講談社文芸文庫作品一覧

ベルリン一九六〇
ベルリン一九六〇
著:長谷川 四郎,解説:池内 紀
講談社文芸文庫
初めてヨーロッパの地を踏んだ50歳の作家の〈わたし〉は“ベルリンの壁”の封鎖直前の緊迫した町で下宿をさがす。宿の女主人、同宿人たち、反共主義者のザスク夫妻その他知り得た多くの人の手引で東西ベルリンを往来し、冷戦下の日常を生きるドイツ人の鬱屈した心の襞を知る。“失われた時間”が今に甦る1960年ベルリンの光景。遠く森鴎外の『独逸日記』等に通ずる滞在記文学の名著。
澪標・落日の光景
澪標・落日の光景
著:外村 繁
講談社文芸文庫
亡き妻への愛を吐露して哀切限りない「夢幻泡影」。読売文学賞受賞の名著、著者のヰ夕・セクスアリス「澪標」。夫婦ともにガン発病、迫り来る死とたたかう闘病生活の不思議な明るさと静寂感充ちる「落日の光景」「日を愛しむ」。愛する者の死。人生の不可思議。末期の眼。死へ向う透明な生。外村文学の鮮やかな達成4篇。
電子あり
影・裸婦変相・喜寿童女
影・裸婦変相・喜寿童女
著:石川 淳,解説:立石 伯
講談社文芸文庫
三品財閥の女婿である外交官の鳥栖庄五は役所の機密書類を密かに持ち帰る途中、秘密探偵社の一団に誘拐される――社会機構を痛烈に風刺した「影」をはじめ、幻想的世界と現実とが妖しく交錯する「裸婦変相」、喜寿を迎えた名妓お花が11歳の幼女に変貌する奇談「喜寿童女」ほか、「ほととぎす」「大徳寺」など、鋭い批評眼と絶妙な文体で描かれた中期作品群より7篇を収録。
電子あり
英語と英国と英国人
英語と英国と英国人
著:吉田 健一
講談社文芸文庫
幼少期を英国で過ごした“神秘の文士”吉田健一。日本語が母語でありながら夢は英語で見たという伝説の英国を知り尽した文芸評論家の滋味溢れる随筆。「英語上達法」「読むことと話すこと」「英語と英会話」「旅の印象」「ロンドンの公園めぐり」「英国の四季」等その自然と風土のかもす独特の英国的思考と感性の底の普遍的なる人間真実を楽しく綴るエッセイ42篇。
画にもかけない
画にもかけない
著:中川 一政
講談社文芸文庫
横溢する生命力、高い精神性を示す文人画家、その融通自在、常に真の美を追求する中川一政が、「墨蹟」「私の遍歴」「鉄斎尺牘」ほか『随筆八十八』以降のエッセイ群に、「画を習うという事」等の書下ろし12篇、藤枝静男との対談、カラー口絵・書画8点等々を加え、独自の芸術観を熱く主張する。――百尺竿頭一歩を進む91歳、瑞々しい“独学の精神”!
三匹の蟹
三匹の蟹
著:大庭 みな子,解説:リービ 英雄
講談社文芸文庫
『大型新人」として登場以来25年、文学的成熟を深めて来た大庭みな子の、あらためてその先駆性を刻印する初期世界。群像新人賞・芥川賞両賞を圧倒的支持で獲得した衝撃作「三匹の蟹」をはじめ、「火草」「幽霊達の復活祭」「桟橋にて」「首のない鹿」「青い狐」など、初期作品を新編成した7作品群。 “大型新人”として登場以来25年、文学的成熟を深めて来た大庭みな子の、あらためてその先駆性を刻印する初期世界。群像新人賞・芥川賞両賞を圧倒的支持で獲得した衝撃作「三匹の蟹」をはじめ、「火草」「幽霊達の復活祭」「桟橋にて」「首のない鹿」「青い狐」など初期作品を新編成した作品群。
電子あり
無縁の生活・人生の一日
無縁の生活・人生の一日
著:阿部 昭
講談社文芸文庫
日常の深底に澱む不透明で苛酷な世界。人生の悲哀を呑みこんだ苦いユーモアと豊かな情感とに支えられる阿部昭の小説空間。「自転車」「猫」「窓」「散歩」「手紙」「童話」「道」ほかの短篇で繋ぐ『無縁の生活』、「人生の一日」「水のほとりで」「天使がみたもの」などを収める芸術選奨新人賞受賞『人生の一日』。2つの作品集から20篇を収録。
電子あり
古い記憶の井戸
古い記憶の井戸
著:本多 秋五
講談社文芸文庫
幻想的でナイーブな、第1部初期習作時代、一貫する主義思想を率直に語る、第2部戦後の雑記類から、母の死の記憶の追跡に始まる、第3部生い立ち回想。重厚、誠実、悠揚迫らぬ風格で戦後文学を支え、批評によって人間存在の根底、芸術の普遍性を提示し続ける本多秋五の精神世界の源泉。鮮烈多面的に語る、17歳から69歳までのエッセイ群。読売文学賞受賞。
愛酒樂酔
愛酒樂酔
著:坂口 謹一郎
講談社文芸文庫
発酵学・微生物学の権威である「酒博士」坂口謹一郎の、酒をめぐる軽妙酒脱なエッセイと、500首に及ぶ短歌。愛酒の世界を語り、酔の境地を示す、坂ロイズムの集大成。「世界の酒の旅」「パリの生活から」「玩物喪志」ほかを収める歌エッセイ集『愛酒樂酔』に、「私の履歴書」を併録。 ◎まことに人間にとって酒は不思議な「たべもの」である。迷えと知って神が与えたものであろうか。<本文より>
電子あり
水晶幻想/禽獣
水晶幻想/禽獣
著:川端 康成,解説:高橋 英夫
講談社文芸文庫
鏡の前の女の意識の流れ、性をめぐる自由奔放な空想と溢れるイメージの連鎖を結晶化させた実験小説「水晶幻想」。亡き恋人を慕い〈輪廻転生〉を想う女の独白「抒情歌」。生きものの死を冷厳に見据える“虚無”の視線「禽獣」。「青い海黒い海」「春景色」「死者の書」「それを見た人達」「散りぬるを」等、前衛的手法のみられる初期短篇8篇。“死への強い憧憬”を底流とした著者の文学の原点。
まぼろしの記 虫も樹も
まぼろしの記 虫も樹も
著:尾崎 一雄,解説:中野 孝次
講談社文芸文庫
父祖の地小田原下曽我で、病を克服し、自然と交流する日々。野間文芸賞受賞の名作「まぼろしの記」をはじめとする、尾崎一雄最晩年の代表的中短篇、「春の色」「退職の願い」「朝の焚火」「虫も樹も」「花ぐもり」「梅雨あけ」、さらに、「楠ノ木の箱」計8篇を収録。危うい“生”と理不尽な“死”を、透徹した静寂さの上に浮彫りにした深い感動を呼ぶ名篇。
電子あり
寝園
寝園
著:横光 利一,解説:秋山 駿
講談社文芸文庫
持ち株の暴落で事業に失敗し破産しかかった青年梶と、その梶を強く慕う奈奈江や、幾組かの男女の“愛”の葛藤。伊豆山中の狩猟の最中に起きた突発的傷害事件への発展。「純文学にして通俗小説」なる“純枠小説”を自ら実践し、恋愛における現代人の“危機意識”を緻密な文体で追った「紋章」「家族会議」等の先駆となった画期的名篇。
電子あり
チャ-ルズ・ラム伝
チャ-ルズ・ラム伝
著:福原 麟太郎
講談社文芸文庫
不朽の名著『エリア随筆集』の著者・ラム。著名な文壇人であり一市井人として生きたロンドン子ラム、その陰翳に富む高雅な人生を深い愛情と共に辿る。若き日に“ラム”に出会い、“ラム”に傾倒した著者の豊かで繊細な文学的感性と学才を懸けて、ラムの生涯を“人間の運命の物語”として鮮やかに捉えた評伝文学の最高傑作。読売文学賞受賞。
朝霧・青電車その他
朝霧・青電車その他
著:永井 龍男,解説:中野 孝次
講談社文芸文庫
16歳での懸賞小説当選作(「活版屋の話」)。18歳の懸賞脚本当選作(「出産」)。19歳の時の文壇出世作「黒い御飯」。早熟の才能明らかな最初期から、第2回横光賞「朝霧」や、「花火」「青電車」に到る、永井龍男の短篇の精髄。「往来」「胡桃割り」「ある夏まで」など、14篇の秀作群。後年の短篇の冴えを予感する短篇世界!
電子あり
明恵上人
明恵上人
著:白洲 正子
講談社文芸文庫
――師に辞し衆に違して思を山林に懸く(「高山寺文書」)山中に一人修行することを望んだ高山寺開祖・高僧明恵。能・書画に造詣深い著者が、「明恵上人樹上座禅像」に出逢い、自然の中に没入しきって気魄に満ちた、強靱な人間の美しい姿に魅せられ、その生きざまを追究。平明静謐な文章で、見事に綴る紀行エッセイ。
日本のルネッサンス人
日本のルネッサンス人
著:花田 清輝
講談社文芸文庫
永徳「洛中洛外図」や光悦“鷹が峯”をめぐる様々な流説等を媒介にして、中世から近代への転形期を美事生き抜いた、日本のルネッサンス人に、転形期特有の“普遍性”を発見し、誰よりも激しく現在を、更に未来を生きる“原点”を追求する花田清輝の豊かな歴史感覚、国際感覚、秀抜なレトリック。若き日の「復興期の精神」を成熟させた批評精神の凱旋!
電子あり
鯨の死滅する日
鯨の死滅する日
著:大江 健三郎
講談社文芸文庫
《滅びるにしても、いわば抵抗しつつ滅びるのでなければならず、終末観的な想像力の発揮のうちにこそ、人間の最終の希望はあらわれるのである。》との甦りへの願い。戦後、22歳で作家となり、今36歳となった著者は1970年の時代状況と文学に対し真摯な発言を続ける。己れの文学の軌跡15年を“総括”し、新たな再生を期した3部作「全エッセイ集」の最終巻。文芸文庫版定本。
落花・蜃気楼・霊薬十二神丹
落花・蜃気楼・霊薬十二神丹
著:石川 淳
講談社文芸文庫
闊達自在、卓抜典雅な文章で貫ぬかれた揺るぎない批評眼、飛翔する想像力。世相を鋭く風刺し、幻想的世界と現実とが交錯する石川文学中期作品群7篇。──かつて東北の鄙びた温泉場で、俄に腹痛におそわれた〈わたし〉が、土地に伝わる丸薬でそれを治した話に始まる「霊薬十二神丹」ほか、「落花」「近松」「今はむかし」「蜃気楼」「かくしごと」「狐の生肝」を収録。
電子あり
白鳥の歌・貝の音
白鳥の歌・貝の音
著:井伏 鱒二,装丁:菊地 信義
講談社文芸文庫
女形の旅役者の悲哀をチェーホフの同名の戯曲の哀愁に重ね、二日酔の「私」の気分を巧みに描く「白鳥の歌」。近視の武士の苦衷を、武張った信玄、謙信の姿とともに描く、哀しくもおかしい「貝の音」。ほかに「下足番」「開墾村の与作」など。殉死の弊風、封建の桎梏、人間の嗜好・執着、浮世の儚さ――人の世の悲喜劇への、常に変らぬ確かな眼差と限りない愛情が醸す、井伏鱒二の豊穣の世界。追随を許さぬ精妙な文体の名作集。 女形の旅役者の悲哀をチェーホフの同名の戯曲の哀愁に重ね、二日酔の“私”の気分を巧みに描く「白鳥の歌」。近視の武士の苦衷を、武張った信玄、謙信の姿とともに描く哀しくもおかしい「貝の音」。「下足番」「開墾村の与作」等。殉死の弊風、封建の桎梏、人間の嗜好・執着、浮世の儚さ──人の世の悲喜劇への常に変らぬ確かな眼差と限りない愛情が醸す、井伏鱒二の豊穣の世界。
電子あり
わが塔はそこに立つ
わが塔はそこに立つ
著:野間 宏
講談社文芸文庫
親鸞と時代の社会主義思想に激しく引き裂かれ、自らの底深くに敢えて矛盾を取り込み、超えようと苦闘する、主人公・海塚草一の青春の葛藤。昭和10年代・京大時代を背景に、性・宗教・文学・社会――混沌の坩堝の中の青春を描いた、自伝的長篇小説。〈全体小説理論〉の実践化として、『青年の環』へとひきつがれてゆく問題作。
電子あり