天皇と中世の武家

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天皇と中世の武家

テンノウトチュウセイノブケ

源平の争乱に始まる中世に重視されたのは、父子一系でつながる一筋の皇統=正統(しょうとう)であった。源頼朝は正統の天皇を護るため武家を創り、鎌倉幕府が後鳥羽上皇と戦ったのも朝廷再建のためだった。室町時代、事実上の院政を執った三代将軍・足利義満など、中世の天皇と武家の役割を究明し、古典を鑑として乱世に秩序を求めた人々の営為を明らかにする。


19世紀半ば過ぎに明治維新が起き、幕府は滅亡した。このとき、幕府とともに朝廷が解体、消滅した。ここまで朝廷は実に1500年も存続し、その前半800年は単独で政治支配し、後半700年近くは幕府とともに支配した。鎌倉、室町、江戸と幕府は興亡を重ねても、朝廷は生き続け、最後は幕府とともに消滅。つまり、幕府なくして朝廷は立たず、朝廷なくして幕府は立たないという朝廷・幕府体制が、中世・近世の日本史の特徴だった。
■鶴岡八幡宮を内裏に見立てた頼朝の朝廷・幕府構想 1180年、後白河上皇を幽閉した平清盛打倒のために伊豆で挙兵した源頼朝。石橋山で平家に敗れたものの板東の反清盛勢力を糾合、鎌倉に本拠を構えた。頼朝は鎌倉入りと同時に八幡社を北山の麓に移建し、鶴岡八幡宮社殿を造営、南に延びる若宮大路も造った。当時、八幡神は応神天皇がこの世に現れた神と信じられ、朝廷の守護神として信仰されていた。つまり、頼朝は鶴岡八幡宮を内裏に見立て、遠い都の天皇のかわり八幡神をまつり、朱雀大路のような参詣路を造って鎌倉を朝廷再建の根拠地とした。これが朝廷・幕府体制の始まりだ。
■後醍醐天皇の決断と南北朝を合一させた義満の政治力 父子一系で繋がる一筋の皇統=正統が重視された中世では、天皇は自らの子に譲位することに全精力を傾けした。持明院統と大覚寺統で皇統が対立するなか、後醍醐天皇が鎌倉幕府打倒を決意したのも自らの子の立太子を拒否されたからだ。以後、約60年も南北に分裂した朝廷を合一したのは室町幕府三代将軍の足利義満。南朝・後亀山天皇から北朝・後小松天皇への譲位という形で合一を実現できた背景には、後小松天皇の准母に自らの夫人を据え、上皇に準ずる待遇を受けていた義満の権勢があった。
■乱世だからこそ鑑とされ、追求された「古典の世界」 南北朝時代には『源氏物語』が代表的な古典として重視された。後に天皇の准父として権勢をふるった足利義満は光源氏に自己を投影していたといわれる。乱世こそ古典が鑑とされ、その中心にあったのが天皇と朝廷。応仁の乱後の混乱で即位礼が出来なかった後柏原天皇が、21年も経て挙行したのも、公事再興によって理想の古典世界を再現しようとしたからだ。朝廷行事再興に援助を惜しまなかった戦国大名のなかから、織田信長が台頭してくる。


目次

第一部 鎌倉幕府と天皇 河内祥輔
 はじめに
 第一章 平安時代の朝廷とその動揺
  1.再建される朝廷
  2.院政と摂関
  3.動揺のはじまり
  4.平治の乱から後白河院政へ
 第二章 朝廷・幕府体制の成立
  1.治承三年の政変
  2.寺院大衆の「アジール」運動
  3.頼朝勢力の出現
  4.頼朝勢力の勝利
  5.幕府への転生
 第三章 後鳥羽院政と承久の乱
  1.後鳥羽天皇の治世
  2.承久の乱の勃発
  3.幕府・鎌倉派の勝利
  4.幕府の朝廷再建運動
 第四章 鎌倉時代中・後期の朝廷・幕府体制
  1.承久の乱後の朝廷
  2.幕府の対朝廷政策
  3.後嵯峨天皇の時代
  4.皇統分裂問題と幕府の倒壊
第二部「古典」としての天皇 新田一郎
 第一章 朝廷の再建と南北朝の争い
  1.朝廷の再建と「室町幕府」の成立
  2.古典の再発見
  3.幻の内裏空間
  4.南朝代々   
 第二章 足利義満の宮廷
  1.公家としての義満
  2.武家の位置づけ
  3.南朝の接収
  4.日本国王と天皇
 第三章 「天皇家」の成立
  1.足利義満の遺産
  2.後南朝の影
  3.伏見宮家の成立
  4.権威の構造
 第四章 古典を鑑とした世界
  1.家業の変質
  2.公事体制の解体
  3.公家の在国
  4.古典の流布と卑俗化
 終章 近世国家への展望
  1.繰り返される再生
  2.カミの末裔
参考文献
年表
天皇系図
索引

書誌情報

紙版

発売日

2011年03月11日

ISBN

9784062807340

判型

四六変型

価格

定価:2,860円(本体2,600円)

ページ数

390ページ

著者紹介

著: 河内 祥輔(コウチ ショウスケ)

(こうち しょうすけ)は1943年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。北海道大学教授を経て、現在、法政大学教授、北海道大学名誉教授。専攻は日本中世史。主著に『日本中世の朝廷・幕府体制』『保元の乱・平治の乱』(以上、吉川弘文館)、『中世の天皇観』(山川出版社)。本シリーズ編集委員。

著: 新田 一郎(ニッタ イチロウ)

(にった いちろう)は1960年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専攻は、日本法制史・中世史。現在、東京大学教授。主著に『日本中世の社会と法』(東京大学出版会)、『中世に国家はあったか』(山川出版社)、『日本の歴史11 太平記の時代』(講談社)などがある。

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