講談社文芸文庫作品一覧

白鳥の歌・貝の音
講談社文芸文庫
女形の旅役者の悲哀をチェーホフの同名の戯曲の哀愁に重ね、二日酔の「私」の気分を巧みに描く「白鳥の歌」。近視の武士の苦衷を、武張った信玄、謙信の姿とともに描く、哀しくもおかしい「貝の音」。ほかに「下足番」「開墾村の与作」など。殉死の弊風、封建の桎梏、人間の嗜好・執着、浮世の儚さ――人の世の悲喜劇への、常に変らぬ確かな眼差と限りない愛情が醸す、井伏鱒二の豊穣の世界。追随を許さぬ精妙な文体の名作集。
女形の旅役者の悲哀をチェーホフの同名の戯曲の哀愁に重ね、二日酔の“私”の気分を巧みに描く「白鳥の歌」。近視の武士の苦衷を、武張った信玄、謙信の姿とともに描く哀しくもおかしい「貝の音」。「下足番」「開墾村の与作」等。殉死の弊風、封建の桎梏、人間の嗜好・執着、浮世の儚さ──人の世の悲喜劇への常に変らぬ確かな眼差と限りない愛情が醸す、井伏鱒二の豊穣の世界。

わが塔はそこに立つ
講談社文芸文庫
親鸞と時代の社会主義思想に激しく引き裂かれ、自らの底深くに敢えて矛盾を取り込み、超えようと苦闘する、主人公・海塚草一の青春の葛藤。昭和10年代・京大時代を背景に、性・宗教・文学・社会――混沌の坩堝の中の青春を描いた、自伝的長篇小説。〈全体小説理論〉の実践化として、『青年の環』へとひきつがれてゆく問題作。

先師先人
講談社文芸文庫
激しい雨の中、玉川上水に身投げしたとの急報に、幾日もその跡を捜してさ迷った回想の記「太宰治の死」。夭折したその才を惜しむ「同門──高橋和巳のこと少し」。多くの優れた文人たちの深い知遇を得た出版人の著者が、若き日に巡り合った〈人生の師〉竹内勝太郎をはじめ〈学問の師〉吉川幸次郎と田辺元、武田泰淳、三好達治他、その精神を慕う12人の〈先師先人〉の肖像を鮮烈に彫む。

はまべのうた・ロング・ロング・アゴウ
講談社文芸文庫
戦争末期の離島での“特攻”命令を待つ若き特攻隊長と若い島の娘でもある女先生の、苛烈な非日常の中の“愛”。処女作「はまべのうた」から「島の果て」「徳之島航海記」「アスファルトと蜘蛛の子ら」を経、昭和24年末の名篇「ロング・ロング・アゴウ」まで、島尾敏雄初期秀作を収録。

―彼岸花―追憶三十三人
講談社文芸文庫
その生涯を通して、優れた才気と誠意で学者、芸術家ほか多彩な人々の信頼を得、驚嘆すべき多くの出会いと豊かな交流を持った名編集者・小林勇。幸田露伴、寺田寅彦、小宮豊隆、安倍能成、野呂栄太郎、名取洋之助、中谷宇吉郎、斎藤茂吉、小泉信三、渋沢敬三等々、一筋に生きた人々の美しさ、勁さ弱さを尊重し、愛惜する。33人の偉大で慕わしい人々への鮮やかなレクイエム。

わが切抜帖より・昔の東京
講談社文芸文庫
新聞・雑誌などの記事や文章の切抜き、それらへの感想、ささやかな集積が、やがて永井龍男の美学と結びつき、精妙な確かなある空間と人生を静かに形成して行く。読売文学賞受賞の「わが切抜帖より」と、著者がかぎりなく愛する“昔の”東京にかかわる随筆群を併せて収録する、“昔の”東京の“背骨”と呼ぶべき1巻。

紺野機業場
講談社文芸文庫
芸術選奨受賞の聞き書長篇。淡々と綴る浄福の世界ーー北陸の海端の、さびしい河口の町。快活で研究心に富み、情に厚く飾り気のない人柄の、小さな織物工場を営む老主人・紺野友次。家族の消息やありふれた日常の中に、年中行事、信仰、習俗などにささえられた、100年にも及ぶ一族の歴史が描かれ、懐かしい日本の原風景が刻される。地方に生活する人々の真情を淡々と綴る浄福の世界。芸術選奨受賞作品。

少年
講談社文芸文庫
“私のその後の精神の傾斜を決定している”と著者のいうキリスト教への一途な帰依。その翌年の棄教、恋愛体験。鋭敏、早熟な少年の自我・性・文学への目醒め──。東京・渋谷という街の中に少年の「私」を埋没させ文学的青春時代に至るまでの“長い準備時代”を文献、知人の証言等で確かめ訂正しつつ、回帰する。『幼年』に続く、著者自ら“本篇”と記す、清冽な自伝。

持続する志
講談社文芸文庫
「被爆者の自己救済行動」「沖縄の戦後世代」他ヒロシマ、沖縄、核基地、憲法についての諸エッセイと、「安倍公房案内」「中野重治の『梨の花』の文章」等戦後文学への豊かな考察を示す作家・作品論。全55篇。30代に入った著者は、己れの存在の根元に突きささる鋭い痛みの感覚をもって状況への誠実な発言を続ける。1960年代後半、『厳粛な綱渡り』後の第2エッセイ集。

またふたたびの道・砧をうつ女
講談社文芸文庫
日本の敗戦による、サハリンからの辛うじての帰国。劇変する状況、分断された祖国、一家離散の家族の悲劇。群像新人賞受賞の出世作「またふたたびの道」および、母を描く感動の名作で芥川賞受賞作「砧をうつ女」、父を描く「人面の大岩」。インターナショナルな視座から時代に正面し、たじろがぬ、常に真摯に力走する、在日作家・李恢成の初期秀作群。

三文紳士
講談社文芸文庫
肌身を通して日本とヨーロッパを識り、文学と人生に豊かでみずみずしい鑑識眼を持つ吉田健一。濃やかな交友を通じて、その文学と人間性に温かに迫る優れた人物評論「仲間」「或る時代の横光利一」「中村光夫」等。戦後世相の現実と陰影を精妙なウィットとユーモアに包む「乞食時代」「貧乏物語」「家を建てる話」他。著者40歳代のエッセイを中心に、自ら“定本”として編成した自伝風世界。

父の帽子
講談社文芸文庫
東京・駒込千駄木観潮楼。森鴎外の長女として生まれた著者は、父鴎外の愛を一身に受けて成長する。日常の中の小さな出来事を題材にして鴎外に纏わる様々なこと、母のことなど、半生の想い出を繊細鋭利な筆致で見事に記す回想記。「父の帽子」「『半日』」「明舟町の家」「父と私」「晩年の母」「夢」ほか16篇収録。日本エッセイストクラブ賞受賞。

阿久正の話
講談社文芸文庫
シベリヤ捕虜体験を経て、戦後の日本に帰還した作家は、戦場での生と死を見詰めると等質の同じ澄んだ眼線から街の隅に息づく庶民の1人ひとりの生きる姿を凝視する。平凡極まる無名の生活者、阿久正(あくただし)の中に、結晶の如く光る生の真実を淡々と語っていく「阿久正の話」、ある復員者の戦地回想「林の中の空地」他5篇を収録。『鶴』『シベリヤ物語』につぐ、長谷川四郎第3小説集。

詩文選
講談社文芸文庫
単行本未収録作品を中心とした厳選の珠玉27篇。36歳にして初めて日本語で書いた「歴代名画記」評、時代の転換期に呈する「外国研究の意義と方法」「芻議一篇」。“体験”からその学問の方法を世界的と評する「本居宣長」。彼こそ中国独自の文学と敬愛する杜甫の「杜少陵月夜詩釈」等学問・芸術の世界を自由自在に思索する著者のその思惟、姿勢、博識を顕示する作品を発表年代順に配列。

恥部の思想
講談社文芸文庫
低俗視されていた映画などB級文化の優性の発見ーー単行本刊行時「恥部を軽蔑するな! 恥部こそ生産的だ!」という挑発的な名コピーで、活字文化信仰を震撼させた快著。映画、演劇、ミュージカル、演歌、浪曲などを低俗と見なす風潮に敢えて抵抗し、溌剌とした批評精神と快適極まる説得力で、「B級文化」を「合法化」した先駆的なエッセイ群。常に既成価値を転倒し、未来性を追求する著者の強靱な力業。

厳粛な綱渡り
講談社文芸文庫
敗戦後の炎天下で聞いた“天皇の声”。少年の日々への回想。モラルとして新憲法を己れの核に据えた状況への発言から、文学、芸術、社会批評等の戦後世代作家の熱きメッセージ。「死者の奢り」「飼育」(芥川賞受賞)などの衝撃作で“学生作家”として’50年代末に鮮烈に登場した作家が、長編「芽むしり仔撃ち」「われらの時代」他執筆に向けて全力疾駆しつつ書き綴った、著者20代の第1エッセイ集。

黄金伝説・雪のイヴ
講談社文芸文庫
常に時代と対峙し、辛辣な批判精神と強烈な抵抗精神で戦い続けた著者の、文学的出発期の作品「鬼火」「ある午後の風景」「長助の災難」「桑の木の話」。行方不明の女を捜し彷徨することで生を繋ぐ“わたし”が、娼婦となった女と再会――敗戦後の混乱を鋭く凝視し絶望を再生に転化させる新たな出発を示した「黄金伝説」、他に「無尽灯」「雅歌」「雪のイヴ」など収録10篇。

上海
講談社文芸文庫
1925年、中国・上海で起きた反日民族運動を背景に、そこに住み、浮遊し彷徨する1人の日本人の苦悩を描く。死を想う日々、ダンスホールの踊子や湯女との接触。中国共産党の女性闘士芳秋蘭との劇的な邂逅と別れ。視覚・心理両面から作中人物を追う斬新な文体により不穏な戦争前夜の国際都市上海の深い息づかいを伝える。昭和初期新感覚派文学を代表する、先駆的都会小説。

さまざまな青春
講談社文芸文庫
鋭い分析力、秀抜な作品鑑賞力、戦後文学の理論的支柱となり、常に時代を背負い続けた批評家――平野謙。生涯のテーマ“芸術と実生活”“政治と文学”を、近代文学史にのぼせ、明治・大正・昭和にわたる作家論を展開、その歴史的変遷をたどる。「坪内逍遙・二葉亭四迷・森鴎外」「真山青果」「井上良雄」「伊藤整」ほか14篇。全集初収録以来、はじめての単独刊行。野間文芸賞受賞。

あざみの衣
講談社文芸文庫
深い知性、鋭い感性とエスプリで自由に捉えるバイロン、シェイクスピア、ゲーテ、ロレンス、エリオット、陶淵明、杜甫、芭蕉、蕪村……。簡明に綴る東西の文学・詩論から鮮やかに浮かび上がる西脇詩学の豊かな世界。『あざみの衣』収録エッセイを核に、単行本未収録エッセイ群「神について」「イギリス文学の笑い」「ふるさと」「私の画歴」「禅学」「萩原朔太郎の魂」等20篇を加えた文庫版新編成。