講談社文芸文庫作品一覧

私のチェ-ホフ
講談社文芸文庫
「人間が生きていくことの、喜びとつらさとを、そしてまた、いかにささやかなものであれ、われわれの生をどこかで、支えている真実」と勇気とを教えられた、という著者が、チェーホフの心のそよぎや魂の息吹に耳を澄ませつつひたすら作品の読みに徹して胸にひびく感動の波紋を綴る。円熟した心境に達した著者最晩年の長篇文芸エッセイ。野間文芸賞受賞。

不意の声
講談社文芸文庫
孤独な内奥の世界を追究。読売文学賞受賞の名篇ーー「チチキトク」の電報を受け取った時、女は父の幻影を見た。父の死後に結婚した夫とは、諍が絶えず、しばしば現われる父の霊に励まされながら、陰惨な殺人を重ねる。意識の底からつき上る、不気味な想念。愛憎渦巻く夫婦生活を背景に、現実と非現実の交錯する、妖しく孤独な内奥の世界を苛烈に描く衝撃作。読売文学賞受賞作品。

惜櫟荘主人 一つの岩波茂雄伝
講談社文芸文庫
「低くくらし、高く思う」を精神の支柱に据え、処女出版・漱石の『こゝろ』以来、本作りの全てに最高を求め、先見の明と強い信念で多くの優れた全集・叢書等を上梓、出版事業に激しく情熱を燃やした人間味豊かな岩波茂雄。17歳で入店以来“岩波文化”の黄金時代を共に築き上げ、互いに最も信頼しつつ、強烈な個性をぶつけあった著者が肌身を通して語る、追慕の情溢れる偉大な出版人の記録。

化粧
講談社文芸文庫
若き中上健次が、根の国・熊野の、闇と光、夢と現、死と生、聖と賤のはざまで漂泊する、若き囚われの魂の行脚を、多層な鮮烈なイメージに捉えようとして懸命に疾走する。“物語”回復という大きなテーマに敢えて挑戦する力業。短篇連作『熊野集』、秀作『枯木灘』に繋ぐ、清新な15の力篇。

二葉亭四迷伝
講談社文芸文庫
明治の黎明期に、近代小説の先駆的な作品『浮雲』を書き、「言文一致体」を創出した文豪・二葉亭四迷の、46年の悲劇的な生涯を、全17章から成る緻密な文体で追う。最終章は、ロシアからの帰途の船上で客死する記述に終り、著者「あとがき」に、「これは彼の生活と時代を再現することを必ずしも目的としたのでなく、伝記の形をとった文学批評だ」とある。評伝文学の古典的名著。読売文学賞受賞作品。

帰らざる夏
講談社文芸文庫
省治は、時代の要請や陸軍将校の従兄への憧れなどから100人に1人の難関を突破し陸軍幼年学校へ入学する。日々繰返される過酷な修練に耐え、皇国の不滅を信じ、鉄壁の軍国思想を培うが、敗戦。〈聖戦〉を信じた心は引裂かれ玉音放送を否定、大混乱の只中で〈義〉に殉じ自決。戦時下の特異な青春の苦悩を鮮烈に描いた力作長篇。谷崎潤一郎賞受賞。

愛について
講談社文芸文庫
“この道はどこへ行くんでしょうか”――偶然の邂逅から始まる若い男女の愛。その2年後の妻の謎の事故死。『武蔵野夫人』『花影』で新しい“愛のかたち”を文学史上に画した著者が、現代の市民社会とその風俗の中に、男と女、家庭、“愛の死と再生”のテーマを“連環”する10章で問う。
“この道はどこへ行くんでしょうか”――偶然の邂逅から始まる若い男女の愛。その2年後の妻の謎の事故死。『武蔵野夫人』『花影』で新しい“愛のかたち”を文学史上に画した著者が、現代の市民社会とその風俗の中に、男と女、家庭、“愛の死と再生”のテーマを“連環”する10章で問う。『レイテ戦記』の著者・スタンダリアン大岡昇平の明晰な認識と意志的試みで構築する独創的恋愛小説。

思い出すままに
講談社文芸文庫
著者が好んだアメリカの探偵小説家エリオット・ポール、ワットーの絵より始め、明治の日本、中世のヨーロッパ、中国へと時間と空間を自在に行き来しつつ、人間と暮し、自然と環境、風情、豊かさ、夢みることへの考察、歴史への認識等々を“思い出すまま”自在に綴る12章。人間・文明へのゆるぎなき信念と独自の史観が渾然と融合する吉田健一の批評世界。著者生前最後の著書。

やすらかに今はねむり給え・道
講談社文芸文庫
昭和20年5月から原爆投下の8月9日までの日々――長崎の兵器工場に動員された女学生たちの苛酷な青春一瞬の光にのまれ、理不尽に消えてしまった〈生〉記録をたずね事実を基に、綿密に綴った被爆体験。谷崎潤一郎賞受賞作「やすらかに今はねむり給え」のほか恩師・友人たちの最期を鮮烈に描いた「道」を収録。鎮魂の思いをこめた林京子の原点。

詩礼伝家
講談社文芸文庫
哀惜の想いで描いた恩師・阿藤伯海への鎮魂歌ーー川端康成とは東大同級で、上田敏令嬢への恋に破れたためか、生涯独身の漢詩人・阿藤伯海。法政教授時代は斎藤磯雄に、太平洋戦争下の昭和16年から19年まで旧制一高教授時代は、著者・清岡を初め、若き三重野日銀総裁、高木中央大学学長らに、多大な影響を与えた、高雅な人格と美意識を生きた文学者。痛切な哀惜の想いで描かれた、清岡卓行の恩師への「鎮魂歌」。

一期一会・さくらの花
講談社文芸文庫
生みの母の出現に激しく揺れる少女の心を描く「二月」。病死した妹への鎮魂の賦「さくらの花」(芸術選奨受賞)。四国巡礼の途次入水した八世市川団蔵の死に人生老残の哀しみを見る「一期一会」(読売文学賞・芸術院賞)。生涯にわたって志賀直哉を人生の師として仰ぎ精進をし、地味ながらもたおやかな文学精神を持した女流作家の処女短篇「二月」と深い感銘の代表作、計8篇を収録。

父を売る子・心象風景
講談社文芸文庫
「父を売る子」他、肉親を仮借なく批判した《私小説》を執筆、一族の血の宿命からの脱却をギリシャ的神話世界に求めた異色の作家牧野信一。処女作「爪」を島崎藤村に激賞され、空想と現実の狭間で苦悩し自死した先駆的夭折作家の代表作「爪」「熱海へ」「スプリングコート」「父の百カ日前後」「村のストア派」「酒盗人」「泉岳寺附近」「裸虫抄」「淡雪」「熱海線私語」および表題作、計12篇を収録。

あけびの花
講談社文芸文庫
昭和。戦前・戦中の強権の下での苦闘の生活の中に生まれた「鬼子母神そばの家の人」「山猫その他」「遺伝」「残りの年齢」、戦後の自由の光の中で書かれた「木の名、鳥の名」「平泉 金色堂 中尊寺」「今日ただいまのところ」「遠野瞥見」阿佐ヶ谷文士たち、碩学・吉川幸次郎らが絶讃しやまない中野重治の強靱な精神と清新な詩心が生んだ随筆世界。

美術の眺め
講談社文芸文庫
洋の東西の芸術の真髄を見極め、その2つを渾然と融合させ、独創的芸術論を展開する「虚実論」「美術の眺め」「静物画法」「南画論」「幻想と現実」他、知的ユーモア溢れる「笑い話」「狸翁一口噺」等、人生と自然、芸術への深い思考と、ひたむきな情熱に貫かれた70篇の随想。凛乎として97年の生涯を全うとうした類い稀な文人画家中川一政、若き日の気韻生動の第1エッセイ集。

当世凡人伝
講談社文芸文庫
なんの変哲もないありふれた人生。独得の語り口で、あるがままに描き出し、したたかに生きる平凡な人々の日常に滲む哀しみを、鮮やかに浮彫りにする、富岡多恵子の傑作短篇集。川端康成文学賞受賞「立切れ」ほか、地方都市で妻と二人ひっそりと暮す退官した警視・松尾文平に纏る「薬のひき出し」、「名前」「ワンダーランド」「幼友達」「富士山の見える家」など12篇の傑作短篇を収録。

愛の挨拶・馬車・純粋小説論
講談社文芸文庫
人間存在の危うさと脆さを衝く小説「マルクスの審判」、“国語との不逞極まる血戦”が生んだ新感覚派小説の「頭および腹」とそれらを支える文芸評論「新感覚論」、1幕もの戯曲「幸福を計る機械」および「愛の挨拶」、新心理主義小説「機械」と、その後の評論「純粋小説論」等。昭和の文学の常に最前衛として時代に斬り込み時代と格闘した作家の初期・中期短篇、戯曲、評論を1冊に集成。

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ
講談社文芸文庫
ある時は“コケティッシュ”な女、ある時は赤い三年子の金魚。犀星の理想の“女ひと”の結晶・変幻自在の金魚と老作家の会話で構築する艶やかな超現実主義的小説「蜜のあわれ」。凄絶なガン闘病記「われはうたえどもやぶれかぶれ」、自己の終焉をみつめた遺作詩「老いたるえびのうた」等、犀星の多面的文学世界全てを溶融した鮮やかな達成。生涯最高の活動期ともいうべき晩年の名作5篇を収録。

千年・あの夏
講談社文芸文庫
鋭く周密な観察で幼年期をつづる「千年」、漠然として白く燃え上り、落着の悪い記憶の断片にまとわる不安・恐怖・なつかしさを語る「桃」、心弱い父が美しく描かれ、父と子の屈折した心情あふれる「父と子の夜」など、仄暗く深い記憶の彼方の幼年時代を、瑞々しく精緻に描出する、阿部昭の秀作群。毎日出版文化賞受賞短篇集『千年』に「あの夏」「贈り物」を併録。
鋭く周密な観察で幼年期を綴る「千年」、漠然として白く燃え上り落着の悪い記憶の断片に纏る不安・恐怖・なつかしさを語る「桃」、心弱い父が美しく描かれ父と子の屈折した心情溢れる「父と子の夜」など、仄暗く深い記憶の彼方の幼年時代を、瑞々しく精緻に描出する阿部昭の秀作群。毎日出版文化賞受賞短篇集「千年」に「あの夏」「贈り物」を併録。

荒魂
講談社文芸文庫
荒ぶる魂、生まれながらにして、生と死を抱え持つ佐太。この存在を無気味な背景に展開される“変革”の劇。精神の逼塞の根に仕掛けられた爆薬のような強烈な“発条”。初期世界からの独自な精神の運動を持続し続けた、石川淳の『白頭吟』から『狂風記』の間を繁ぐ白眉の長篇。

生々流転
講談社文芸文庫
乞食という出自を持つ父、しかも正妻でない妻の若い娘。女性体操家とその影響下に育った男と主人公との三角関係。それを逃れるために住んだ裕福な青年との風変わりな同居。関係の捩れを解くため男と同行した行先での体操家の失踪。宿命的な乞食としての流浪の月日。そして女は……。波瀾万丈と言うべき劇的生涯の下で流れる水、川、そして海。女性が自ら主体として生きる像を描く画期的、先駆的長篇。