講談社学術文庫作品一覧

ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝
講談社学術文庫
急成長を遂げた周辺国からの侵略恐怖、増加する貧窮移民の不安、友好国へのぬぐいがたい不信、新たな感染症の脅威……「ドラキュラ」の恐怖と魅力の源泉には、黄昏を迎えた大英帝国の外国恐怖症があった。ゴシック・ホラーの金字塔に織り込まれた、ヴィクトリア朝イギリス社会の闇を描き出す!
世界でもっとも有名な吸血鬼「ドラキュラ」。
数ある吸血鬼作品のなかでも特権的な地位を得て、現代に至るまで映像化が繰り返され、日本では吸血鬼の代名詞にもなっています。
そのドラキュラの恐怖と魅力の源泉には、19世紀末イギリス社会に蔓延する深刻な外国恐怖症がありました。
「太陽の沈まぬ帝国」、「世界の工場」と謳われた栄光は過ぎ去り、軍事・経済ともに急成長を遂げつつある周辺国からの侵略恐怖、増え続けるユダヤ人など貧窮移民への不安、搾取してきたアジアの植民地から入ってくる新たな感染症の脅威……。
落日の大英帝国に生きる人々は心の奥底で何を恐れ、そしてドラキュラは生みだされたのか。
『パンチ』などに掲載された風刺画をふんだんに使いながら、ゴシック・ホラーの金字塔から読み解く世紀末ヴィクトリア朝の社会!
イントロダクション
第1章 ドラキュラの謎
第2章 ドラキュラの年は西暦何年か
帝国主義の世紀末
第3章 侵略恐怖と海峡トンネル計画の挫折
第4章 アメリカ恐怖と「栄光ある孤立」の終焉
反ユダヤ主義の世紀末
第5章 ユダヤ人恐怖と外国人法の成立
第6章 混血恐怖とホロコースト
パストゥール革命の世紀末
第7章 コレラ恐怖と衛生改革
第8章 瘴気恐怖と細菌恐怖
おわりに――ヴィクトリア朝外国恐怖症の文化研究
増補 もうひとつの外国恐怖症――エミール・ゾラの〈猥褻〉小説と検閲
学術文庫版あとがき
引用史料一覧
コラム
吸血鬼の系譜/シャルコーの催眠術/一八九三年一〇月二日のピカディリ・サーカス/ダイヤモンド・ジュビリー/火星人/海峡トンネル・パニック/ベアリング銀行の投機失敗/ロスチャイルド一族の結婚/ロンドンとテムズ川の汚染……ほか

藤原道長「御堂関白記」を読む
講談社学術文庫
【平安最大の権力者は何を“後世に残すべきだ”と考えたか】
大河ドラマ『光る君へ』時代考証者が徹底的に読み解く! 原本写真多数掲載。
豪放磊落な筆致、破格の文体、そして抹消された箇所……平安時代最大の権力者は、自らの手で何を書き残したのか。
「披露すべきに非ず。早く破却すべき者なり」と道長が記したのはなぜか。
「望月の欠けたる事も無しと思へば」はいかなる場で詠まれたものだったか。
摂関期の政治、外交、儀礼の生々しい現場から家庭生活と精神世界までを描く世界最古の自筆本日記を、第一人者が徹底的に読み解き、宮廷社会の実像をさぐる。
原文写真・翻刻・現代語訳・解説がそろった、決定版!
【本書より】
『御堂関白記』独特の面白さがある。また、『御堂関白記』を記した藤原道長自体、日本史上でめったにいないほど、面白い人物である。それらの楽しみを、原本の写真とともにたどることは、他の史料ではちょっと味わえない面白さがある。
この本では、その日の記事に何が記されているかに加えて、その日の記事がどのように記されたのか、また、どのように書写されたのかに視座を据えて、記述のてんまつ、また書写のてんまつを明らかにしたい。本来、歴史学というのは、史料を読み込んでいき、それを読み解くというのが基本的な姿勢である。世間では古代史というと、好き勝手な推論を積み重ねている
ものと思われているかもしれないが(実際、『御堂関白記』や道長についてもトンデモ本が流布しているらしいのは嘆かわしいかぎりである)、史料にどう向き合うかという姿勢を伝えることこそ、歴史学者の本来の使命であると考える。
結果的には、自分が楽しんだだけではなかったかと恐れているが、自分が楽しいことはきっと楽しんでくれる人もいるはずであるという思い込みに支えられて、この本を世に出す。
【本書の内容】
序 章 『御堂関白記』とは何か
第一章 権力への道 ――政権獲得、彰子入内・立后など――
第二章 栄華の初花 ――敦成親王誕生、一条天皇崩御など――
第三章 望月と浄土 ――摂政就任、威子立后、出家など――
番 外 『御堂関白記』自筆本の紙背に写された『後深心院関白記』
終 章 再び『御堂関白記』とは何か
年譜/略系図/主な登場人物紹介/関係地図を掲載
*本書の原本は、2013年に講談社選書メチエより刊行されました。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 伝説と実像と
講談社学術文庫
「天才」と呼んだ瞬間に見えなくなる、本当のすごさがわかる!
絵画・彫刻・建築・土木・軍事……多岐にわたるその仕事は、しかしほとんどが未完に終わった。
彼が生きた同時代において、その名声はかならずしも高いものではなかった。
後世にも驚異をもたらすその着想は、実は彼一人の独創ではなく、先達の知見を踏まえてのものだった。
では「天才」というのはまったくの虚像だったのか?
いや、そうではない。
現代の美術史研究による精緻な分析によって、まったくあらたな、一人の類い希なる表現者の姿が立ち上がる!
「フレスコ画を描かない画家」だったということにはじまり、ルネサンス期のイタリア各地を転々とする、苦闘と挫折に満ちた創作の人生を追いながら、神格化されたレオナルド像の向こうにある、真価を見いだそうとする試み。
夢想家〈ファンタジスタ〉レオナルド・ダ・ヴィンチの実像をたずねる、スリリングで発見に満ちた探究の美術史!
*本書の原本は、2003年に角川書店より『レオナルド・ダ・ヴィンチという神話』として刊行されました。
【本書の内容】
序 章 神格化されたレオナルド
第一章 フレスコ画を描かない画家
一 システィーナ礼拝堂の壁画に参加しなかったレオナルド
二 ヴェロッキオ工房で修業したこと、しなかったこと
三 超えられない先輩ボッティチェッリ
四 ≪東方三博士の礼拝≫―先達への挑戦
第二章 新天地ミラノでの活動
一 ミラノ着任の経緯
二 素描リストの意味
三 技師・発明家・建築家としての真価
第三章 宮廷芸術家の立場と活動
一 舞台美術家としてのレオナルド
二 音楽家・楽器製作者としてのレオナルド
三 スフォルツァ騎馬像制作
第四章 最後の晩餐
一 ついに勝ち得た最大の好機
二 ドラマの表現を完成させたレオナルド
三 成功と悲運
第五章 夢想家(ファンタジスタ)レオナルド
一 フィレンツェ帰還
二 ≪ジョコンダ(モナ・リザ)≫と晩年のレオナルド
三 絵画による世界の完全な視覚化を目指して
参考文献・図版出典一覧
図版目録
あとがき

精選訳注 文選
講談社学術文庫
中国古典文学の集大成であり、中国文学の誕生とその進化を体現する、最古にして最大の詞華集「文選」(もんぜん)。南朝梁の昭明太子蕭統(しょうとう)が編集した、唐以前の詩文の精華となる美文集であり、模範文例集です。
中国では科挙の模範とされ、日本では万葉集や日本書紀に影響を与えるとともに、平安貴族の必読書となり、明治期までは文章の手本とされてきました(清少納言、吉田兼好、大田南畝、永井荷風ほか多数)。
本書では、全三十巻から王粲、曹植、劉邦、李陵、陸機、曹丕、諸葛孔明などの秀作を厳選し、中国の古典文学研究の第一人者による充実した解説とともに全容を一望します。
【本書「総説」より】
現在の日本語の中で用いられている「文章」の語は、詩歌に対する散文を意識させることが多いが、中国語のもとの意味は、韻文・散文をひっくるめたありとあらゆる種類の書きものということである。そしてこの「章」という字の原義も、やはり「あや」とか「かざり」とかにほかならない。だから「文」ないしは「文章」の語には、「美しい」という概念が生まれついてのもちまえとして備わっているといっても、決して言い過ぎではないのである。
【目次(抄)】
序
総説
文選の序
賦
登楼の賦
洛神の賦
蕪城の賦
恨みの賦
詩
大風歌
秋風の辞
蘇武に与う 三首(うち一首)
怨歌行
飲馬長城窟行
古詩十九首(うち五首)
短歌行
七哀詩 二首
従弟に贈る 三首(うち一首)
雑詩 二首(うち一首)
公讌
応氏を送る 二首(うち一首)
美女篇
雑詩 六首(うち一首)
詠懐詩 十七首(うち二首)
悼亡詩 三首
詠史 八首(うち三首)
洛に赴く道中の作 二首(うち一首)
雑詩 十首(うち一首)
五君詠(うち一首)
池上の楼に登る
石壁の精舎より湖中に還りて作る
江中の孤嶼に登る
詠史
東武吟
宣城に之かんとして新林浦を出で版橋に向かう
雑体詩 三十首(うち二首)
范安成に別るる詩
文章
出師の表
呉質に与うる書
典論論文
山巨源に与えて交わりを絶つ書
情事を陳ぶる表
北山移文

龍の世界
講談社学術文庫
竜巻と共に天に昇り、海底深く龍宮に潜る。天空から海底まで自在に駆ける霊獣は、古来、皇帝から人民まで、中国人が最も愛する瑞祥だった。この想像上の生きものは、いつ、どのように誕生し、人々の暮らしに浸透していったのか。中国・日本・インドの龍とギリシア神話のドラゴンとの比較。龍を食べる怪鳥、正倉院に納められた龍の骨と歯の正体。四方から財宝を寄せると言われた「銭龍」や、薬用「龍眼」、中国人が畏れる「辰年の怪」まで、長年に亘る中国取材や様々な文献史料から、龍の逸話を丹念に採取!!
本書は『龍の百科』(新潮選書 2000年刊)を加筆、改題したものです。
目次
一 龍は、どう考えられていたか
二 龍は、どう形づくられてきたか
三 龍は、どのように自然界に潜むか
四 龍は、どう変わってきたのか
五 龍は、どのように語られてきたか
六 龍は、どう暮らしにかかわるか
おわりに
学術文庫あとがき
索引

日本精神史(下)
講談社学術文庫
長くヨーロッパの文化と思想を研究対象としてきた著者は、ここ20年ほど、日本の文化と思想の研究にとりくみ、その流れを歴史的に追跡してきました。その成果がついに一書にまとまったのが、本書です。題して、『日本精神史』。
「精神」とはなにか。
ヘーゲル研究者としてスタートした著者は言う。「あえて定義づければ、人間が自然とともに生き、社会のなかに生きていく、その生きる力と生きるすがたが精神だ」。
テキストとして残された思想はもとより、土器や銅鐸、仏像、建築、絵巻、庭園など、あらゆる文化を渉猟し、縄文時代から江戸時代の終わりまでを、一望のもとに描く、まさに畢生の大作です。
ただし、著者は、難解であることを潔しとしません。ヘーゲルのわかりやすい翻訳で脚光をあびたように、あくまでも流麗な文体で、明解に描いていきます。
思想も絵画も仏像も、ひとしく日本の精神の歴史としてとらえ、あらためて、日本とはなにかを問いかける清新な傑作と言えます。
上巻は三内丸山の巨大建造物から『正法眼蔵』まででした。建築、仏像、そして仏教思想の深まりが底流にあります。
下巻は、『新古今和歌集』『愚管抄』から『東海道四谷怪談』まで。
武士の思想や、わびさび、儒学、元禄文化、浮世絵と、中世から近世にかけて、日本人の精神は多様なうねりを見せつつ近代に向かいます。そのダイナミックな流れを鮮やかに浮き彫りにします。
【目次より】
第十九章 『新古今和歌集』と『愚管抄』
第二十章 『平家物語』
第二十一章 御成敗式目
第二十二章 「一遍聖絵」と「蒙古襲来絵詞」
第二十三章 『徒然草』
第二十四章 『神皇正統記』
第二十五章 能と狂言
第二十六章 禅の造形美
第二十七章 山水画に宿る霊気
第二十八章 茶の湯――わびの美学
第二十九章 装飾芸術の拡大と洗練――宗達と光琳
第三十章 江戸の儒学――伊藤仁斎と荻生徂徠を中心に
第三十一章 元禄文化の遊戯とさびと人情――西鶴・芭蕉・近松
第三十二章 南画とその周辺――池大雅と与謝蕪村
第三十三章 本居宣長
第三十四章 浮世絵の成立と展開
第三十五章 鶴屋南北『東海道四谷怪談』
主要参考文献
おわりに

日本精神史(上)
講談社学術文庫
長くヨーロッパの文化と思想を研究対象としてきた著者は、ここ20年ほど、日本の文化と思想の研究にとりくみ、その流れを歴史的に追跡してきました。その成果がついに一書にまとまったのが、本書です。題して、『日本精神史』。
「精神」とはなにか。
ヘーゲル研究者としてスタートした著者は言う。「あえて定義づければ、人間が自然とともに生き、社会のなかに生きていく、その生きる力と生きるすがたが精神だ」。
テキストとして残された思想はもとより、土器や銅鐸、仏像、建築、絵巻、庭園など、あらゆる文化を渉猟し、縄文時代から江戸時代の終わりまでを、一望のもとに描く、まさに畢生の大作です。
ただし、著者は、難解であることを潔しとしません。ヘーゲルのわかりやすい翻訳で脚光をあびたように、あくまでも流麗な文体で、明解に描いていきます。
思想も絵画も仏像も、ひとしく日本の精神の歴史としてとらえ、あらためて、日本とはなにかを問いかける清新な傑作と言えます。
待望の文庫化!
【目次より】
第一章 三内丸山の巨大建造物
第二章 火炎土器と土偶
第三章 銅鐸
第四章 古墳
第五章 仏教の受容
第六章 『古事記』
第七章 写経
第八章 『万葉集』
第九章 阿修羅像と鑑真和上像
第十章 最澄と空海と『日本霊異記』
第十一章 『古今和歌集』と『伊勢物語』
第十二章 浄土思想の形成
第十三章 『枕草子』と『源氏物語』
第十四章 『今昔物語』と絵巻物
第十五章 東大寺の焼失と再建
第十六章 運慶の新しい造形意識
第十七章 法然と親鸞
第十八章 『正法眼蔵』

変身物語 下
講談社学術文庫
古代ローマの詩人オウィディウス(前43-後17/18年)が残した唯一の叙事詩、待望されて久しい文庫版での新訳!
内乱が続いた紀元前1世紀の古代ローマは、その一方で「黄金時代」と呼ばれる詩や文学の最盛期でもあった。その初期を代表する詩人がウェルギリウス(前70-前19年)なら、後期を代表するのがオウィディウスであり、そのオウィディウスの代表作が本書『変身物語』にほかならない。
愛する男女の往復書簡という体裁をとる『名高き女たちの手紙』、恋愛詩人としての本領を発揮した『恋の歌』といった初期作品で知られるオウィディウスは、愛を成就させるための技法を性的なものまで含めて赤裸々に指南する『愛の技術』を書いたことが一因となって、のちに流刑の憂き目に遭った。このあと後期の円熟を遂げるオウィディウスが、ローマの祝日や祭礼の縁起を説く『祭暦』(未完)とともに着手したのが、本書『変身物語』である。
ウェルギリウスの『アエネイス』と並んでローマ文学における最高峰をなす本書は、オウィディウスが手がけた唯一の叙事詩であり、全15巻から成る大作となっている。その背景にあるのは「万物は流転する。すべての形あるものは生成しつつ、移ろう」(本書第15巻178行)と表現される世界観、宇宙観であり、事実、本書は原初の混沌から秩序としての世界の創造を歌う「序詞」から始まり、「金・銀・銅・鉄」の四時代、イアソンやテセウス、ヘラクレス、オルペウスといった英雄たちの時代、そしてトロイア戦争を経て初期の王の時代に至る壮大な世界史を描き出す。
その質においても量においても他を圧倒する本書が後世に与えた影響ははかりしれない。その代表が、シェイクスピアやミルトン、モンテーニュであり、ルーベンスやブリューゲル、ダリである。にもかかわらず、文庫版で手にできる現代にふさわしい日本語訳は長らく存在していなかった。数々の名訳で知られる訳者が自身のライフワークとして手がけたこの新訳は、今後のスタンダードとして長く読み継がれていくことを確信するものである。
「下」には第9巻から第15巻、「訳者解説」を収録。上下巻それぞれに「人名・神名索引」と「地名・民族名索引」を掲載した。

変身物語 上
講談社学術文庫
古代ローマの詩人オウィディウス(前43-後17/18年)が残した唯一の叙事詩、待望されて久しい文庫版での新訳!
内乱が続いた紀元前1世紀の古代ローマは、その一方で「黄金時代」と呼ばれる詩や文学の最盛期でもあった。その初期を代表する詩人がウェルギリウス(前70-前19年)なら、後期を代表するのがオウィディウスであり、そのオウィディウスの代表作が本書『変身物語』にほかならない。
愛する男女の往復書簡という体裁をとる『名高き女たちの手紙』、恋愛詩人としての本領を発揮した『恋の歌』といった初期作品で知られるオウィディウスは、愛を成就させるための技法を性的なものまで含めて赤裸々に指南する『愛の技術』を書いたことが一因となって、のちに流刑の憂き目に遭った。このあと後期の円熟を遂げるオウィディウスが、ローマの祝日や祭礼の縁起を説く『祭暦』(未完)とともに着手したのが、本書『変身物語』である。
ウェルギリウスの『アエネイス』と並んでローマ文学における最高峰をなす本書は、オウィディウスが手がけた唯一の叙事詩であり、全15巻から成る大作となっている。その背景にあるのは「万物は流転する。すべての形あるものは生成しつつ、移ろう」(本書第15巻178行)と表現される世界観、宇宙観であり、事実、本書は原初の混沌から秩序としての世界の創造を歌う「序詞」から始まり、「金・銀・銅・鉄」の四時代、イアソンやテセウス、ヘラクレス、オルペウスといった英雄たちの時代、そしてトロイア戦争を経て初期の王の時代に至る壮大な世界史を描き出す。
その質においても量においても他を圧倒する本書が後世に与えた影響ははかりしれない。その代表が、シェイクスピアやミルトン、モンテーニュであり、ルーベンスやブリューゲル、ダリである。にもかかわらず、文庫版で手にできる現代にふさわしい日本語訳は長らく存在していなかった。数々の名訳で知られる訳者が自身のライフワークとして手がけたこの新訳は、今後のスタンダードとして長く読み継がれていくことを確信するものである。
「上」には第1巻から第8巻を収録。上下巻それぞれに「人名・神名索引」と「地名・民族名索引」を掲載した。

中世ヨーロッパの色彩世界
講談社学術文庫
明日、何を着ていこう――冠婚葬祭をのぞけば、服選びで色がもつ意味を気にする人はいないだろう。ところが中世ヨーロッパではそうはいかない。たとえば緑は恋を、青は誠実さを意味し、黄は忌避される色だった。中世の色は現代よりもはるかに饒舌で、絵画や文学で描かれた人々の衣服の色には、単なる色の美しさや好みを超えた、さまざまな意味が託されている。中世の人びとはどんな色に囲まれ、どんな気持ちで色を身につけていたのか、あるいは目の前の人物が纏う色から何を読みとっていたのか。
多彩な史料から複雑で精緻な色彩コードを読み解き、中世人の日々の感情生活を豊かに描き出す。あの絵画もこの伝説もいっそう深く理解できる、色が語る中世世界への招待!(カラー口絵付き。電子書籍版はオール・カラー図版)
待ちに待った初めての逢瀬。恋焦がれた女性が鮮やかな青に緑のオウムをちらしたドレス着て現れたら、相手の男性は有頂天になるだろう。なぜなら、そのドレスの意味するところは「誠実にあなたを愛します」。ところがある日、夢に現れた彼女が全身緑の衣をまとっていたら、悲嘆に暮れてしまうかもしれない。青が意味する誠実さに対し、緑は恋の色であると同時に変動の色でもある。彼女の心変わりが青を脱がせ、緑を着せたのだ――。
このように単なる色の好みや色づかいの美しさを越えて、中世の色は複雑な精神世界を織りなしている。「中世の色は饒舌であり、中世の人びとは意味もなく色をつけることはない」。たとえば黄色には負のイメージがつきまとい、縞柄は道化師や娼婦、気まぐれな運命女神のものである。権威と権力を示す赤、醜い色からやがて「悲しみの色」として大流行する黒……。
ブリューゲルやジョット、ヤン・ファン・エイクの絵画、数々の華麗な装飾写本の挿絵に、アーサー王物語をはじめとする騎士物語、貴族の家計簿や財産目録など多彩な史料から、当時の染色技術も視野にいれつつ、色彩に込められたメッセージを読み解き、色から見えてくる中世世界を描き出すのが本書である。
グリーンゲイブルスのアンはなぜ「赤毛」を嫌ったのか、ルーレットやバカラなどのカジノ台はなぜ緑のフェルトでおおわれているのか、囚人服は縞柄で、スーツにダークカラーが多いのはなぜなのか。現代社会に今なお息づく色彩に秘められた歴史に迫る!(原本:『色で読む中世ヨーロッパ』講談社選書メチエ、二〇〇六年)
【本書の内容】
序 章 色彩文明の中世
第1章 中世の色彩体系
第2章 権威と護符の赤
第3章 王から庶民までの青
第4章 自然感情と緑
第5章 忌み嫌われた黄
第6章 子どもと芸人のミ・パルティと縞
第7章 紋章とミ・パルティの政治性
第8章 色の価値の転換
終 章 中世人の心性

技術の哲学 古代ギリシャから現代まで
講談社学術文庫
技術とは何か? 技術といかに付き合うか?
古代ギリシャからキリスト教的中世を経て、近代の科学革命、そして現代の最新テクノロジーーー生殖技術、原発、AI……ーーに至るまで、人類数千年の足跡を具体的な事象をベースに辿りながら、普遍かつ喫緊の問題の解答へと迫る、泰斗による決定版・入門書!
不確実で危険に満ちたこの世界を生き延びるための哲学が、ここにある!
[目次]
はじめに
序章 なぜ、現在、技術は哲学の根本問題となるのだろうか?
第一章 人間にとって技術とは何かーープロメテウス神話と哲学的人間学
第二章 宇宙の秩序に従って生きるーープラトンと価値の問題
第三章 自然の模倣ーー古代:アリストテレス
第四章 形の生産ーー中世:キリスト教
第五章 自然の支配ーー近代:F・ベーコン
第六章 科学革命ーー近代科学の成立と技術の役割
第七章 イデオロギーとしての科学と技術ーー近代のパラドックス
第八章 技術は科学の応用かーー知識論の「技術論的」転回
第九章 技術と社会ーー技術決定論から社会構成主義へ
第一〇章 技術の解釈学ーー変革可能性のために
第一一章 技術の創造性と設計の原理
第一二章 フェミニスト技術論
第一三章 技術との新たな付きあい方を求めてーーJ・デューイとH・ヨナス
終章 技術・事故・環境ーー福島第一原子力発電所事故からの教訓
補論 日本における技術哲学ーー西田幾多郎、三木清、戸坂潤
引用・参考文献
索引

魏武注孫子
講談社学術文庫
■英雄たちが読み継いできた『孫子』は、曹操が定めたものだった!■
□1800年受け継がれた”スタンダード”□
「三国志」の激戦を戦い抜いた「魏武」曹操が、自らの軍事思想を込めて全篇にわたって付した注とともに校勘したその全文が、いまここに明らかに!
読みやすい現代語訳に、懇切な語釈を付した全訳注。
曹操が実践の応用に足るように定本をつくったからこそ『孫子』は現代まで兵法の根本として重んじられてきたことが、よくわかる!
さらに、曹操や諸葛亮ら英傑たちが、戦場において孫子の説く兵法をいかに具体化させたかを分析する「実戦事例」も掲載。
『孫子』の真髄がより具体的にわかるようになり、さらには「三国志」の世界もより深く理解することができる画期的全訳。
*本書は講談社学術文庫のための訳し下ろしです。
【本書より】
曹操は、『孫子』の本文が持つ意味を深め、自身の解釈に合うような校勘をしながら、そこに自己の軍事思想を込めたのである。『孫子』は、これ以降、曹操が定めた本文を基本とした。……曹操の存在無くして、現行の『孫子』を考えることはできない(本書「解題」)
【本書の内容】
始計篇 第一
【実戦事例一 白馬の戦い1】
【実戦事例二 烏桓遠征】
作戦篇 第二
【実戦事例三 官渡の戦い1】
謀攻篇 第三
【実戦事例四 赤壁の戦い1】
【実戦事例五 下ヒの戦い】
軍形篇 第四
【実戦事例六 官渡の戦い2】
兵勢篇 第五
【実戦事例七 白馬の戦い2】
【実戦事例八 合肥の戦い】
【実戦事例九 呉の平定】
虚実篇 第六
【実戦事例十 蜀漢滅亡】
軍争篇 第七
【実戦事例十一 諸葛亮の外交】
【実戦事例十二 夷陵の戦い】
【実戦事例十三 博望坡の戦い】
【実戦事例十四 穣城の戦い・ギョウ城の戦い】
九変篇 第八
【実戦事例十五 五丈原の戦い】
行軍篇 第九
【実戦事例十六 諸葛亮の信】
地形篇 第十
【実戦事例十七 泣いて馬謖を斬る】
九地篇 第十一
【実戦事例十八 第一次北伐】
火攻篇 第十二
【実戦事例十九 赤壁の戦い2】
用間篇 第十三
【実戦事例二十 孟達を誘う】
原文
解題
曹操の生涯
年表

脳の中の過程 解剖の眼
講談社学術文庫
眼球創造計画、動物伝説、ユニコーン、ウオノメ、バカの壁……“無駄”なものこそ面白い! 養老流生命論の妙味を堪能せよ。
脳の機能と解剖学の歴史から科学の本質とその未来を考察、生物の眼の進化から官僚組織の功罪と人間を超えた倫理を導き、ユニコーンの角とヒトの毛だまりに“無益な”学問の悦びを見出す。「馬鹿(バカ)の壁」の初出論考や読書論、自伝的エッセイも盛り込んだ、不世出の解剖学者による、生命の面白さの核心に触れる思索の精髄!
(解説:布施英利/中村桂子)
[目次]
1 神経
脳の法則性と「真実」
ヒトの精神活動の博物学
脳の中の過程
文字はどこにあるか
2 解剖
誰が解剖を始めたか
私の解剖学事始め
眼を創る
誤解の解剖学
3 時間
ゲーテ『ファウスト』の今日の意味
モンテーニュと横井庄一の「孤独」
4 博物
ユニコーンの角
動物伝説
知と性の毛だまり
ウオノメの話
柳の枝は、水面を察知するのだろうか?
5 綺想
十で変人
図書館を書庫と割り切って
読書中毒
哲学と理解――馬鹿の壁
剽窃と現場
6 発生
発生における時間のずれと進化
咀嚼器の進化と感覚器
あとがき
解説 最後の解剖学者 布施英利
学術文庫版への解説 自然・生命・人間をより面白く 中村桂子

アフリカ史
講談社学術文庫
様々な学問分野を自由に越境し、「知ることの楽しさ」を生涯発信し続けた<知の道化師>、山口昌男。その学問の真髄とも言える「アフリカ」研究を、丸ごと1冊・通史に編纂。思いがけなくも豊かなアフリカの相貌、実験的とも言える日本との対比、自身が描いたスケッチや、貴重すぎる図版を193点も掲載! 彼の地で暮らし、深い人脈を得た泰斗だからこそ書けた本作は、参考文献すらただの文字情報に終わらない、圧巻の充実ぶり。没後10年。今こそ、目からウロコのアフリカ通史を、吟味する!
*本書は、『世界の歴史 第6巻 黒い大陸の栄光と悲惨』(講談社 1977年)を改題したものです。
目次
はじめに 人類史とアフリカ
1 アフリカの古代世界
1)アフリカにおける人類の起源
2)アフリカの古代的世界
3)黎明の輝き
4)サヴァンナの帝国
5)東アフリカの王国
6)アフリカの王権文化――そのパラダイム
2 大発見の神話学
1)プレスター- ジョンの王国を求めて
2)アフリカの「黄金伝説」――ジンバブウェ遺跡とモノモタパ
3)探険ラッシュの世紀
3 伝統国家の栄光
1)草原の覇者たち
2)古都の盛衰
3)奴隷の故郷
4)アフリカと奴隷貿易
4 東海岸――交易都市の繁栄
1)世界へ開かれたアフリカ
2)制海権をめぐる争い
5 南アフリカのナポレオンたち
1)南アフリカの原住民たち
2) 南アフリカの清教徒たち
3)シャカ王のズールーランド
4)スワジ王国
5)バストランドのモシェシュ王
6)ムジリカジのンデベレ
6 ヨーロッパによる仮死
1)ヨーロッパ列強のアフリカ分割
2)開拓者たちの運命
3)アフリカ侵略の二つの型
4)セネガルーー仏領アフリカの優等生
5)最後の抵抗者サモリ= トゥレ
7 再生への胎動
1)マフディー運動
2)キリスト教的反抗
8 試行錯誤の現代史
1)両大戦間のアフリカ
2)エティオピアの反抗
3)第二次大戦後のアフリカ
4)コンゴ動乱
5)ナイジェリアの内戦
6)アンゴラの独立と内戦
おわりに
参考文献
年 表
図版参考資料一覧
索 引
解説 今福龍太

遠野物語 全訳注
講談社学術文庫
なぜ日本の民俗学は、河童やザシキワラシの話から始められたのか?
全部読まなければ、この本のすごさはわからない!
日本民俗学の創始者である柳田の原点にして代表作。
平地人を戦慄せしめよ/此書は現在の事実なり――高らかな挑発の言のもと、柳田はいったい何を企てたか。
「平地人を戦慄せしめよ」という高らかな宣言に込められたものとは何か。
「ザシキワラシ、オシラサマや河童たちが躍る不思議な世界」
「叙情豊かな日本人の原風景」
という本書がまとってきたイメージの奥にある真価とは何か?
民俗学を創始した記念碑的作品の真価がわかる、平易な訳文と懇切な解説の全訳注。
【本書「はじめに」】
『遠野物語』は、現在ではたいへん有名な本になっています。一つには、日本民俗学を創始した柳田國男の代表的な著作としてです。もう一つには、遠野の人佐々木喜き善ぜんが語った東北の村の古く豊かな生活の世界を語っている著作としてです。ザシキワラシやオシラサマや河童たち、その不思議な世界が語られており、あたかも日本の近代化の中で失われていった叙情豊かな日本人の原風景を語ってくれているもののように思われているからです。
しかし、そのようなイメージは、実はこれまで『遠野物語』を紹介してきた数多くの著作物の文章の受け売りの積み重ねの中で作られたものではないかと思われます。やはり、自分で直接、『遠野物語』の本文を読んでごらんになるのがよいと思います。すると、柳田があらたに日本民俗学という学問を創始していくその原点がわかり、そこから民俗学とはどのような視点と方法を特徴とする学問か、その独創的な面がわかってきます。
(中略)
この『遠野物語』の文章はすでに古典の域に至っており、現在の中学生や高校生にとっては難しい文章ともなっています。そこで、柳田國男のもとの文章をそこなうことのないように気をつけながら、現代口語訳の文章をそえておくことにします。
*本書は講談社学術文庫のための訳し下ろしです
*明治43(1910)6月に聚精堂から刊行された初版本を底本としています

明代二大茶書 張源『茶録』・許次ショ『茶疏』 全訳注
講談社学術文庫
唐代に、陸羽によって著された世界最古の茶書『茶経』が、中国茶書の古典として知られています。
本書は『茶経』に次ぐ重要茶書二書の全訳注版です。
明代の偉大なる茶人(茶の愛好者)によって書かれた貴重な書です。
日本の煎茶道や最近盛んになりつつある中国茶の源流ともいえるのが、明代に行われていた「喫茶」です。
明代には、茶の文化が隆盛をしており、数多の茶書が著されましたが、
それ以前の茶書の剽窃や焼き直しがほとんどでした。
そういった中にあって、本書で取り上げる『茶疏』と『茶録』は、独自の探究によって書かれた貴重な茶書です。
よい産地、製茶法、貯蔵法、水の選び方、茶葉の投げ入れ、茶器の選択、飲み方、客人の迎え方、などなどを具体的に描きます。
茶を、おいしく、楽しく、清らかに飲むやり方を追究します。
中国の茶道は、精神性を最重視する日本の茶道とは少々趣を意にして、実用的な内容が充実しているのは文化の違いなのでしょうか。
中国のみならず、日本にも伝わり、江戸時代には上田秋成『清風瑣言』をはじめ、多くの書物にも引用され、おおきな影響を与えています。
全訳注として、
【訓読】【現代語訳】【原文】【注釈】
を加えました。
喫茶愛好家必携の一冊です。
本書は、訳し下ろしです。
【目次】
まえがき
1 張源『茶録』
張源『茶録』について
凡例
茶録引 顧大典
採茶
造茶
辨茶
蔵茶
火候
湯辨
湯有老嫩
泡法
投茶
飲茶
香
色
味
点染失真
茶変不可用
品泉
井水不宜茶
貯水
茶具
茶盞
拭盞布
分茶盒
茶道(茶の道)
2 許次しょ『茶疏』
許自しょ『茶疏』について
許自しょ伝
凡例
題許然明茶疏序 姚紹憲
茶疏小引 許世奇
「許然明 茶疏」
産茶
今古製法
採摘
炒茶
〓(山+介)中製法
収蔵
置頓
取用
包せき
日用頓置
択水
貯水
択水
煮水器
火候
烹点
秤量
湯候
甌注
とう滌
飲啜
論客
茶所
洗茶
童子
飲時
宜輟
不宜用
不宜近
良友
出遊
権宜
虎林水
宜節
辯訛
攷本

明と暗のノモンハン戦史
講談社学術文庫
1939年、旧満州国・モンゴル国境地帯で、ソ連軍と日本軍(関東軍)が衝突したノモンハン事件。4ヵ月にわたる激戦にもかかわらず、実態が不明だったこの「事件」の全貌を、近代史・軍事史の第一人者が描き出し、第68回毎日出版文化賞を受賞した決定版。講談社学術文庫版では、2020年の新書大賞を受賞した『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書)の著者、大木毅氏が巻末に解説を執筆。
かつて、ノモンハン事件は「人的損害で日本軍はソ蒙軍の2倍」「日本軍の惨敗」という説が定着していた。ところが、1990年代から公開され始めた旧ソ連軍資料を精査した著者によれば、戦死者は日ソ両軍とも1万人前後だが、死傷者総計では日本軍の約2万人に対してソ連軍は約2万5000人と上回っている。しかし、戦闘の勝敗は数字だけで決まるわけではない。では、この「奇妙な戦い」の結着は何だったのか。
「ノモンハン」は、日清・日露いらい連戦連勝だった日本陸軍にとって初めての敗北体験だった。そこでは、無断退却や抗命、大量な捕虜、事後処理をめぐる抗争など、想定外の現象が次々と起こった。しかし、上級指揮官は微温的処分ですんだのに対し、下士官兵や将校たちは軍法会議で処罰され、あるいは自決を強要された。こうした先例は、さらに無責任さと過酷さを増して大東亜戦争に引き継がれていくのである。〔原本:PHP研究所、2014年刊〕
目次
第一章 ノモンハン前史
第二章 第一次ノモンハン事件
第三章 ハルハ河畔の攻防
第四章 第二十三師団、壊滅す――ジューコフの「傑作」
第五章 ノモンハン事件の終結
第六章 ノモンハン航空戦
第七章 ノモンハン情報戦
第八章 統計分析と総括
第九章 ノモンハン戦敗北人事の決算――無断退却から自決強要まで
あとがき
学術文庫版あとがき
図表索引
主要事項索引
人名索引
解説 大木毅

天球回転論 付 レティクス『第一解説』
講談社学術文庫
地球は動いている――。プトレマイオスからおよそ1400年続く天文学を覆したコペルニクス(1473-1543年)。ケプラー、ガリレオ、そしてニュートンへと続く「科学革命」は、この発見に始まる。それは「革命」という言葉の華々しさとは裏腹に静かに、本人さえその帰趨を自覚しないままに始まった。
コペルニクスはいかにして地動説に至ったのか。『天球回転論』全6巻のうち、地球の運動について記された第1巻と、『天球回転論』の公刊に先立ってコペルニクスの地動説を初めて世に知らしめた弟子ゲオルク・ヨアキム・レティクス(1514-74年)の『第一解説』の本邦初訳をあわせて収録。
コペルニクスが生涯をかけた書物『天球回転論』が、ニュルンベルクの出版社から届けられた1543年5月24日、それを待っていたかのように同日コペルニクスは他界する。「プトレマイオスを模倣しようとした」、「天文学の再興者」と言われるほどに、その構成や研究に対する姿勢は、プトレマイオスの『アルマゲスト』に倣ったものだった。ただ一点、「地球が動いている」ということを除いては――。
1400年の長きにわたって支配的であったプトレマイオスの天文学およびアリストテレスの自然学体系に、『天球回転論』がうがった小さな穴は、やがて大きなひび割れとなって従来の伝統的宇宙観を根本から打ち破り、人間の世界に対する認識を大きく変容させることになった。
神学者や世間の反応をおそれて長らく原稿の公開をためらっていたコペルニクスに、出版を強く勧め最終的に承諾させたのが唯一の弟子レティクスである。かたくなに出版を渋るコペルニクスは、レティクスがまず『天球回転論』を簡潔にまとめたものを世に出すことで妥協した。この『第一解説』の好評に力を得て、コペルニクスはついに公開を決意する。『第一解説』は、その後もコペルニクス説の入門的概説として版を重ねることになった。
コペルニクスはいかにして地動説を導き出し、前代未聞の「地球の運動」をどのように語ったのか。文字通り「世界を動かした」書物の最重要部分と本邦初訳となる『第一解説』を収録!
(『完訳 天球回転論』みすず書房、2017年より第一巻を収録、レティクス『第一解説』は新訳)
【本書の内容】
『天球回転論』第1巻目次より
宇宙は球形であること/大地もまた球形であること/地球の大きさに対する天の広大性について/地球が、いわば中心として、宇宙の真中に静止しているとなぜ古代の人たちは考えたのか/地球に複数の運動が付与されうるか、および宇宙の中心について/地球の三重運動についての論証……など。
レティクス『第一解説』目次より
恒星の運動について/古代の天文学者たちの仮説が廃棄されねばならない主な理由/天文学全体の新仮説……など。

キリスト教入門
講談社学術文庫
キリスト教抜きに世界のスタンダードは理解できない!
旧約・新約聖書を丁寧に解説、「救世主」「アダムとイヴ」「三位一体」「クリスマスツリーと十字架」「原理主義」「進歩主義とグローバリゼーション」などのキーワード/トピックから、キリスト教理解を立体的に組み上げる。信仰生活のリアル、各宗派とのかかわり方など、実践的なガイドも盛り込んだ、非キリスト教文化圏に住まう「普通の日本人」のための最良の入門書! 混迷の時代、普遍宗教が示す未来とは?
[目次]
◇はじめに――教養としてのキリスト教
◇キリスト教を読む
○旧約聖書
1 律法の書
2 歴史の書
3 知恵文学
4 預言書
5 旧約聖書と新約聖書のあいだ
○新約聖書
1 福音書
2 使徒言行録(使徒行伝)
3 パウロによる手紙
4 ヨハネの黙示録
5 聖書をどう読むか
◇キーワードで考えるキリスト教
1 ヤハウェ資料と祭司資料
2 三位一体
3 汎神論と神の遍在
4 天使
5 悪魔
6 死海文書とエッセネ派
7 ギリシャ正教とロシア正教
8 クリスマスツリーと十字架
9 コンクラーヴェ(ローマ法王選挙)
10 キリスト教原理主義
◇三次元で読むキリスト教
1 キリスト教と歴史
2 イエスは存在したか
3 イエスは何語で話したか
4 イエスの物語は書けるのか
5 イエスのオリジナリティ
6 ユダがイエスを裏切ったわけ
7 アダムとイヴとイエス
8 キリスト教は女嫌いか――妻帯司祭の話
9 どのような宗派とどのように関わるか
10 カトリックはフォークロアか その1――幼きイエスのテレジアの起こしたフィーバー
11 カトリックはフォークロアか その2――ブルターニュのケルトの祭
12 信仰としてのキリスト教
◇知の道具箱
1 キリスト教の二〇〇〇年
2 ブックガイド
3 知の練習問題
◇おわりに
◇学術文庫版へのあとがき
「キリスト教で文明の歴史や現代社会の混迷などのすべてが説明できるわけではない。けれども、キリスト教抜きでは近代の西洋スタンダードも現代の地政学も理解することはできない。」
――「学術文庫版へのあとがき」より

弥勒
講談社学術文庫
世界が終わるとき、やってくる。
蘇我馬子も藤原道長も惚れ込んだ弥勒(みろく)信仰。五十六億七千万年後に降臨し人々を救う、未来仏とは何か?
広隆寺の国宝として有名な、弥勒菩薩半跏思惟像。弥勒とは、五十六億七千万年後に現れて衆生を救うという、阿弥陀や釈迦と並ぶ仏のことである。古代日本に伝わると、災害や飢饉と結びつき、末法思想(メシアニズム)として全国の民衆に広がった。戦後民俗学の泰斗が、中国・朝鮮との比較を通して、日本独自の弥勒信仰の歴史と民俗を復元し、日本文化の原型を描き出す。宗教民俗学を土台にした日本文化論!
【目次】
はじめに
第一章 民間伝承としての弥勒
第二章 宗教運動と弥勒
第三章 比較宗教論における弥勒
第四章 日本仏教と弥勒
第五章 鹿島信仰と弥勒
第六章 朝鮮半島と沖縄の弥勒
第七章 世直しと弥勒
第八章 大本教の中の弥勒
まとめ