講談社文芸文庫作品一覧

荒魂
荒魂
著:石川 淳,解説:立石 伯
講談社文芸文庫
荒ぶる魂、生まれながらにして、生と死を抱え持つ佐太。この存在を無気味な背景に展開される“変革”の劇。精神の逼塞の根に仕掛けられた爆薬のような強烈な“発条”。初期世界からの独自な精神の運動を持続し続けた、石川淳の『白頭吟』から『狂風記』の間を繁ぐ白眉の長篇。
電子あり
生々流転
生々流転
著:岡本 かの子,解説:川西 政明
講談社文芸文庫
乞食という出自を持つ父、しかも正妻でない妻の若い娘。女性体操家とその影響下に育った男と主人公との三角関係。それを逃れるために住んだ裕福な青年との風変わりな同居。関係の捩れを解くため男と同行した行先での体操家の失踪。宿命的な乞食としての流浪の月日。そして女は……。波瀾万丈と言うべき劇的生涯の下で流れる水、川、そして海。女性が自ら主体として生きる像を描く画期的、先駆的長篇。
古典と現代文学
古典と現代文学
著:山本 健吉,その他:紅野 敏郎
講談社文芸文庫
万葉から近松・西鶴へ古典を通覧し、人麻呂、世阿弥、芭蕉を日本の“詩の自覚の歴史”の3つの頂点に位置づけ、彼等の美の完成とその源泉の中に、日本文学史のもう1つの道を探り、現代文学の生命力を喚起しようとする。豊かな学識と詩精神で古典と現代の溝を埋め、深い愛しみをこめて現代文学に警鐘を鳴らす著者の、“ライフ・ワーク”「詩の自覚の歴史」の源流となった名著。読売文学賞受賞。
清貧の書・屋根裏の椅子
清貧の書・屋根裏の椅子
著:林 芙美子
講談社文芸文庫
母と義父とに連れられて幼い頃行商の旅に暮らした体験を明るく牧歌的に描き切った短篇「風琴と魚の町」、つましく生活する1組の夫婦の愛情を謳う「清貧の書」、転機を求めてのパリ旅行を素材とした「屋根裏の椅子」、男と女の後姿に、あるが儘の人生を見る客観小説「牡蠣」等。名作『放浪記』を力に、作家はいかに飛躍をとげたか。〈宿命的放浪の作家〉林芙美子の代表的初期短篇7作。
電子あり
お能・老木の花
お能・老木の花
著:白洲 正子,その他:渡辺 保
講談社文芸文庫
二代目梅若実について能を習い初めた4歳。渡米留学した14歳。厳しい教育をうけ、後欧州にも赴く。爾来、古典芸能・文学・美術工芸に造詣を深め美を追究。著者の芸術観の“核”となる能楽論、最初期の「お能」のほか「梅若実聞書」「老木の花」を収録。実践に裏打ちされ平明、簡潔、強靱な筆致で綴ったエッセイ集。
近代の超克
近代の超克
著:花田 清輝,その他:川本 三郎
講談社文芸文庫
近・現代をいかに超えるか? 著者の代表的エッセイーー〈前近代的なものを否定的な媒介として近代を超える〉……著者の生涯を貫ぬいて実践された主題に添って書かれた「柳田国男について」は、柳田国男の現代的な再発見を促がし、フォークロアや口承文芸、〈近代〉から排除されたB級文化話芸などが、教養主義的価値観から解放され陽の目を見た。活字中心の価値観に、根柢的改変を迫った、衝撃的エッセイ。
電子あり
死の淵より
死の淵より
著:高見 順,解説:佐々木 幹郎
講談社文芸文庫
つめたい煉瓦の上に/蔦がのびる/夜の底に/時間が重くつもり/死者の爪がのびる(「死者の爪」)死と対峙し、死を凝視し、怖れ、反撥し、闘い、絶望の只中で叫ぶ、不屈強靱な作家魂。醜く美しく混沌として、生を結晶させ一瞬に昇華させる。“最後の文士”と謳われた高見順が、食道癌の手術前後病床で記した絶唱63篇。野間文芸賞受賞。
木枯の酒倉から・風博士
木枯の酒倉から・風博士
著:坂口 安吾,解説:川村 湊
講談社文芸文庫
はたから見ると何をしているのか、と疑われるような青春。内部では、いかに壁を破れるか、と深く呻吟している青春。人生的に、文学的に必要以上の重荷を敢えて背負い、全人生的、全文学的な苦吟の果て、初期坂口安吾は誕生する。苦吟の果ての哄笑、ファルス。「木枯しの酒倉から」「風博士」「黒谷村」「竹藪の家」等、初期安吾を代表する秀作を収録。
電子あり
ちぎれ雲
ちぎれ雲
著:幸田 文,その他:中沢 けい
講談社文芸文庫
「おれが死んだら死んだとだけ思え、念仏一遍それで終る」死の惨さ厳しさに徹し、言葉を押さえて話す病床の父と露伴。16歳の折りに炊事一切をやれと命じた厳しい躾の露伴を初めて書いた、処女作品「雑記」、その死をみとった「終焉」、その他「旅をおもう」「父の七回忌に」「紙」等22篇。娘の眼で明治の文豪露伴を回想した著者最初期の随筆集。
私の『マクベス』
私の『マクベス』
訳・解説:木下 順二
講談社文芸文庫
画期的と世評の高い翻訳と原作の真髄を説く評論ーー生の深奥に潜む根源の暗黒を描くシェイクスピアの名作を、改訳に改訳を重ね、画期と評される木下順二訳で収める。原文の台詞がもつ旺盛なエネルギーとイメージの喚起力を、いかに日本語に定着させるか。原作と翻訳の間に必然的に介在する「訳し得ぬもの」を、自からの翻訳体験を通して詳密に語り、『マクベス』理解の最良のアプローチとなった長篇評論「なぜシェイクスピアが訳せないか」を併録。
電子あり
青い小さな葡萄
青い小さな葡萄
著:遠藤 周作,解説:上総 英郎
講談社文芸文庫
1人の日本人留学生が霧の臭いのする町リオンで遭遇した元ナチの兵士・ドイツ人神学生ハンツの謎めいた履歴。戦争への抵抗の美談に隠れた味方同士の醜いエゴの争い 息づまる虐殺の歴史、目を覆うばかりの人間本能の崩れ。深い懐疑を抱きつつ、それにも拘らず“神”を求めさ迷う主人公伊原の心を鋭利な文体で追い詰め描く方法的実験。戦後初のフランス留学生だった著者の文学的原点を示す長篇。
街と村・生物祭・イカルス失墜
街と村・生物祭・イカルス失墜
著:伊藤 整,解説:佐々木 基一
講談社文芸文庫
詩人として出発し、小説、評論、翻訳等、広汎な活動のうちに、常に時代を先駆し、唱導した著者の文壇的出世作『街と村』。“郷土小樽”という現実の場所と青春時代の過去と幻想を交錯させ、人間の意識の底に息づく根源的なものを描く、“自伝”的小説『街と村』(「幽鬼の街」「幽鬼の村」)へ発展する『生物祭』『イカルス失墜』『浪の響のなかで』等、青春のリリシズム溢れる初期代表作6篇。
壊れものとしての人間
壊れものとしての人間
著:大江 健三郎,その他:黒古 一夫
講談社文芸文庫
幼年期をすごした、四国の深い森の奥を出て作家になった著者は、読書をひとつの手がかりとして、自分の内部の暗闇を凝視する。己れが引き裂かれているという強迫観念。個としての死への怯え。破滅に瀕したこの世界と宇宙。小説家の自由な思考が記憶を手繰り、己れの過去を顧みる。作家大江健三郎の精神の原点と、創造世界の内奥を小説に近い告白的な語りのうちに綴った長篇評論。
愛・理性及び勇気
愛・理性及び勇気
著:与謝野 晶子,その他:鶴見 俊輔
講談社文芸文庫
女性の自覚、人間性の重視を基に現実を見据え、女性・教育・時事ほか多岐にわたる問題に鋭い批判を展開。「婦人と自尊」「女性と高等教育」「婦人より観たる日本の政治」「女子理性の恢復」「婦人の実行的勇気」など“近代女性史”の始祖的存在ともいえる『みだれ髪』の作者与謝野晶子の、体験を踏まえ内外の見聞に立つ諸論81篇を収録するエッセイ集。
電子あり
ゴーギャンの世界
ゴーギャンの世界
著:福永 武彦,解説:菅野 昭正
講談社文芸文庫
なぜ、35歳の富裕な株式仲買人ポール・ゴーギャンが、突然、その職を投げ打って、画家をめざしたのか? 「野蛮人」たらんとした文明人、傲岸と繊細、多くの矛盾、多くの謎をはらんで、「悲劇」へと展開するゴーギャンの「世界」。著者の詩魂が、ゴーギャンの魂の孤独、純粋な情熱、内なる真実と交響する。文献を博渉し、若き日の「出遇」から深い愛情で育んだ、第一級の評伝文学。毎日出版文化賞受賞作。 何故、35歳の富裕な株式仲介人ポール・ゴーギャンが突然、その職を投げ打って、画家をめざしたのか?“野蛮人”たらんとした文明人、傲岸と繊細、多くの矛盾、多くの謎を孕んで“悲劇”へと展開するゴーギャンの“世界”。著者の詩魂がゴーギャンの魂の孤独、純粋な情熱、内なる真実と交響する。文献を博渉し、若き日の“出遇”から深い愛情で育んだ第1級の評伝文学。毎日出版文化賞受賞。
電子あり
偉大なる暗闇-師岩元禎と弟子たち
偉大なる暗闇-師岩元禎と弟子たち
著:高橋 英夫,解説:粕谷 一希
講談社文芸文庫
夏目漱石が『三四郎』の“偉大なる暗闇”広田先生のモデルとしたとの“伝説”の旧制一高独逸語教授・岩元禎。頑固一徹、情容赦なく落第点をつける徹底した厳格さの古典的理想主義の哲学者。その変り者の生涯と精神の軌跡。近代ヨーロッパ文化と初めて遭遇し苦闘するその姿を漱石など関連の人物たちと対比させた多面的評伝にして明治の精神史。思想探求の書。第13回平林たい子賞受賞。
電子あり
萩原朔太郎
萩原朔太郎
著:磯田 光一,解説:吉本 隆明
講談社文芸文庫
芥川の言葉“宿命は不幸にも萩原君に理智を与へた”の如く明敏なるが故に近代の毒を満身に浴びた現代詩の創始者萩原朔太郎のその生活と芸術を他誌と歴史の中に融合した批評家・磯田光一の正に畢生の評伝文学。最終章は書かれずに終ったが、優に世に残すべき力篇。
英国の文学の横道
英国の文学の横道
著:吉田 健一
講談社文芸文庫
我が国で英文学が“不振”であった訳をその特質を通して熱く語る、最初期の評論「英国の詩に就ての一考察」ほか、「ロレンスの思想」「エリオットに就て」「グリインの小説」「シェイクスピアの十四行詩に就て」「オスカア・ワイルド」「イィヴリン・ウォオ」など、昭和40年代までの作品を収録。卓越した知性と鑑賞力で机上の定説に囚われることなく、英文学の馥郁たる香気を批評の言葉で綴る文芸エッセイ集。
光と風と夢・わが西遊記
光と風と夢・わが西遊記
著:中島 敦
講談社文芸文庫
喀血に襲われ、世紀末の頽廃を逃れ、サモアに移り住んだ『宝島』の作者スティーヴンスン。彼の晩年の生と死を書簡をもとに日記体で再生させた「光と風と夢」。『西遊記』に取材し、思索する悟浄に自己の不安を重ね〈わが西遊記〉と題した「悟浄出世」「悟浄歎異」。──昭和17年、宿痾の喘息に苦しみながら、惜しまれつつ逝った作家中島敦の珠玉の名篇3篇を収録。
電子あり
蝮のすえ・「愛」のかたち
蝮のすえ・「愛」のかたち
著:武田 泰淳
講談社文芸文庫
戦前から戦後にかけての激変。支配・被支配の転倒。混乱、こん沌の中で、新たな生を獲得した“女”を鮮烈に捉え、戦後の日本に大きな震撼をもたらした武田泰淳の初期作品「才子佳人」「蝮のすえ」(『愛』のかたち)の三篇を収録。時代を超えて透視する眼、したたかな精神のしなやかな鞭。