一組織である。本書はわが国で初めてその歴史・教会法・典礼・神学を紹介し、その本質が「十字架上の聖体論」にあることを指摘。この聖体共同体からの光を源に、古典文献学・古代学・聖書解釈・教父学の分野に展望を披くと共に、仏教・神道など東洋思想に対してもこの共同体を基点に意義づけを試みる。さらには仏教に旧約的意味づけを与えて、中欧研究や古典古代学・神学のみならず異文化理解や宗教間対話にも重大な示唆をもたらす画期的業績。
【目次より】
第 I 編 伝承 ハンガリーのギリシア・カトリック教会総説
第1部 教会史と教会法
第1章 伝承と国際性 ハンガリーのギリシア・カトリック教会
第2章 スロヴァキアの春 『東方教会法典』の規定と現代の「殉教者」たち
第3章 聖バジリオ修道会の形成と展開 ハンガリーの場合を中心に
第4章 東方カノン法の世界へ クラクフからの法比較論的断想
第5章 『東方教会法典』の神学 「十字架上の聖体」の内的構造
補論1 中欧概観 旅の記録
第2部 典礼と神学
第6章 ビザンティン典礼による聖体祭儀の神学
第7章 「テュピコン」をめぐる神学 修道院典礼から司教区の典礼へ
第8章 「聖週間」から「光の週」へ
補論2 欧米文化研究におけるハンガリー語の意義 語順を中心に
第 II 編 展望 古典古代学に向けて
第3部 文献学・古代学・教父学
第9章 ビザンティン世界における「知」の共同体的構造
第10章 マーチャーシュ王とコルヴィナ文庫 15世紀ハンガリーの栄華
第11章 ヘロドトスの「父性」 「東方予型論」に向けて
第12章 ヘロドトスの射程 普遍史・他者性・予型論
第13章 モプスエスティアのテオドロスにおける予型論の射程 典礼と聖書解釈の接点
第14章 アレクサンドリアのクレメンスにおける「訓導者」
第15章 アレクサンドリアのクレメンスにおける「覚智者」
第4部 東方予型論
第16章 「即身成仏」と「神化」 東方キリスト教神学から見た密教思想
第17章 「三密」と「三位一体」 密教とビザンツ神学における「言葉」の位置と意義
第18章 「般若」と「認識」 菩薩行と東方教会神学
第19章 慈雲『南海寄帰内法伝解纜鈔』の現代的意義 「動詞語根からの古典古代学」に向けて
第20章 慈雲と華厳思想 「古典古代学基礎論」のために
結章 戒体と聖体 旧約としての仏教
あとがき

ヒュームにおける正義と統治 文明社会の両義性
創文社オンデマンド叢書
「文明社会」とは何か。それは人々がどのように結合し交流する社会なのか。本書では、十八世紀スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームの思想に即して、この問いに対するひとつの答えを模索する。ヒュームの叙述は、人間社会が孕む不安定性を見つめつつ、一方では「正義」と「商業」を軸として社会の形成と発展の自然的な可能性を豊かに描き出し、他方では「統治」を鍵概念として社会の強制的な秩序化の峻厳な必要性を示している。さらにそこからは、ヒュームの目に映った文明社会それ自体の矛盾――正義と統治、自由と権力、諸国の調和と対立、商業発展と公債累増の間の矛盾――が明らかになる。はたして現代の我々にとって、ヒュームの描くこの両義性は、既に乗り越えられた過去なのであろうか。
【目次より】
序章 文明社会と両義性
第一部 文明社会の発展 正義をめぐる思考の系列
第一章 正義 道徳論における文明社会の結合原理
第二章 商業発展 経済論における文明社会発展の法則性の解明
第三章 自由の擁護 国内政治に関する文明化認識の展開
第四章 国際的な調和 対外政策に関する文明化認識の含意
第二部 政治社会の安定 統治をめぐる思考の系列
第五章 統治 道徳論におけるもう―つの結合原理
第六章 自由から権力へ 国内政治に関する統治の論理の展開
第七章 勢力均衡 対外政策に関する統治の論理の含意
読解 第四節 勢力均衡論と国際間正義の相互関係について
第八章 公債累増 経済論における統治の論理とその帰結
終章 ヒュームの二元的社会認識とその含意
あとがき

国制と法の歴史理論 比較文明史の歴史像
創文社オンデマンド叢書
標題のもと,著者の歴史理論を形成してきた諸論考を、その成立事情、著者自身の研究史に占める位置を明らかにして編まれた論集。
【目次より】
凡例
序論
第一部 比較文明史的国制史論の形成と展開
第一章 「世界史の基本法則」的歴史理論からの離脱
I 「三二年体制」論の深化をめざして
II 国家と法の類型論を求めて
III 『日本資本主義発達史講座』と法学方法論
第二章 比較文明史的国制史論
IV 比較文明史的国制史論の基本構想
補論1 〈国制史〉という概念について
補論2 国制史学の研究史的位置づけ
補論3 〈社会〉と〈国家〉 その実態と概念史
補論4 西欧における国家形成と西欧封建社会の未開性についてのエンゲルスの見解
補論5 文明時代の国制の諸形態およびその根拠について
V 比較国制史・文明史論対話
VI 「社会体制と法」の歴史理論 「近代経験と体制転換」の歴史的パースペクティブ
VII 「文明化」概念
第二部 国制史学の諸概念 普遍的基本概念の錬磨
第一章 封建制
VIII 封建制概念とアジアの封建制
IX 歴史学的概念としての〈封建制〉と〈郡県制〉 「封建」「郡県」概念の普遍化の試み
第二章 支配
X 「支配のLegitimitat」概念再考 支配の法=権利根拠としてのLegitimitat
XI 『経済と社会』「旧稿」における LegalitatとLegitimitat
第三章 王権
XII 商品・貨幣呪物と王カリスマ 『資本論』商品・貨幣呪物論の読解
第三部 比較国制史・法制史の具体相 特殊的諸類型の探究
第一章 所有
XIII 日本近代土地法変革の比較法史的位置
XIV 現代日本の所有問題とその歴史的文脈
第二章 家族
XV イエの比較国制史 中国・西欧・日本
XVI 婚姻・離婚法史の日仏比較 中間団体の日本的類型の探究
第三章 法
XVII 現代法的状況の日本史的文脈 西欧史的文脈との対比において
XVIII 西欧法の普遍性と特殊性 中国法との対比において
補註

イギリス近世都市の「公式」と「非公式」
創文社オンデマンド叢書
イギリス都市民の日常的営為から伝わってくるものは、高度に抽象化された政治社会思想の論理ではなく、規律が求められる公の場でさえも独自の生き様と気儘な自己表現が許される開放的な社会の雰囲気である。そこに垣間見る都市モラルの本質は、「公共善」を掲げる理想と私益を優先する個人的都合の狭間で起る妥協点の探り合いにある。こうした現実を直視するとき、「公」が善で「私」は悪という単純な二元論でなく、両者の補完関係に踏み込む新しい論理が必要となる。本書は、公と私が重畳するなか自治が実践される現代都市の源流を、一次史料をもとに先進国イギリスの経済拠点に見出しその構造を解明、都市化現象の歴史的意義を問う都市史学の新たな方法論を提唱する。
【目次より】
はしがき
図表一覧
文献略語一覧
序章
1 イギリス都市史 問題の所在
2 アプローチ
3 方法
4 史料
第一部 公式領域
序
第1章 権威
はじめに
1 都市,王権,地主
(i) 王権との関係
(ii) 地主との関係
(iii) 法人格のインパクト
2 都市自治体
(i) 市議会
(ii) 都市エリート層
結び
第2章 制度
はじめに
1 ギルド制
(i) 職業ギルドの機能
(ii) 職業ギルドの公式化
(iii) 都市民の制度認識
2 フリーメン登録制
(i) 皮革業・食品加工業の成長
(ii) 靴下製造業の胎動
結び
第3章 秩序
はじめに
1 市区
2 教区
(i) 宗教改革
(ii) 救貧行政
結び
第二部 非公式領域
序
第4章 貧困
はじめに
1 徒弟,女性,労働者
2 下層社会
(i) 移住民
(ii) 犯罪と騒擾
結び
第5章 取引
はじめに
1 郊外
2 トポグラフィー
3 商関係
結び
第6章 信用
はじめに
1 親族関係
2 隣人,友人関係,保護・被護
結び
第三部 混在域
序
第7章 空間
はじめに
1 公共的空間
2 私的空間
3 都市支配層の空間認識
結び
結論
文献目録

中・近世ドイツ都市の統治構造と変質 帝国自由都市から領邦都市へ
創文社オンデマンド叢書
本書は、帝国自由都市から領邦都市へとドラスティックに地位を変えたマインツ市の統治構造とその展開を、刊行・未刊行史料を駆使して考察、それを通して広くドイツ統治構造史における中世後期から近世への変質を明らかにした労作。「自由と自治の牙城」中世都市に都市君主制論、「絶対主義的統治の場」近世都市に中間権力論を導入して両時代の統治構造把握に努め、支配契約に基づく統治は、上位の君主支配機構と下位の市民自治機構からなる前近代的な「重層的二元主義」構造であり、中世では双務的二元主義、近世では片務的重層性がより特質的であったことを鮮やかに解明する。
【目次より】
序篇
序
第一章 研究史的考察
第一節 中世都市をめぐる研究史
第二節 近世都市をめぐる研究史
第三節 時代区分論
第二章 マインツ市の社会=経済史
第一節 全般的動向
第二節 社会構成 「長老」門閥とツンフト員
第三章 ツンフト 平民闘争 その統治構造史的考察
第一節 第一次ツンフト 平民闘争 一四世紀
第二節 第二次~第四次ツンフト 平民闘争 一五世紀
第一篇 帝国自由都市マインツの統治構造
序
第一章 一四世紀における都市参事会の支配構造
第一節 主要史料
第二節 都市参事会構成
第三節 都市参事会権限
第四節 「家」
第二章 一五世紀における都市参事会体制 展開と限界
第一節 主要史料
第二節 都市参事会構成
第三節 都市参事会権限
第四節 「家」
第五節 都市財政の危機と行政権
第三章 統合的権力としてのツンフト
第一節 ツンフトの形成
第二節 統治構造におけるツンフト
第三節 都市財政におけるツンフト
第四章 帝国自由都市マインツにおける都市君主権の構造
第一節 市民共同体の世襲的誠実宣誓(Erbhuldigung)
第二節 直接市民支配権
第三節 都市参事会に対する支配権
第四節 マインツ市の地位 「帝国自由都市」か、それとも「大司教都市」か
第二篇 近世領邦都市マインツの統治構造
序
第一章 基本構造
第一節 市民の誠実宣誓
第二節 「特権状」(一四六九年五月二五日)
第二章 大司教の直接的都市統治機構
第一節 総督
第二節 ゲヴァルトボーテ(Gewaltbote)
第三節 「世俗裁判所」
第四節 直接税徴収役・チンス徴収役・建築役
第三章 領邦都市マインツの中間的諸権力
第一節
第二節 同職組合:「兄弟団」ないしツンフト
第三節 近世法の諸類型
総括
あとがき

中欧の模索 ドイツ・ナショナリズムの一系譜
創文社オンデマンド叢書
「中欧」とは、単なる地理的な名称ではなく、歴史的・政治的に構成された概念である。冷戦の終焉とともに歴史の表舞台に回帰したこの概念は、多文化・多民族が共存するユートピアを想起させる一方、ドイツ帝国主義やナチスの「生存圏」を正当化するイデオロギーとして忌避されてもきた。本書は、この「中欧」という概念に着目し、それを近代ドイツの自己意識の根源に関わる問題として捉えることによって、従来の研究とは異なるドイツ・ナショナリズム像を提示する。1848年革命期の中欧連邦構想から、第一次世界大戦時の「中欧」をめぐる国際的な論争、そしてヴァイマル共和国期の「ヨーロッパ合衆国」構想とナチス時代の「広域秩序」論。これら「中欧」をめぐる議論の多角的・実証的検討を通して見えてくるのは、国民国家中心的な視座を超えた、重層的なドイツ・ナショナリズム像である。近代ドイツにおけるナショナリズムと「中欧」の関係を問いながら、地域主義とナショナリズムが絡み合う現代世界にも歴史的洞察を与える試み。
【目次より】
凡例
序章 問題の所在 ドイツ近現代史と「中欧」
第一章 「中欧」という視座 ドイツ・ナショナリズム論の再検討
第一節 ドイツ・ナショナリズム再考
第二節 対象と分析視角
第二章 「国民国家」か「中欧」か ドイツ問題とコンスタンティン・フランツの中欧連邦構想
第一節 一八四八年革命以降のドイツ問題
第二節 フランツとは誰か
第三節 フランツの中欧連邦構想
第四節 二〇世紀のなかのフランツ
第五節 フランツの遺産
第三章 「中欧」の夢と現実 フリードリヒ・ナウマンの『中欧論』とその反響
第一節 ナウマンと「中欧」
第二節 「中欧論』の検討
第三節 『中欧論』の反響
第四節 ナウマンの遺産
第四章 「ヨーロッパ合衆国」から「広域秩序」まで ヴァイマル共和国期・ナチス期における「中欧」の分岐………
第一節 戦間期における「中欧」の位相
第二節 「中欧」から「ヨーロッパ合衆国」へ ヴィルヘルム・ハイレの欧州統合思想
第三節 第三帝国下の「中欧」の運命 カール・シュミットの広域秩序論
終章 「中欧」から「ヨーロッパ」へ? 結論と展望
あとがき
註

ホッブズ 人為と自然 自由意志論争から政治思想へ
創文社オンデマンド叢書
17世紀のヨーロッパに生きた思想家は、いくつもの難題に直面していた。人為と自然、精神と物体、そして認識と存在。キリスト教共同体とコスモロジーの動揺は、一方では人間を自己の存在の主体としつつ、他方では存在のもろさを露呈させたからである。しかも、人間存在には強さと弱さが共存するという自覚に、自然についての学の展開が重なり合う。まさにホッブズは、人間は精神を持つ肉体として自ら決定できる、しかし物体の運動には全て法則がある、という両立困難な二側面に正面から向き合った。だからこそ彼は、言語のありかたと物体の運動から根源的に考え抜き、人間の情念にも眼を向ける。そして、決定論を直視しつつも、人為的な秩序を作り出そうと苦闘する。自由意志論争から論を起こし、ホッブズの政治思想における精神の役割を探究する本書は、スコラ哲学の伝統を視野に入れつつ、大陸の合理主義的哲学と共通の地平に立ってホッブズの政治思想を捉えようとする、独創的な業績である。
【目次より】
凡例
序論
一節 問題の所在
二節 研究史
三節 本書の構成
一章 ジョン=ブラモール
一節 自由意志論争の背景
二節 スコラ哲学の継承
三節 ブラモールの政治思想
四節 中世哲学史におけるブラモールの位償づけ
二章 自由意志論争におけるホッブズの視座
一節 研究史と分析視角
二節 自由と強制
三節 熟慮と選択
四節 国家と個人
五節 三つの視座に関する思想史的考察
三章 制作と二つの自然 『物体論』をめぐって
一節 三つの原因概念
二節 運動一元論の難点
三節 制作と二つの自然
四節 制作の条件
四章 情念論とその政治的射程
一節 運動としての位相
二節 主観的経験という位相
三節 人間的位相
四節 情念と政治
五章 政治思想における人為と自然
一節 自然法と理性
二節 日常言語としるし
三節 人為と自然
結論 自然の変容と国家の制作
補論 ホッブズ研究史の一断面
はじめに
一節 ソレルのホッブズ解釈
二節 ザルカのホッブズ解釈
おわりに
註
あとがき
参考文献

ルネサンス精神への旅 ジョアッキーノ・ダ・フィオーレからカッシーラーまで
創文社オンデマンド叢書
ルネサンス精神への旅は、ルネサンスとは何であり、如何にあったかという根本的な問から発する旅である。中世の神秘主義者で預言者ジョアッキーノ・ダ・フィオーレから始まり、近代の合理的思考を旨とする哲学者エルンスト・カッシーラーに至る旅。この間に流れた時間は七、八百年間。その間、西欧人の思考はどのように変遷したのか。ルネサンスはこれに如何に関わるのか。その社会的特徴は如何なるものであったのか。著者はこの時代に発達した科学的方法論や、日記、伝記などの文学作品を取り上げて、ヒューマニズム(人文主義)の諸相を明らかにして、ルネサンス精神の根幹に触れようとする。また著者は、実際に旅したイタリアの地を語る。それは周知のローマやフィレンツェだけでなく、オルヴィエートやリヴォルノでもあったりする。ローマでは、ペトラルカが桂冠詩人となり、革命家コーラ・ディ・リエンツォが蜂起し、ゲーテがジャニコロの丘に憩う。フィレンツェではフィチーノがプラトンを思い、ピーコが諸々の知を夢見る。彼らはロレンツォ・デ・メディチの庇護を受けた哲学者である。内陸都市オルヴィエートでは、シニョレッリの壮大なフレスコ画中のルネサンス的人体表現に中世思想を見出し、海港都市リヴォルノでは、天正遣欧使節やカルレッティの時代に立ち返って、近世日本を思い、近代西欧の行く末を考える。これは紛れもなく身体とともに精神の旅である。
【目次より】
緒言
Iキリスト教と世界
第一章 ジョアッキーノ・ダ・フィオーレとコーラ・ディ・リエンツォ
第二章 ルーカ・シニョレッリの反キリスト
第三章 ラウデージのコンパニーア 音楽史上の位置と意義を巡るノート
II 社会とヒューマニズム文化の諸相
第四章 ペトラルカとフィチーノにおける聖アウグスティヌス キリスト教・異教間の要としての教父
第五章 フマニタス研究とアグリコラ ルネサンス・ヒューマニズムの成立と発展
第六章 パラゴーネと科学的方法論
第七章 日記・伝記・系譜
一 イタリア・ルネサンス期の日記 西欧の古記録が語るもの
二 東西の日記 その共通性と独自性
三 西欧における伝記文学の伝統 ルネサンスの役割と貢献
四 西欧社会における名字と系譜
III ルネサンスと近代
第八章 近世ヨーロッパとメディチ家
第九章 ジョヴァンニ・ピーコの『演説』考 「英雄の恋」とその意義
第十章 ゲーテとイタリア・ルネサンス 特に不死性を巡って
第十一章 カッシーラーの思想とルネサンス観
あとがき
注
参考文献一覧