文芸(単行本)作品一覧

ルピナス
文芸(単行本)
鮮烈な死の再会
雪山に消えた作曲家がピアニストへ残した手書きの楽譜。
2人の音楽家を主人公とした傑作ロマネスク。
「僕は、小指が無いんだよ、ホラ」
と、彼は突然、左手を史郎の目の前に強く生き生きと差し出して見せた。
欠けた小指の断面はつやつやと丸くなっており、史郎へ向けて強く差しだした手全体がかすかに輝いているように見える。
「子供の頃、事故で無くした。それで、楽器はうまく弾けないんだ。今、初見でピアノを弾ける人を捜しているんだけれど」と・・・。
瞬間、厭なところに強引に立ち入られ、曲がりなりにも静かさを保っている心の芯を無神経に揺さぶられたような気がした。
彼も一年遅れて入学しており、史郎とは同い年だった。そのことは知っていた。どこか自分と似た臭いを嗅ぎつけて近寄ってきたという気もした。彼が一年遅れた理由は知らない。それは史郎にとってどうでもいいことだった。―――(本文より)

ちぎり屋
文芸(単行本)
繁栄にわく小樽の街の片隅にあるおもんの店で、1杯の酒とともに語られる「問わず語り」。
北の街の小さな居酒屋「ちぎり屋」では、今日もまた、わけあり者たちが、心に溜めた想いを語っていく。
『駆け落ち者』
ちぎり屋は、おもんといとしい男との思い出のよすが。今は、おもん1人が店を切り盛りしている。
『残んの月』
「板場、借りるぜ」その男は、手慰みとは思えない技で、次々と料理を作っていった……。
『冬ごもり』
着流しに半纏を羽織った男は、宇三郎と名乗った。『北の譽』に居候しているという。
『忘れ潮』
使いから戻ったタセの顔を見て、おもんは尖った声を引っ込めた。唇まで色を失っていた。
『差し柳』
タセの噂は、おもんの耳にも届いていた。勝手口の戸を開けた途端、タセの怒鳴り声がおもんの耳を打った。
『焦がれ舟』
ぬる燗の酒を干しながら、近江屋は、十六年以上も前の、ある恋を話し始めた。
『凍て蝶』
運河にかかる橋に佇み、おもんは関東大震災で焼け野原になった故郷・東京を思った。
『橋懸り』
おもんは耳を澄まして、そっと目を閉じた。瞼の裏にもやはり雪は降っていた。

裸のカフェ
文芸(単行本)
夢を見るのに必要な衣服など存在しない
ファッション=身体=魂をめぐる終わりなき戦いを記録する群像新人賞作家の注目作
朝が来なければ何度でも繰り返されるモノクロ映画のただひとりの出演者であるその少女は、人形のようにぴくりとも動かない。正面の壁が取り外されて中が丸見えのセットの部屋で、服を着せられたり脱がされたり、ツケマツゲを取ったり付けたり、首ちょんぱされたり、必ず最後にはバラバラにされてしまうその少女の死体を、その少女の魂が客席の最前列から覗き見ている。――「裸のカフェ」

熱氷
文芸(単行本)
俺は、人は撃たない。撃つのは氷だけ――そう決めている。
人気絶頂の現総理の元に脅迫状が届く。姿を見せない脅迫犯と氷山ハンターの男、3日間の息詰まる攻防。
注目の大型作家、待望の長編エンターテインメント!
最愛の姉の、突然の訃報。
悲しみに沈み、カナダから帰国した男を待っていたのは、姉がこの世に残した、たった1人の甥の誘拐だった。甥の解放の条件は、ある「仕事」――。
男たちの愛と憎しみが、犯罪を加速させる。熱く、激しい闘いの3日間。

水に映る 江戸水景夜話
文芸(単行本)
夜鷹、少年船頭、船宿の下女……
涙もため息も、この川は慈しんでくれる。
水の街・江戸の下町に生きる人々の情けと哀感を、期待の新鋭が描く時代小説集。
『夜鷹舟あわせ黒子』
「あたいにもあるんだよ」――じいちゃんの代わりに船頭になった清太に、夜鷹のお妙は、親指のつけ根にある黒子を見せた。
『楓川人がた流し』
質屋の常磐屋には3つの掟があった。中でも一番厄介で、かつ不可解なのが、「楓川を渡るべからず」だった。
『面影橋ほたる舞い』
船宿・大竹の下働きのおさんに、飴売りの土平は、いつも優しかった。その笑顔を見ると、心も口もつい緩んでしまうのだった。
『雀色時うろうろ舟』
たった1人で舟遊びと洒落こんだ半右衛門は、胸の奥にしまい込んでいたあることを、船頭相手に思わず話し始めた。
『相生橋しぐれ雪』
妙な男が窺っている、という噂を、船宿・きりやの女将・お巻は、初め、気にも留めなかった。
『大つごもり雪花火』
夜が濃くなると現れるという、お千代舟から上がった火の中に浮かんだ顔を見つめ、勘太は、まさか、と思った。

じーさん武勇伝
文芸(単行本)
海賊たちをモノともせず、サイパンで沈没船の財宝探しに大活躍!!
椎名誠氏待望・逢坂剛氏期待の“元気勝ち”長編小説
男の価値ってのはなぁ、どれだけ無茶苦茶やって生きていくかだ――
サイパンで遭難したはずのじーさんが大暴れ!!

裸の桜
文芸(単行本)
閉じこめられた男女三人。
すべてをさらけ出しあった濃密な地下室の夜。
書下ろし!
ヌードモデル、元ボクシングチャンピオン、OL。
弱った心を抱え、占い師を訪ねた者たちが直面した緊迫の一瞬。
エロティシズムが究極のサスペンスへ。
立て膝の間から、牧子が顔をあげた。横顔は上気して見える。口もとは濡れて光っている。
「気持ちいい?」「とても」
史奈が吐息の隙間で声を微笑ませた。
「わたし、ひょっとしたらもう死んでいるのかもしれない。……だって、生きていたころのわたしは、こんなことするはずなかった……」
「……そう、きっと死んでいるんです」――(本文より)

夜叉王
文芸(単行本)
性はおなご。なれど漢(おとこ)。
戦国の世、謙信・信玄の二君に愛されし武士(もののふ)を鮮烈に描く、大型新人の書下ろしデビュー作
おなごとして生を享けながら、武家の嫡男として育てられた南条貞季。
戦に生き、おなごを愛し、ひたすらに剛毅なる者を、非情な運命は容赦なく翻弄する。
毘沙門天に愛でられし貞季は、夜叉となりて修羅の道を行く――。

銀行総務特命
文芸(単行本)
エリートたちの醜聞を、密かに隠蔽せよ!
巨大銀行で次々と起こる不祥事・スキャンダル処理の特命担当調査役・指宿修平。特殊な「捜査権」を与えられた男の孤独な闘いを描いた銀行ミステリーの傑作!
週刊現代連載中よりビジネスマンの強い支持を受け、いよいよ刊行!
極秘「企業選別リスト」の売買事件、美人女子行員「AV出演」で明るみに出た銀行員の淫靡な欲望、ストーカー事件の陰に隠された陰謀、人事VS.総務の熾烈な暗闘、破綻銀行のペイオフ発動に仕掛けられた罠……
見かけは端正で完璧なエリート集団が引き起こす生々しい不祥事に、総務部特命が挑む!

ひどい感じ――父・井上光晴
文芸(単行本)
大嘘吐きだった父へ、愛をこめて。
娘が描く小説家の実像。
瀬戸内寂聴氏絶賛
「今、小説家荒野さんが小説家井上光晴の人間の魅力のすべてをここに書きあげた。エッセイというよりわたしは秀れた小説として読んでしまった。それほど面白く、息もつがせない。」
作家としても、人間としても、男としても、実にユニークで魅力的な個性の持主であった井上光晴氏が逝き、早くも10年の歳月が過ぎ去った。
井上さんは硬派の純文学作家としては異例なほど夥しい作品を遺した。それらの小説の他に井上荒野という女性の作家を遺した。これも井上さんの貴重な作品である。
荒野さんもまた父に劣らずユニークな小説家になった。今、小説家荒野さんが小説家井上光晴の人間の魅力のすべてをここに書きあげた。
エッセイというより私は秀れた小説として読んでしまった。それほど面白く、息もつがせない。書かれた人物の奇想天外の愉快さであり、それをまるで名外科医のように冷静かつ、細心にメスを入れ、腑分けしていく荒野さんの腕の冴えに驚嘆し、興奮させられたからである。この本を誰よりも熱心に読み、「サイコー」と両手を挙げて祝し、グイと、ウィスキーをあおる井上さんの顔が目に浮ぶ。――(瀬戸内寂聴)

滅びのモノクローム
文芸(単行本)
満場一致で選出!
第48回江戸川乱歩賞受賞作
一個のリールが歴史の闇に光をあてる。
CM制作者が手作業で再生した古いフィルム。
そこには日本がひた隠しにしてきた過去が映っていた。
-選評より-
●赤川次郎氏
「釣りをモチーフにしながら、そこから事件へとつなげて行く辺りが自然で、小説として魅力あるものになっていた。」
●逢坂剛氏
「いろいろな素材をぜいたくに盛り込んで、一つの世界を構築する腕は評価してよい。」
●北方謙三氏
「人間の過去という大きな命題を、淡々と描きあげることに成功している。」
●北村薫氏
「安定した筆致、小道具としての釣り用リールの扱い方などが印象に残った。魅力的な個性は、手慣れた技巧以上に尊いものである。」
●宮部みゆき氏
「日本という国が懐深く隠し持ち、表向きは存在しないふりをしている“過去の傷”について、誠実に描いた小説だと思います。」

時の潮
文芸(単行本)
今日、昭和が終つた。
穏やかな葉山の海に想ふ家族、戦争――新しい戦後文学
天皇陛下万歳はどうです、と私は言つた。ふだん坂西が喋りたがらない事を、喋らせてみたい気になつてゐた。天皇陛下万歳と叫ぶやうに教育されたものの、いざ死に臨めば動物的本能が働いて、お母さんを呼んでしまふ、そんな風に解釈すれば筋は通るけど、実際はどうだつたんです。知らんな、解釈なんて無意味だ、と坂西は素気なかつた。天皇陛下でもお母さんでもなく、弾が当ればみんなぎやあとも言はずに死んぢまつたよ、俺が知つてるのはそれだけだ。鼻の先で戸を閉てられたやうに、私は話の接穂を失つた。――(本文より)

グレイヴディッガー
文芸(単行本)
『13階段』の衝撃、再び!
疾走するノンストップ・スリラー!
都内全域で、一夜のうちに起こる無差別大量殺人。
中世暗黒時代、異端審問官を皆殺しにした「伝説の死者」が、現代の東京に甦る。
圧倒的なスピード感で展開する、待望のエンターテインメント巨編、ここに登場!
都会の闇を生きてきた悪党・八神俊彦は、運命の一日を迎えるはずだった。生き方を改めるため、自ら骨髄ドナーとなり白血病患者の命を救おうとしていたのだ。
ところがその日、都内で未曾有の無差別大量殺人が発生。大都市・東京は、厳戒態勢に突入した。そして友人の死体を発見した瞬間から、八神の必死の逃走劇が始まった。
警察、謎の集団、正体不明の殺戮者から逃げ切らなければ、八神の骨髄を待つ白血病患者が死ぬ。八神は生き残れるのか? 謎の殺戮者・グレイヴディッガーの正体とは?
著者渾身のスリラー巨編が、ついにその全貌を現す!

サイバラ茸2
文芸(単行本)
幻覚注意! ……『おもしろくても理科』『どうころんでも社会科』『いやでも楽しめる算数』などのお勉強シリーズやその他から、サイバラ漫画だけを集めた、傑作選・第2弾!

おーい、宗像さん
文芸(単行本)
煩悩満載の純文学小説! 少年の心を持った中年男。それは、ガキか馬鹿か? 純粋か? この小説を読みながら、考えてみて下さい。
煩悩満載の純文学小説!
少年の心を持った中年男。
それは、ガキか馬鹿か? 純粋か?
この小説を読みながら、考えてみて下さい。
おーい、宗像さん、元気でやっているかい? ぼくのほうはなんとか生きているよ。哀しいこともつらいこともあった気がするけど、どう生きても大差がないということに、ようやく気がついたよ。生きていればいいんだよな。……
なんの役にも立ちそうにもないことに夢中になるのも、たぶん生きていくのが、息苦しくなるからだよ。期待すれば、その先に失望が待っていることも、ぼくらは気づいているし、ようやくのおもいで手に入れたものも、いつか色褪せるということもわかっている。つまるところは、うまくいかない人生のほうがおもしろい気もするよね。人生は、ながい時間をかけて、孤独をうめていく作業かもしれないな。――(あとがきより)

グッドラックららばい
文芸(単行本)
バラバラだって大丈夫。家族は他人の始まりだから。
モラルと常識を笑い飛ばす、書下ろしネオ・ファミリー・ロマン
プチ家出から何年も戻ってこない母
ダメ男に貢ぐのが趣味の姉
まあ、いいじゃないかと様子見の父
立身出世に猛進する妹
人の迷惑顧みず、自分のことだけ考える、タフな一家がここにいる。

今は昔、猫と私の関係
文芸(単行本)
もう飼わない、と決めたのに。
40数年ネコと暮らした。
あの顔この顔、いまファミリイの幸福な時間が甦る!
出色の猫エッセイ。山寺のネコたちの息吹き。
阪神大震災を経験したネコたち、山寺から荻窪に住まいを変えたネコたち。ネコ3代の系譜を軸に、紫式部賞受賞作家がみるネコたちの生態と、人間との古典的関係。

トキオ
文芸(単行本)
1979年、浅草。時を超えた奇跡の物語
男は父親になっていく。「彼」との出会いによって。
俺は、あんたの息子なんだよ、宮本拓実さん。未来から来たんだ。
あと何年かしたら、あんたも結婚して子供を作る。
その子にあんたはトキオという名前をつける。
その子は17歳の時、ある事情で過去に戻る。
それが俺なんだよ。

発火点
文芸(単行本)
12歳のあの日、父が殺され、少年時代の夏が終わった。
人生を変えた殺人。胸に迫る衝撃の真相。
なぜ友の心に殺意の炎が燃え上がったのか?
魂の根源に迫る衝撃サスペンス。
12歳の夏――。
浜に倒れていたあの人。母のため息。家に寄りつかない父。
――そして事件は起こった。
21歳の今、あの夏の日々を振り返る。刑期を終えたあの人が帰ってくる……。罪と罰の深淵を見つめる魂の軌跡。

南の息
文芸(単行本)
男も、女も、もうひとつの生き方を探していた……
むせかえるような空気の中、母なる自然に抱かれて、
男と女が織りなす「生きること」の傑作連作小説
男はなぜ誘うのか?
女はなぜここにいるのか?
最後の作品で、謎は明かされる。
連作小説の深い味わい。