講談社文芸文庫作品一覧

贋学生
講談社文芸文庫
「私」と友人毛利との前に登場した医学生・木乃伊之吉。互いの嫉妬の競い合いから、存在感をいや増すこの男。彼の妹だという宝塚のスターをからませ、まき込み、メフィストフェレスのように「私」たちを攪乱する。非現実的でありながら現実的、この贋学生とはなにか。島尾敏雄を語るに欠かせぬ、島尾初期長篇。

マチウ書試論・転向論
講談社文芸文庫
『芸術的抵抗と挫折』『抒情の論理』の初期2著からユダヤ教に対する原始キリスト教の憎悪のパトスと反逆の倫理を追求した出世作「マチウ書試論」、非転向神話をつき崩し“転向”概念の根源的変換のきっかけとなった秀作「転向論」、最初期の詩論「エリアンの手記と詩」など敗戦後社会通念への深甚な違和を出発点に飛翔した吉本隆明初期代表的エッセイ13篇を収録。

室町小説集
講談社文芸文庫
三種の神器の1つの“玉”を巡り、吉野川源流の山奥での武家、公家、入道、神官入り乱れての争奪の顛末。南北朝の対立が生んだ吉野・川上村の伝説が、博渉、強靱な思考の虚々実々の息吹で鮮烈に蘇る。転換期の奔流するエネルギーの“魔”を凝視しつづける常に尖鋭なアヴァンギャルド・花田清輝が、“日本のルネッサンス草創期”の“虚実”を「『吉野葛』注」「画人伝」「力婦伝」等の5篇で構築する連作小説。

畏怖する人間
講談社文芸文庫
その出発以来、同時代の「知」に、圧倒的な衝撃を与えつづけて来た著者の、秀れた光芒を放つ第一評論集。群像新人文学賞受賞作「意識と自然――漱石試論」をはじめとし、その後の『マルクスその可能性の中心』『日本近代文学の起源』『探究1』『探究2』など、柄谷行人のその後の力業を予告する、初期エッセイ群。

晩春の旅・山の宿
講談社文芸文庫
瀬戸内の大三島、九州・日向の高千穂への旅路。爆心地近くの城島の宿で独りきいた「平和の鐘」。茜色に暮れなずむ富士山を見る御坂峠の茶屋の宿。伊豆の河津川や、栃代川、笛吹川、富士川での川釣。旅と釣がこよなく好きな作家の眼が、出会った人々、その土地土地の歴史の跡と人情の温もりをあたたかな筆づかいで活写する、懐かしい旅の回想。
瀬戸内の大三島、九州・日向の高千穂への旅路。爆心地近くの城島の宿で独りきいた「平和の鐘」茜色に暮れなずむ富士山を見る御坂峠の茶屋の宿。伊豆の河津川や、栃代川、笛吹川、富士川での川釣。旅と釣がこよなく好きな作家の眼が、出会った人々、その土地土地の歴史の跡と人情の温もりをあたたかな筆づかいで活写する、懐かしい旅の回想。

中原中也全訳詩集
講談社文芸文庫
季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える、無疵な魂(もの)なぞ何処にあらう? (『ランボオ詩集』幸福)早熟な詩才・中原中也が、死の直前に刊行した『ランボオ詩集』。唯一の全訳詩集として流布し、同時代を激しく揺るがせた。生前の三冊の訳詩集に未定稿を加え、全翻訳詩を収録。

わが光太郎
講談社文芸文庫
“私がじかに接し得た巨人は高村光太郎ひとりだった”詩人の魂がもう1つの孤独な魂と深く共鳴する――。合理と神秘、頑固と寛容、繊細と強靱、比類ない高さ。光太郎40代からその終焉まで、敬愛し、親炙した「巨人」の姿を、わが心のなかに鮮やかに構築する。草野心平「高村光太郎論」の一大集成。読売文学賞受賞。

手の変幻
講談社文芸文庫
絵画映像など全ゆる手の変幻清岡卓行の想像の冒険ーーミロのヴィーナスがあのように魅惑的なのは、彼女が、その両腕を故郷であるギリシアの海か陸のどこか、いわば生ぐさい秘密の場所にうまく忘れてきたからだ。絵画・映像・音楽その他のあらゆる「手」の変幻を捉え、美や真実の思いがけない秘密の瞬間を析出した、清岡卓行の鮮やかな詩的想像力。エッセイ文学の名品。

風流尸解記
講談社文芸文庫
まだ焼け跡の残る敗戦直後の東京の町の片すみで男は抱いた少女の裸身の背後に、朽ち果てた無残な女たちの尸(しかばね)の幻影を見る。恋の道ゆき、地獄廻りのものがたりに、人間の哀しさ、愛しさと残酷さを容赦ない筆致で剔出する『風流尸解記』。芸術選奨受賞。『蛾』『手』『心猿』『姫鬼』『獲麟』『樹懶』の6短篇を併せて優れた現代詩人金子信晴の遺した全小説7篇を集成。

大陸の細道
講談社文芸文庫
M農地開発公社嘱託として満州に赴いた木川正介。喘息と神経痛をかかえ、戦争末期の酷寒の中で、友情と酒を味方に人生の闘いをはじめる。庶民生活の中「小さくて大きな真実」。“日本の親爺”木山捷平が、暖かく、飄逸味溢れる絶妙の語りくちで、満州での体験を私小説世界に結晶させた。芸術選奨受賞作。

白い屋形船・ブロンズの首
講談社文芸文庫
脳溢血で、右半身、下半身不随、言語障害に遭いながら、不撓不屈の文学への執念で歩んだ私小説の大道。読売文学賞「白い屋形船」川端賞「ブロンズの首」ほか、懐しく優しい、肉親・知友そして“ふるさと”の風景。故郷の四万十川のように、人知らずとも、汚れず流れる、文学への愛が、それのみが創造した美事な“清流”。

けい肋集・半生記
講談社文芸文庫
子守り男に背負われて見た、花の下での葬式の光景。保養先の鞆ノ津で、初めて海を見た瞬間の驚きと感動。福山中学卒業と、京都の画家橋本関雪への入門志願。早稲田大学中退前後の、文学修業と恋の懊悩。陸軍徴用の地マレー半島で知った苛酷な戦争の実態。明治31年福山に生れて、今92歳の円熟の作家が心込めて綴った若き日々・故郷肉親への回送の記。

ささやかな日本発掘
講談社文芸文庫
東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の5枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた1枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壺……。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆26篇。読売文学賞受賞。

鶴
講談社文芸文庫
敗戦直前、旧ソ満国境の平原にとり残された監視哨で望遠鏡を覗く一日本軍監視兵の孤独。突然の銃声と、死。虚空に飛び立つ1羽の鶴の形象の鮮かさ──苛酷な戦場の生と死を静謐な抒情の高みに昇華させ衝撃的感銘を与えた名作「鶴」「張徳義」「脱走兵」「ガラ・ブルセンツォワ」他2篇に「赤い岩」収録の全集版編成。現代戦争文学の古典的名著『鶴』。

女の宿
講談社文芸文庫
大阪に住む友人の女流作家とその義妹の家に宿をかりた私。そこに偶然訪れた2人の女客。隣家から響く無遠慮な女の声。さりげない日常の中に、時代の枠に縛られながら慎しく生きる女たちの不幸と哀しみとを刻み込む、女流文学賞受賞作「女の宿」。ほかに名篇「水」、「泥人形」「幸福」など、人々の真摯な生きざまを見事に描き上げた13篇を収録。

思い出すこと忘れえぬ人
講談社文芸文庫
幼い日の祖父の家の記憶。父、父の友人の恩師たち。若い日の先輩、友人たち。そして“わが青春”。洋の東西、関東と関西の偉大なる知の架橋・桑原武夫。“専門”を超えて“知”のリベラルな統合を志向した、著者の、自由にして柔軟な思考を示す“精神の遍歴”。

異邦人の立場から
講談社文芸文庫
「人間の存在的な渇望は現実以上に真実である」ーー我々の現代と西欧の現代、その背後に脈々と流れる、我々が「本能的」に持つ汎神的血液と西欧の一神的血液。生涯のテーマ「日本人でありカトリックであること」を追求する、著者の最初のエッセイ「神々と神と」をはじめ、遠藤文学を確立した昭和40年代までを新編成。文学と信仰の原点と決意を語る熱きエッセイ。

他山石語
講談社文芸文庫
事実を人間はどう表現してきたかという事実──芭蕉と杜甫、ボードレールの詩と「古今集」の短歌。司馬遷とアリストテレス。キリスト教、儒教、仏教、等々古今東西の文学と思想を、中国文学を比較の媒介とし、自由自在に解析する。生涯、孔子と杜甫を崇敬した類いまれな思索者の斬新かつ卓見豊かな文明と人間性へのエッセイ。

告別
講談社文芸文庫
告別への予感はその時もう生まれていた筈だ。しかしそれはもっと以前に、もっともっと遠い昔に既に生まれていたのかもしれない――異国で識り合った女・マチルダとの深い愛を諦め妻と2人の娘のいる家庭へ戻った上條慎吾。娘・夏子の自殺、上條の死、二つの死は響き合い世界は暗く展かれてゆく。福永武彦の代表的中篇小説「告別」、「形見分け」を併録。

田紳有楽・空気頭
講談社文芸文庫
あくまで私小説に徹し、自己の真実を徹底して表現し、事実の奥底にある非現実の世界にまで探索を深め、人間の内面・外界の全域を含み込む、新境地を拓いた、“私”の求道者・藤枝静男の「私小説」を超えた独自世界。芸術選奨『空気頭』、谷崎賞『田紳有楽』両受賞作を収録。