文芸(単行本)作品一覧

往生日和
文芸(単行本)
逝かせてくれと父は言った。
父の終焉をみつめた澄明な秀作
90歳。死に向かう父親と見守る家族、最後の7日間の物語。不思議な幸福感があなたを包む!かつて書かれたことのない死の風景。
ちょうど63歳の誕生日を迎えた8月の31日に、私は脳卒中で倒れ、右半身が不自由になった。右足は、ひきずりはするけれども支えになるまでに回復したが、手のほうはいけなかった。右手は拳のかたちのまま、固まってしまった。利き腕の機能を失ったので、私は左手を鍛錬するために彫刻を始めたのである。
素質はあったのだと思う。私の家は九州のキリシタンで名高い島で、7代つづいた宮大工を家業にしていた。家が没落するという不幸さえなければ、私も跡を襲って棟梁になっていたはずなのである。――(本文から)

スケバンのいた頃
文芸(単行本)
ケンカ日本一、世界一エエ女。
最強の蹴りとピュアな恋心を持つノンコは、新任の産休代理・江(こう)と出会う。
「岸和田シリーズ」の著者が描く熱血教師物語
「おしえてよー!!」
江は教えない。なんでもかんでも教えたらいいものではないだろう。教えることによって、つぶしてしまうものもある。そう思っている。自分で考え、自分でなやみ、もがき苦しむ部分まで手をかしてはいけない。
「先生なんやろォ!教えてよォー」
「あかーん。ワシがキミに初めて出す問題や。カンニングせんと、自分でやれよォ」――(本文より)

武蔵
文芸(単行本)
類書を圧する【宮本武蔵】の面白さ。作家と武蔵の対決!
武蔵を知ろうとした作家たち。
圧倒的な吉川英治をはじめ、村上元三・山本周五郎・小山勝清・五味康祐・司馬遼太郎・柴田錬三郎・光瀬龍・早乙女貢・澤田ふじ子・藤沢周平・津本陽・笹沢左保・佐江衆一・峰隆一郎そして『バガボンド』の鮮烈な出現。
近代文学の中で、宮本武蔵がはじめて登場したのは、恐らく森鴎外の『阿部一族』(大正2年)であろう。結末に近いところ、阿部一族の討手に加えられた大兵の臆病者、畑十太夫を武蔵が見て声をかける場面のほんの数行である。鴎外は、何故、ここに武蔵を登場させたのか?――(「まえがき」より)

じぶくり伝兵衛 重蔵始末(二)
文芸(単行本)
付け火の予告に拵(こしら)え角力(ずもう)、葵御紋の怪盗一味。
江戸を跋扈(ばっこ)する悪党どもに、奇傑・重蔵が立ち向かう。
大評判の傑作時代小説シリーズ第2作!

憂い顔の童子
文芸(単行本)
小説家、「ドン・キホーテ」と森へ帰る。
滑稽かつ悲惨な老年の冒険をつうじて、死んだ母親と去った友人の「真実」に辿りつくまで。
魂に真の和解はあるのか?
書下ろし長篇小説
「森に入って、ある1本の木を選んで、ちょうどいまの年齢の、老年の私が待っている。その私に、子供の私が会いに来るんだ。
しかし老人はね、少年に対して、きみが夢みるほど高い達成はない、この自分が、つまりきみの50年後なんだから、とはいわない。それが「自分の木」のルールだから……」

雲南の妻
文芸(単行本)
奇妙な同性婚
傑作長篇小説
この契りは永遠に……
女が女を娶る。中国雲南の奥深い地で過ごした忘れ得ぬふたりの愛の生活。
「いったいどうすればいいの」
「奥さんはわたしです……。
わたしは奥さんです……。
あなたのして欲しいことをわたしがします。
わたしのして欲しいことをあなたがします」――(本文より)

魔笛
文芸(単行本)
白昼の渋谷。
無差別爆弾テロ。犯人は女だった。
「狂気」を極限まで描き尽くす、作家・野沢尚の到達点。渾身の書下ろし。
公安と新興宗教のはざまで生み落とされ、首都を暴走する未曾有の恐怖。
警察をあざ笑うかのようにテロを仕掛け続ける女が求めるのは、罰か。救いか。
悪魔的な頭脳で日本を恐怖に陥れた彼女を、若き刑事と、その獄中の妻が追う。

孫の結婚式
文芸(単行本)
楽しい家族の輪がひろがり 今日も穏やかな1日が過ぎてゆく
孫の結婚式に招かれる幸せ、師の思い出と若き日の交友、
日常を美しい言葉で綴って心にしみるエッセイ集
対談「静かな日々」
江國香織×庄野潤三収録
おじいちゃんの食後
野菜のよろこび
夕食まで
すみだの花火
鈴虫のはなし
家族新年会
ワールドカップ印象記
わが師の恩
林富士馬さんを偲ぶ
父 庄野貞一のこと
ラムとのつきあい
井伏鱒二さんのかめ――(目次より)

安倍晴明公
文芸(単行本)
晴明神社御鎮座壱千年記念出版
晴明公の真実に迫る豪華執筆陣

コールドゲーム
文芸(単行本)
17歳、まさかそんなに早く死ぬなんて思ってもいなかった。
甲子園に届かなかった夏、中学時代のクラスメートに次々事件が降りかかる。
切なすぎる結末。渾身の書下ろし長編小説
弁当を笑われ、プロレスの技をかけられ、教室でパンツを下ろされる。
クラスじゅうのイジメの標的にされていた小柄な少年、トロ吉。
「俺たち、そんなにひどいことしたかな。あの時は、しょうがなかったんだよ。自分だけやらないとクラスで立場がなくなっちゃうって感じで……」
中2から高3。4年あればずいぶん変わる。誰だって。

キャベツの新生活
文芸(単行本)
愛するココロ 生きてるアカシ
君を愛せなくなって僕のニューライフは始まった。
キャベツ、キウイ、夏帆――0から無限大へのラブストーリー
透明感のある清清しい筆致で描く書下ろし恋愛小説
人は生きていても死んでいることがあります。
彼らは、深夜のコンビニや無機的なビルの立ち並ぶ、
未来都市さながらの臨海副都心、
楽しすぎる遊園地などに出没するようです。
そこには死んでいる人もやってきて、
人と関われずにさまよっています。
愛し方を忘れてしまった人たち。
彼らが出会い、それを思い出したとき――。

幸せな家 売ってください
文芸(単行本)
母子家庭で育ち、前夫の暴力から逃げるように離婚。
バツイチ同士で再婚した夫は定職につかず、前の家庭とも縁を切れない。
だから私は家を買う。
本当の家族をつくるために。
初めて買ったのは田舎町の「古家」だった。次は海辺の新築マンション。
しかし、しがらみや通勤苦で幸せは遠ざかる。
2人はさらなるマイホームを探し始めた。
「建て替えができないって、将来はどうするんですか?」
「柱1本残して、増築か改築として申請する手があるんです」
「でも、頭金、足りないですよね」
「物件価格を高めに設定して申し込むんです。物件価格が二千万とすると8割だから千六百万円しか融資はおりませんが、二千五百万とすれば二千万円おりる」

東京駅の建築家 辰野金吾伝
文芸(単行本)
東京駅を作った人!―― 唐津藩の下級武士・辰野金吾は上京し、英国に留学。日本銀行や東京駅を手がけて、近代日本の魂をも作った! 見事な人間讃歌、書下ろし特別作品。
● わが国近代建築のなかで、東京駅はおそらく最も多く小説に取り上げられてきたものであろう。とくに私の記憶に残っているのが、江戸川乱歩『怪人二十面相』である。
怪盗が帝都に跳梁する状況下、待ちに待った名探偵明智小五郎が帰朝し、颯爽と東京駅に降り立つ。この名探偵を外務省の役人に変装した二十面相がプラットホームで出迎え、二人はステーションホテルの一室で対決する。
「この駅はあたかも光線を放射する太陽のようなものだ。あらゆるものの中心となって、ここから光を四方八方に放ってほしい」と、開業の祝賀式で時の首相大隈重信が述べた言葉は、まさに以後の東京駅と近代日本の行く末を言い当てることになった。――(あとがき)

半落ち
文芸(単行本)
自首。証拠充分。
だが被疑者は頑なに何かを隠している。
実直な警官が病苦の妻を扼殺。捜査官、検察官、裁判官…6人の男たちは事件の“余白”に迫っていった。
警察小説の旗手、初の長篇
「人間50年」――
請われて妻を殺した警察官は、死を覚悟していた。
全面的に容疑を認めているが、犯行後2日間の空白については口を割らない「半落ち」状態。
男が命より大切に守ろうとするものとは何なのか。
感涙の犯罪ミステリー。

死都日本
文芸(単行本)
超弩級クライシスノベル<第26回メフィスト賞受賞作>
本書を読まずして、我らが大地に無自覚に佇むことなかれ…。
東京大学理学部松井孝典教授大絶賛!
我々は今、地球システムのなかに新たな構成要素として、人間圏を作って生きている。そんな我々の1年を地球時間に換算すれば、1万~10万年に相当する。 では、そんな時空スケールで日本列島の人間圏を考えたら、我々は何処へ行くのか? それが本書のテーマだ。 『日本沈没』以来久々の、日本の作家にしか書けないクライシスノベルの登場である。――(東京大学理学部 地球惑星物理学教室 教授 松井孝典)

首鳴り姫
文芸(単行本)
あんなに美しい夜はなかった
野間新人賞作家が描く初の書下ろし恋愛小説
バブルの最中、夜学部に入学した私は否定的な眼を持つ少女フキコに恋をした。夜の中をあてもなく彷徨う恋人たちの不器用な恋愛、熱と苦しみの季節を描く傑作長篇。
若いときに若かった人たちは幸いである――そう言ったのはプーシキンでしたが、冨来子とともにすごす日々が明るい陽光の下にあってこそ、私たちが若くあることもできるのだ、と私は考えていたのでした。しかし私たちは、夜の中でしか出会いえなかったのです。

似せ者
文芸(単行本)
芸は時代をうつす鏡。
名優・坂田藤十郎の「そっくりさん」めぐる騒動を描いた表題作ほか、芸の世界に生きる者たちの、それぞれの人生を描いた会心作。
似せ者とわかっていながら、人はそっくりな男を見てなぜこんなにも胸が騒ぐのだろうか。――(本文より)

煮え煮えアジアパー伝
文芸(単行本)
人生、迷いっぱなし。
飲み始めると脳の中が煮えるまで飲んでしまう。
アジアの街にはそんな僕を許してくれる優しさがある。
韓国の熱血漢、タイの落伍者に毛深い謎の美女、ミャンマーの不思議な老人……
みんな、僕が何者にもなれないことを教えてくれる。

ルピナス
文芸(単行本)
鮮烈な死の再会
雪山に消えた作曲家がピアニストへ残した手書きの楽譜。
2人の音楽家を主人公とした傑作ロマネスク。
「僕は、小指が無いんだよ、ホラ」
と、彼は突然、左手を史郎の目の前に強く生き生きと差し出して見せた。
欠けた小指の断面はつやつやと丸くなっており、史郎へ向けて強く差しだした手全体がかすかに輝いているように見える。
「子供の頃、事故で無くした。それで、楽器はうまく弾けないんだ。今、初見でピアノを弾ける人を捜しているんだけれど」と・・・。
瞬間、厭なところに強引に立ち入られ、曲がりなりにも静かさを保っている心の芯を無神経に揺さぶられたような気がした。
彼も一年遅れて入学しており、史郎とは同い年だった。そのことは知っていた。どこか自分と似た臭いを嗅ぎつけて近寄ってきたという気もした。彼が一年遅れた理由は知らない。それは史郎にとってどうでもいいことだった。―――(本文より)

ちぎり屋
文芸(単行本)
繁栄にわく小樽の街の片隅にあるおもんの店で、1杯の酒とともに語られる「問わず語り」。
北の街の小さな居酒屋「ちぎり屋」では、今日もまた、わけあり者たちが、心に溜めた想いを語っていく。
『駆け落ち者』
ちぎり屋は、おもんといとしい男との思い出のよすが。今は、おもん1人が店を切り盛りしている。
『残んの月』
「板場、借りるぜ」その男は、手慰みとは思えない技で、次々と料理を作っていった……。
『冬ごもり』
着流しに半纏を羽織った男は、宇三郎と名乗った。『北の譽』に居候しているという。
『忘れ潮』
使いから戻ったタセの顔を見て、おもんは尖った声を引っ込めた。唇まで色を失っていた。
『差し柳』
タセの噂は、おもんの耳にも届いていた。勝手口の戸を開けた途端、タセの怒鳴り声がおもんの耳を打った。
『焦がれ舟』
ぬる燗の酒を干しながら、近江屋は、十六年以上も前の、ある恋を話し始めた。
『凍て蝶』
運河にかかる橋に佇み、おもんは関東大震災で焼け野原になった故郷・東京を思った。
『橋懸り』
おもんは耳を澄まして、そっと目を閉じた。瞼の裏にもやはり雪は降っていた。