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昭和天皇と戦争の世紀
ショウワテンノウトセンソウノセイキ
- 著: 加藤 陽子
二十世紀幕開け、明治天皇の初皇孫として誕生した迪宮裕仁。生涯に三度焦土に立つことになる近代立憲制下の天皇は、激動の時代にあっていかなる役割を担うことになったのか。伊藤博文が制度化に尽力した君主の無問責性は、大正デモクラシーや軍の政治化により変容を迫られる。動揺する国際情勢のなか七千万同胞の中心として歴史の「動力」となった昭和天皇と時代の特質を究明する。
■三度焦土に立った昭和天皇
1901年に生まれた迪宮裕仁(後の昭和天皇)は、生涯に三度焦土に立つ運命にあった。最初は皇太子時代のヨーロッパ訪問で視察したヴェルダンなど第一次大戦の激戦地で、この時、皇太子は側近に「戦争というものは実にひどいものだ」とつぶやいたという。二度目は大正天皇の摂政として経験した関東大震災後の焦土であり、三度目は天皇として体験した東京大空襲後の焼け野原だった。湯島を視察中に天皇は「これで東京も焦土になったね」と侍従長に語りかけた。悲惨な総力戦の実態を熟知していた天皇が、20年を経てなぜ戦争への「不本意な歴史」を歩むことになったか、追究する。
■予測されていた「日米決戦」
1905年、セオドア・ルーズヴェルト大統領は日露戦争に勝利した日本をみて、ロシア駆逐後に中国東北部の門戸開放を踏みにじるのは日本ではないかと疑念を深めた。日本でも翻訳刊行された『日米決戦』では、太平洋の優越権をめぐって戦争をなしえる国は、日本とアメリカしかないと分析。十数年後の1923年、帝国国防方針でも中国で日本と最も対立する可能性が高い国はアメリカとされた。1924年、対日作戦計画「オレンジ・プラン」を米大統領が承認。それは日本の攻撃によって始まる第一段階、アメリカが日本近海へと反撃する第二段階、戦争を続けようとする日本をアメリカが空海の軍事力で包囲して降伏させる第三段階という、後の歴史を想起させるものだった。
■即位大礼の年から戦争への道を
1928年11月、京都御所紫宸殿で昭和天皇の即位の大礼が挙行された。即位式終了後には田中義一首相が万歳を三唱、その声はラジオを通じて帝国全土に響きわたった。田中首相は同年6月の関東軍参謀・河本大作による張作霖爆殺事件について、関与の軍人は軍法会議で厳罰に処したいと上奏したにもかかわらず、陸軍の強硬姿勢と閣僚の意向で河本を停職とする行政処分の方針を翌年6月に上奏。天皇は立腹し、「それでは前と話が違うではないか、辞表を出してはどうか」と強い語気で叱責した。翌日、田中内閣は総辞職し、田中本人も3ヵ月後に亡くなる。「以来、内閣の上奏するものは自分が反対の意見でも裁可を与えることに決心した」と天皇は語ったが、果たしてどうか。満州事変、日中戦争、真珠湾奇襲に至る重要局面での天皇の言動を徹底分析する。
目次
はじめに
序章 昭和天皇とその時代
1.焦土に立つ人
2.大陸の東
3.太平洋の西
第一章 大正期の政治と宮中の活性化
1.明治という時代に育てられて
2.大正期の宮中
3.国民と直結する皇太子像
4.原敬時代の終焉
第二章 昭和の船出と激動する世界
1.即位式
2.1920年代の国際環境
3.輸出される革命
4.東アジア情勢と天皇
第三章 内なる戦い
1.慣習的二大政党制を前にして
2.軍エリートによる挑戦
3.クーデターとテロの時代
4.天皇機関説事件
5.皇道派と二・二六事件
第四章 大陸と太平洋を敵として
1.日中戦争とその特質
2.戦争と政治
3.太平洋戦争とその特質
4.天皇と戦争
終章 戦いすんで
1.過ぎ去らない「歴史」
2.犠牲のかたち
3.天皇の戦後
入力
文字数
453
書誌情報
紙版
発売日
2011年08月26日
ISBN
9784062807388
判型
四六変型
価格
定価:2,860円(本体2,600円)
ページ数
430ページ
著者紹介
(かとう ようこ)は一九六〇年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻は日本近代史。主な著書に『模索する一九三〇年代』(山川出版社)、『戦争の日本近代史』(講談社)、『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)、『戦争の論理』(勁草書房)、『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)、『それでも、日本人は「戦争」を撰んだ』(朝日出版社)などがある。
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