文芸(単行本)作品一覧

影十手活殺帖
文芸(単行本)
遂に出た、新ヒーロー!
逃げ来たる女の背後にひそむ謎。青年和三郎の正義感と野村市助のユニークな眼差が光る新しい時代ミステリーの秀作!
石段の尽きるところに、樟の大樹が生えている。その樹下に佇む頬被りの女のもとへ、どうやら男は歩をすすめているようだ。男が石段をのぼりきると、女は頬被りをとった。
投島田の髷に縁取られたおもては、なかなかに美しいが、どこか妖しげに崩れたところがある。堅気の女ではあるまい。
「小春ゆうのは、あんさんか」
男の口調は苛立っている。
「よう来てくれはりましたなあ、紙治はん」
小春とよばれた女は、頭をさげた。
「馴れ馴れしゅうよばんといてんか。こっちは、あんさんがどこの何者んや知らんのさかいな」
「北の新地の女におます」――「入聟菊之丞」から

風花
文芸(単行本)
乱歩賞受賞の気鋭が描く現代の愛と生の意味リストラにあったダメ男とピンクサロンの女がひょんなことから一緒に北海道へ行くことになり、その旅の中で二人が見つけたものは?乱歩賞作家の恋愛小説の佳品。

宙返り(下)
文芸(単行本)
大江健三郎は、沈黙して「新しい人」の思想を探ってきた。
棄教ののち、リーダーが「地獄降り」を共にした腹心はテロに倒れ、教会の各セクトそれぞれの企ての進むなか、四国の森のなかに根拠地は作られた。……悲劇がすべて終った後、しかし、次のようにいう新しい世代は生き続ける。──(たとえ神なしでも)私たちの教会は、「魂のこと」をする場所です。
「ひとり少年時に聞いた「神」の声を追いもとめる若者も、死の前に生きなおすことを企てる初老の男も、自分だと思う」──作者

宙返り(上)
文芸(単行本)
ノーベル賞から5年、大江健三郎、小説復帰の大作。
いったん「神」と信者たちをコケにした、棄教者のリーダーが戻ってきた。脇腹に「聖痕」をきざんで。待ち受ける急進派は、「悔い改め」を社会にもとめる構想をたもち、祈り続けてきた女たちは、集団での昇天を意図する。教会は、再建されうるのか?
「世紀末の闇の深さ、希求する若い魂の激しさ。それをリアルに、明快に書くことをねがった」──作者

冬の伽藍
文芸(単行本)
死の影をまとって巡り会った男と女が辿る熱い愛の軌跡。
煉獄(れんごく)の中で私は天上の果実を口に含んでいた。
2人の男は悠子を純潔と淫蕩の狭間に追いつめた。死の影をまとって巡り会った男と女が辿る愛の熱い軌跡。

特派員が死んだ夏
文芸(単行本)
──追う者、追われる者たちへの熱い思い、いとおしさが小説というかたちで爆発した。
文句なしに面白い──話題の現役新聞記者による本格サスペンス小説!
東西新聞の中東特派員、滝岡研一が刺殺された。凶器はアラブの特殊なナイフ。特ダネを追っていた滝岡の前に立ちはだかったのは誰か?新聞記者、秋沢聖一郎は後輩の死の真相を突き止めるべく、徹底取材を続ける。権力闘争の闇と、人間の愛憎のなかに見つけた真実とは?現役新聞記者ならではの情報力と構成力で描く、本格サスペンス!

ザ・ベストミステリ-ズ1999
文芸(単行本)
日本で唯一最高の短篇ミステリー傑作選
1948年から毎年刊行されている決定版アンソロジー。’98年に小説誌等に発表された約800篇もの短篇ミステリーの中から、日本推理作家協会が厳正な審査を経て選んだ20の傑作を、お楽しみ下さい。

ひとたびはポプラに臥す(5)
文芸(単行本)
待望の長篇紀行エッセイ第5弾
熱砂に人生の足跡を刻む宮本輝のシルクロード畢生の旅はクライマックスへ
「砂のうねりは、荒海の波のようだった。……私の足跡が後方につづいている。私は自分の足跡を、生まれて初めてみたような気がした。それは足跡ではなく、私そのものであった」──生きて帰らざる海・タクラマカンの静寂なる砂上に生の軌跡を重ね、旅は灼熱のゴビ灘から白峰のカラコルムへ。標高5千メートルのクンジュラーブ峠を越えてパキスタンに至る。豊富な写真とともに辿る「宮本輝のシルクロード」

エッフェル塔の黒猫
文芸(単行本)
奇行と異端の作曲家サティ、世紀末パリの恋
サティの音楽の秘密を解き明かす長編小説。
前世紀末のパリ。ロートレック、ユトリロ、ヴァラドンら実在の人物との交流を描き、現代音楽に影響を及ぼしたサティの秘密に迫る、芥川賞作家渾身の長篇小説。

使徒的人間―カ-ル・バルト
文芸(単行本)
宇宙の広がりの中に置かれた人類の目標を予見する言葉。
──気鋭の文芸評論家、渾身の快著──
カール・バルトが、生涯自らの仕事机の正面に掲げた十字架像。画家グリューネヴァルトの描く、ヨハネ像のたくましく指さしている姿のわきに、「彼は必ず栄え、わたしは衰える」の文字が刻まれている。これこそ、使徒的人間の、ヨハネが指さしている方に対する立場である。すなわち、重大なのは、対象である神そのものであり、それを語り、指さす者ではない。これが聖書の“批評的”明察である。

天池
文芸(単行本)
現代文学の秀作!3人姉妹、新しい神話の誕生
静謐な秋の湖にとどろく雷鳴。魂の成熟と再生、思寵の美しさ!
男は水際の砂場に立っていた。風はないのに水際にはひっそりと漣が寄せている。異常なほど透明な水。だが湖の表面は両側の山陰部分だけを除いて、一面赤っぽい黄色に、ほとんど金色に染まっている。その光のきらめきの中に、女は後姿だけ見せていた。肩の広い長身の後姿が、影絵のように水から浮き出している。
女がいまここに連れてきてくれたことよりも、前もって何も話さなかったことに、そしていまも黙って離れていることに、男は女の配慮を、彼女もこの世のものならぬこの光景を大切に思っていることを感じた。魂が不意に真空に哂される思いだ。
知覚だけが異様に冴えて、感情の領域より一段下、普段は静まり返っている体の芯に近い暗い領域がひとりでに疼いて、自然に体が内側から開いてくる。──(本文から)

京都で、本さがし
文芸(単行本)
本さがしは自分さがし
さがしあてた本、めぐりあえた本、その愉しさが忘れられずに、あしたもまた、京都で、本さがし
ありふれているが京都は好きである。旅先で古本屋に入るのは楽しみだ、私は本来そういう人種である。旅というほどでなくても、どこか出先ではじめての店を見つけるのは楽しい。何か思いがけない本に出会えそうな期待がふくらむからだ。でも頭を冷やして考えると、旅先出先であわただしく棚に眼を走らせて掘出物に当る確率は、行きつけの店よりも低いはずだ。とすると、本さがしは悦びのためにあるので、確率のためにあるのではないのだろう。──本文より

ファイナル・ラウンド
文芸(単行本)
男の人生は闘いだ
昭和31年、慶応高校ボクシング部で共に闘った5人の仲間。戦後の光と闇を生き抜いた男たちに、いま人生最後の闘いが始まる!書下ろし長篇小説
ファイナル・ラウンドとは、最終回、つまりボクシングの試合の最後のラウンドのことです。ファイナル・ラウンドのゴングが鳴れば、泣いても笑ってもあと3分間で、試合は終ってしまいます。
そして僕は、人生も同じだと思ったのです。途中で「しまった」と思っても、その少し前からやり直す訳にはいきません。しかし、最終ラウンド、ファイナル・ラウンドの終了ゴングが鳴るまでは、どんなに負けていてもチャンスは残っているのです。
はたしてこの小説の5人の主人公たちは、どんな人生のファイナル・ラウンドを、闘うのでしょうか。──著者

双眼
文芸(単行本)
“十兵衛神話”に記念すべき1頁が加わった。
善と悪、栄達と没落、剣術指南と隠密行──対立する2つの世界を、隻眼(せきがん)ゆえに見据えることのできた柳生十兵衛の、兵法者への道を活写する書下ろし長編小説。
驚異的な力量をもった若手女流作家の誕生。

臨安水滸伝
文芸(単行本)
逃げる猫と岳飛軍の遺児の運命は?胸のすく痛快武侠活劇の秀作。
桂花かおる港市臨安(杭州)の二貴公子。巨魁秦檜(しんかい)に挑む!
臨安は刺激の強い街だった。白日賊といわれる詐欺や盗賊が常に横行して、扇情的な話題には事欠かなかった。「猫を、外へ出すんじゃないよ。絶対に、出すんじゃないよ」
その老人は、毎朝家を出る時に、かならず奥に向かってそう念をおした。
杭州が臨安と呼ばれるようになってしばらくたつが、住宅事情は悪くなるばかりで、その日暮しの庶民が城内に一軒家を持つなど、夢のまた夢。その老人も数階建ての家の1階の一部を借り、妻とふたりで暮していた。最初、同居人たちはその女を、老人の娘だと思っていた。それほど年齢が離れていたのだが、狭い家の内のこと、ふたりの会話は自然にはいってくる。女が北から避難してくる途中、家族と生き別れ、老人に救われて妻になったということまで、ひと月たたないうちに、その家の全員が知るようになった。

翠子
文芸(単行本)
室町女人の鮮烈なる色身!
洛中洛外図誕生の瞬間!きららかに京の町屋へ奔り出た、高貴なる女人の生命感。室町ことばが鮮やかに躍動する秀作!
「さあ、お邸近くまで送りまらしょうずる」
(狩野)貞信(さだのぶ)は翠子を馬に抱きあげた。先ほどよりは息が合うようになっていた。
「そなたは、おそらく今様をお詠いなられまするのう」
「そのため、遊び女とつき合うておりまする」
「では、詠うてくれさしめ。私のために。女の盛りなるは……」
女の盛りなるは、十四五六歳廿三四とか、三十四五にし成りぬれば、紅葉の下葉に異ならず
朗々としてそれでいて哀切な声である。そっと胸をそらすと、あたたかい男の息づかいとともに、声が翠子の背なに添うて、消える。
この声は、私のもの。それは、おごりでも何でもなかった。
貴船川の川音が遠ざかる。鞍馬口へと、馬は足を早めた。

豆畑の昼
文芸(単行本)
幼なじみの男と女20年越の性愛を巡る物語
過去30年の時代の変遷と房総半島の地方都市の移り変わりを背景に、幼なじみの男と女の20年越の関係を、エロティシズム香る品位ある文体で描く傑作長編。
典雅な文体、清冽なエロス

スプ-トニクの恋人
文芸(単行本)
a weird love story
*【weird】
とても奇妙な、ミステリアスな、この世のものとは思えない、
22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。そして勢いをひとつまみもゆるめることなく大洋を吹きわたり、アンコールワットを無慈悲に崩し、インドの森を気の毒な一群の虎ごと熱で焼きつくし、ペルシャの砂漠の砂嵐となってどこかのエキゾチックな城塞都市をまるごとひとつ砂に埋もれさせてしまった。みごとに記念碑的な恋だった。恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。更につけ加えるなら、女性だった。それがすべてのものごとが始まった場所であり、(ほとんど)すべてのものごとが終わった場所だった。
●[スプートニク]
1957年10月4日、ソヴィエト連邦はカザフ共和国にあるバイコヌール宇宙基地から世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。直径58センチ、重さ83.6kg、地球を96分12秒で1周した。
翌月3日にはライカ犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げにも成功。宇宙空間に出た最初の生物となるが、衛星は回収されず、宇宙における生物研究の犠牲となった。――(「クロニック世界全史」講談社より)

ゼラブカからの招待状
文芸(単行本)
群像新人賞作家の初めての作品集
いつか出会う人々のことをもっと知りたい!
ポーランドの民主化運動やユーゴスラビアの紛争は遠い国の出来事に過ぎなかったのか?現代を生きる人々の国境を越えた内面のドラマ!

蝋涙
文芸(単行本)
ひそやかな想い自伝的作品集
自らの軌跡を重ねて生の深奥を描く名作7篇。
記憶の底にある雪の夜の出来事から甦る若かった頃。
あなたの涙はさみしくて……
死者への語りかけは、私自身への語りかけである。私は、ふたたび真珠に向かって語りかける。
――大ちゃん、これはあなたの涙。大きな大きな涙。涙の玉の中に蝋の雫が散らばってるわ。いいえ、あれは雪。雪の中を遠ざかって行く男女のうしろ姿が見えるわ。上背のあるひとが小柄な娘を背負っているようだわ。身勝手な娘で、あくる日には背負ってくれたひとをわすれてしまったんですけど、あの夜はそのひとを慕っていたのよ……。――本文より